処刑牧場 ~ 愛を見失った少女は1クリックで死ぬ~ (ハッピーエンド編)
※前作:
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前作で1クリックするとイスズちゃん死ぬので面白くないという指摘を受けまして、無理やりハッピーエンドになるように後ろを付け加えました。
ダンジョンからの帰り道、冒険者たちの話声が聞こえた。
彼ら冒険者たちは男性1人女性3人のパーティで、狩りがうまくいったのか上機嫌だった。
いわく。
「――経験値をあらかじめ稼いでおいで良かったぁ」
「オークなんて一撃だぜ。たまらねぇぜ……」
「あぁ、処刑牧場か……。あれは良かったな。クリック一つでばばんばーんと」
「たったそれだけで最強になるんだからすごいよなぁ」
「ちょっと趣味が悪いけどねぇ~」
「しかも、特殊スキルも付くんだぜぇ。全パラメータ1.5倍とかちょーお得じゃん」
「しかしなぁ……」
(処刑牧場? なんだそれは……)
俺はソロの冒険者だ。仲間などいない。だからコソコソと活動する。
その会話を聞いたのも、ダンジョンの入り口のすぐそばで隠れるように体力回復をしていたから聞けたからに他ならない。
そうでもなければ、こんな場所で何の警戒もなく悠長に話などしているはずがないのだ。
彼らは俺に気づくこともなく立ち去っていく。
その背にはオークの肉や牙がバックから見えた。高額アイテムだ。正直うらやましい。
しかし、どこで彼らと俺との差が付いたのだろう。
確かに経験はダンジョンで積んだ。
しかし、それが身に付くかどうかは別だ。
警戒や隠身などの斥候系のスキルは身についている。
だが、それゆえに集団行動が苦手で、攻撃力は低く、連携などは壊滅的だ。
パーティには入ったこともあるが、どうにも肌に合わずに辞めることを繰り返し、結局どこからも誘われなくなった。
コミュニケーション能力の低い俺は、最終的にはいじめられたのだ。
そして1年がすぎ、2年がすぎ――
力さえあれば――何度そう思ったことか。
冒険者用語に「草」という言葉がある。
ダンジョンの低階層を黙々と周り、小銭を稼ぐ連中のことだ。
豪遊しさえしなければ、それで十分に食べていけてしまう。
それがまさに、俺だった。
1日1回ダンジョンの1~2階層をまわり、スライムや大きなダンゴ虫やカタツムリのような昆虫を狩る。
それだけで健康で文化的な最低限度の生活が保証されてしまう。
月に1回くらいであれば「遊び」だってできるくらいだ。
――俺はそんなことはしなかったから、多少の蓄えがあるが。
(処刑牧場ねぇ……)
噂には聞いたことがある。
なんでも経験点の底上げをすることができる場所だと。
だが、正確な場所は知らない。
どういうことをする施設かも、俺には分からない……。
(冒険者ギルドにでも行ってみるか)
俺はダンジョンを後にした。
・
・
・
俺は冒険者ギルドでその場所を知った。
今までの蓄えを全て手放すことになったが、後悔はしていない。また稼げば良いだけだ。
その牧場は小高い丘の上にあった。
そらは青く、小さなしろい雲が風でゆっくりと動いている。
牧場――という何に相応しく、放牧のためなのか敷地はかなり広い。
青々とした草が広がっている。
あれを牛が食べるのだろうか。
だが、牧場特有の畜産の匂いなどは一切しない。
ただただ、良い景色が広がっているだけだ。
「あなたが今日の依頼主ね。私を注文してくれてありがとうございます」
可愛らしい少女が、その場所に立っていた。
ぺこりとお辞儀をしてくる。
俺は少女を無遠慮に上から下まで眺めた。
牧歌的な緑の服装の少女は、風に金髪の長い髪を靡かせるままにしている。
年のころは15歳くらいだろうか。
「君は?」
「|シマント(四万十)・|イスズ(五十五)と申します。」
「俺は――――だ。」俺はつられて名前を名乗った。
「それじゃぁ早速ですけどお客さん。行きましょうか……」
それ以上の会話は続かない。そのまま俺とイスズは牧場の小屋に向かう。
その小屋はまるで宿舎のようだった。
いや、本当に宿舎なのだろう。
