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女神様の宝石箱11

父の書斎に行ったアルが一時間後、楽しそうに二人で書斎を出て来た時には、どんな魔法が掛かったのかと疑問が生じた。


「あぁ。ジュリア。私はアル殿を誤解していたようだよ。お前とアル殿の婚約を認めよう」

そう言って父は楽しそうにアルに笑いかけた。

どんな魔法を使ったのか?

疑問である。

大体『アル殿』って何?

キモいよ。

さっきの態度とは雲泥の差だよ。


高笑いする父の様子を見るように、公爵家嫡男が顔を出した。

「おお。エリック丁度良い。お前の未来の弟を紹介しよう」

兄のエリックは父の声に従う様に私達の方へと歩いて来る。

兄は第一王子の取り巻きの一人になる予定の攻略対象だ。

髪と瞳の色は私と同じだが、もの凄く優しい。

乙女ゲームの中では。


あの、ヒロインを妹の様に慈しむ姿はもう眼福もので、甘い言葉でキュンキュンいったっけ……。

でも、本当の妹には大分辛口だけどね。


思い出してから思うに、知らないって幸福な事だと思うんだ。

だって現実がこれだよ。


「はじめまして、ウエンズ公爵家の嫡男でエリック・ウエンズです」

そう言って手を差し伸べる。

「アルだ。宜しく」

アルはそう言うと兄の手を取り固く握手する。

「失礼だが、何処のご出身で?」

兄のその問い掛けに

「エリック。アル殿は記憶を無くされているらしい。その事については追々と思い出して頂こう」

父は寛大な振りをしてそう言うが、あの強欲の塊のような父が身元のはっきりしない男との婚約を許可するだろうか?

それに何故か滅茶苦茶よそ行きの言葉使い。

めっちゃ寒いし、怪しいよ。

そんな父を私達兄妹が胡乱気(うろんげ)に見たのは言うまでもない。


「しかし、困った事に来月からジュリアをエリックと同じ学園に入れる事で、既に国王とも話がついてしまっている。そうだ、アル殿も一緒に行かれては如何かな。丁度我が国の王子達も留学経験をしておられる。他国の文化を学ぶのも良い事ですぞ」

父の何気ない言葉に

「「他国の文化?」」

兄共々反応してしまった。

するとアルがコホンと咳払いする。

「どうやら私の覚えていた地名がこの国のものではないらしいと、父君は推察されたのだ」

もう父呼ばわりかよ。

気が早くないか?

そう思ってしまう。

「この国の王子達と勉学を共に出来るのも素晴らしい。是非ジュリアと共に通いたい」

「そうかそうか。アル殿にそう言って頂けるとは、ジュリアも女冥利に尽きると言うもの。良かったなジュリア」

満面の笑顔でそう答える父はもう別人である。

「夕食までまだ時間がある。今日は私が屋敷内を案内致しましょう。さぁどうぞ此方へ」

そう言いながら胡麻すりの様に父はアルにヘコヘコする。

そして、近くにいた執事に私の隣の部屋を用意する様に指示を出し、アルと二人でその場を去って行った。


「ジュリア。あのアルってヤツ何者だ?」

父のあり得ない豹変振りに兄の顔が険しい。

「私も知らないわよ」

そう言ってブンブンと頭を振る。

「お前。良く知りもしない相手と同衾したのか?」

呆れた様に兄が言うが

「どっ……同衾なんて……」

していたけど……。

「さっき侍従から聞いたよ。そんな(なり)で、もう男を(たら)し込んだのか、スゲーなお前」

そう、あの言葉の綺麗な甘々お兄様キャラの本性はこれだ。

「誑し込んでなんていないから」

はっきり言って口が悪い。

「だって、もうやったんだろう?」

あの甘々お兄様キャラから「やったんだろう」とか、そんな卑猥なセリフ……。

前世ではわりかし好きなキャラだっただけにショックですよ。

「まだキスしかしてないから」


……多分。


記憶がないから断言出来ないけど……。


でも、衣類の乱れもなかったし、アルは背中と脇腹の傷もさることながら発熱していたのだ、そんな体力ないと思う。


真っ赤になりながらそう言い捨てると、恥ずかしさのあまりその場を走り去ったのだ。

お読み頂きありがとうございます。

また読んで頂けたら幸いです。

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