小屋の入り口を開けると、そこには色とりどりの髪の、たくさんの少女たちがいた。
100人は下らないだろうか。
「あ! 新しいおじちゃんだー」
「おじちゃん言っちゃいけません。お兄さんですよ。お兄さん。いつも言っているでしょう?」
「あー。今日はイスズちゃんの番なんだー」
「イスズちゃんおめでとー」
「わたしもこんどおねぇちゃんになるぅー」
「おめでとー」
その少女たちが俺とイスズに向かって抱き着いてくる。
子供であっても人数が多いとかなり辛い。
「はいはい。イズムちゃんもイズナちゃんも慌てないのぉ~」
イスズはそんな少女たちの頭をつぎつぎと撫でていった。
「あ、お客さん。彼女たちの頭を撫でてあげてくれませんか。彼女たちには最後まで幸せでいて欲しいんです」
俺は言われるがまま、抱き着いてくる少女たちの頭を撫でた。
撫でられた女の子たちは、気持ちよさそうになすがままにされている。
「お兄ちゃん! ありがとう!」
やがて満足したのか、少女たちは去っていく。
「それじゃ、行きましょうか……」
そして、小屋の奥に俺とイスズは行きついた。
そう、行きついてしまったのだ。
イスズは扉を開き、俺を招き入れる。
(ここは……)
そこは真っ赤な血が黒くこびりついた、牧場らしい屠殺場であった。
その禍々しい雰囲気に俺は圧倒されかける。
だが、冒険者である以上、モンスターの解体は何度でもやっているのだ。
オークのような人型のモンスターですら、俺は解体したことがある。
多少の血程度には俺は怯まない。
牧場の屠殺場という場所はだいたいこんな感じではあるのだろう。
しかし、こんな場所で一体何をするというのか。
「処刑牧場のシステムは知っていますか?」
「いや……。レベルがあがり、スキルが付くとしか」
「そうですか……。注文に不備があるようですね」
イスズはどこから話そうかと思案気だ。
俺は冒険者ギルドで処刑牧場に行きたいと告げ、バカのように高い金を払っただけだ。
「この施設は冒険者のみなさんのために国が運営しているの。倫理に反しているから誰にも教えてはいけない。そこまでは分かる? 理解したなら返事をして」
「あぁ、分かった――」俺は頷いた。
「では言うわね。この施設では2つのスキルをレベル6にまで高めることができます」
「レベル6だって――」
ごくりと俺は喉を鳴らした。
どんなスキルでもレベルは5までと言われている。
レベル6と言えば人類がまだ見ぬ地平線――。最強と呼ばれるにふさわしいレベルである。
もしも。
そんなスキルが俺にあれば――
あの少年少女パーティのように、俺も活躍できるのだろうか?
このくそったれな生活から抜け出すことができるのか?
「――ここから先はもう引き返せないけど、聞く?」イスズは念を押した。
「あぁ、言ってくれ」
「では、ウィンドウを操作しますね――」
イスズは魔術だろうか? 手のひらを操作すると何かを俺によこした。
それは冒険者ギルドで見るステータスと同じウィンドウであった。
「そこの≪評価≫をクリックしてください。そうすればこの小説は永遠に昇華しつづけ、貴方には≪殺人≫スキルと≪剣術≫スキルがレベル6になることでしょう」
(≪殺人≫スキルだって――)
俺は驚く。≪殺人≫スキルとは人を殺したときに発生するスキルで、人殺しになることで身体が活性化され、戦闘能力を向上させることができるシロモノだったはずだ。
そんなものが付くとなるとなると。
これから行う行為に、俺は察しがついた。
ついてしまった。
「クリックするとイスズ――、君はどうなる?」
少女はいつの間にか目に涙を浮かべ、しかしハッキリと言った。
「ほら、私は初めてスキルが1つ生じただけのただの女の子ですから――。そんな無垢な少女をクリックなんてすれば、レベル6なんて一発ですよ。お得です。だから――。だからクリックして――
私を――、コロシテ?」
俺は、ウィンドウをしっかりと見た。
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(お前は――、お前と言うやつは――。そこまでして評価が欲しいのか!)
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「そんなのはダメだ! こんなのでクリックなどできるか!」
俺は叫んだ。こんなのでクリックしたらクリックした人がただの殺人犯になってしまう。
イスズは不思議そうに首を少しだけ傾けた。
「え? どうして?」
「どうしてって……」
「私はこの世界の人類のために殺されるために生まれてきたのよ? ここで今、私が死ななかったら次の娘が殺されるだけよ」
「そんなのは俺が許さない! 彼女たちも助ける!」
「じゃぁどうするの? 国が黙っていないと思うけど?」
「国を黙らせればいい――」
「どうやって? あなたはただの冒険者よね? そして力を求めてこの場所へ来た――、ということは力はないんでしょう?」
「力はない、力はないが――」
(どうすればいい……、どうすれば助かる?)
「なら――、クリックして私を殺しせば、力を得られるでしょう? その力でなんとかすればいいじゃない。少なくとも次の子はうまくやってくれることでしょう? もしも――まだ力が足りないなら2人、3人追加でどう? 次の娘は|イズム(56)ちゃんで、その次の娘は|イズナ(57)ちゃんね。だから――、コロシテ?」
「その思考はやめろよ――、やめてくれ――」
俺はかわいそうな少女イスズを抱きしめた。
(たとえ彼女を殺して力を得ても、その力を得たニンゲンは、一人じゃない――)
国策でやっているような事業だ。
俺が知らなかっただけで、もしかしたら冒険者の多くがその力を得ているかもしれない。
処刑牧場を知ったきっかけも、ダンジョンの4人組パーティだったじゃないか。
一人が反旗を翻したとして、たかが知れている。
「いままで一体、この処刑牧場で人は何人殺されてきた?」
「――私の前には40、504人いるわ」
「そ、そんなに……」
俺は絶句した。上級の冒険者はみんなくそったれなやつらだ。裏でそんなことをしているなんて。
やつらはきっと力が得られるからと何人も何人も手をかけてきたに違いない。
そう、まるでモンスターを狩るように。経験値とスキルを得るためだけに、手を――
イスズの体を抱きしめる力を強めた。
その体は――かなり細かった。
(しかし、国……、国策か……)
「国は……、なんでこんな処刑牧場システムなんて作ったんだ?」
「分からないの? この世界を永遠に発展させるためよ。世界が小説として評価されないとこの世界は奥行きが広がらず、このまま朽ち果ててしまうわ――」
「ならば……、どんどんとクリックで評価されさえすれば、イスズは死ななくて良いと?」
「もちろんそうよ? でもそれって――、面白いの?」
「え?」
「人はばんばん死んだ方が面白いでしょう? ほら、大好きだったあの子が死ぬ! 母が、妹が、たくさん死ぬ! 感動的だとは思わない?」
「そんなことは、ないだろう……」
「あるわよ! ヒト死により面白いことなんてない。だから国はこのシステムを作った。多くの人々からクリックされるように――」
処刑牧場システム――、それは1クリックして――、ヒトが死ねば死ぬほど楽しくなる世界だ。
もしそれをやめてしまえば、どうなるだろう?
誰もクリックはされなくなり、やがて世界は死ぬ――
もちろんそれには俺もイスズも含まれている。
「そうよ? だから先に死んでいった処刑牧場もみんなも、みんな笑いながら逝ったよ? 私ももちろん、みんなと一緒に笑いながら死ぬから。お願い。クリックして……」
イスズは確かに顔は笑っている。
どんな思いで笑っているかはさておいて。
いったい、どういう教育をすればこんな良い感じな娘が笑いながらコロシテなんて言うのだろう。
俺は国に殺意を抱いた。
「でももしも貴方が――、1クリックで人が死ぬよりも面白い世界が作れるなら――。国は貴方を拘束するどころか支援さえしてくれると思うけど? でもまさか、そんなことはできないわよね。貴方じゃ――」
「――分かった。あぁ分かったよ! 要はヒトが死ななくて面白ければ良い訳だろう!」
「なに? ハーレムでも作るわけ?」
「あぁ、ハーレム! ハーレムいいな! 大いに結構! おあつらえ向きに幼女もたくさんいるし!」
「それ……、まさか本気?」
「あぁ、本気だとも、受ける要素があるならなんでももってこい!」
「奴隷とか? 混浴とか? 恋愛とか? VRMMOとか?」
「あぁなんでも取り込んでやるよ! 奴隷とか? 混浴とか? 恋愛とか? VRMMOで、その他もろもろの楽しい世界? がんがん持って来やがれ!」
だが、イスズが殺されず、そんな世界が描かれるかは――
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