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無気世界

怪奇が短かったため、話を追加して長くしました。

途中までは怪奇、ですがちゃんと続きの話も在りますので大丈夫です。


 この得体のしれない違和感に恐怖を覚えた。その恐怖はとても耐えられるものでは無く、もし自分がおかしいのならば羞恥の覚悟で大声で助けを求めるように叫んだ。

「兄ー!」


 その声は部屋中に聞こえた。でも、部屋の扉を開けて出ていくなんてことはとても出来なかった。

 自分を締め付けるような恐怖が襲ってくる中で開けることなんてとても出来なかったんだ。手が、体が、氷のように凍り付いて動くことが出来ないから。


 長い静寂の中、自分の心臓の音だけがドクンドクンと響ている。しかし、兄の声での返答は返ってこない。返ってきたのは、ただ、どこまでも静かな音だった。


 部屋の中からも何の音もしてこない。一体どのくらい経っただろうか? 一分? 十分? 一時間かな? いや、本当は一瞬の時間が酷くゆっくりと流れただけだ。


「誰か答えてくれよ! おい!」

俺はこの静寂がとても耐え切れず、一思いに叫んだ。でも、その答えは大変虚しく誰の声も聞こえることは無く...ただ、心の中を恐怖だけが支配する。


 いつの間にか自分が立っていたことに気づいた。思わず反射的に立ってしまっていたのだろう。取り敢えず布団の上に座ることにした。そして今の状況を冷静に考えてみる。

(なんで何処からも音がしないのだろう?)


 外からも音が無いことに気づいた。でも、車の通る大通りは家からは大体100m位だ。ベランダに出ないと車の音は聞こえないので気のせいだろうと思った。


 だけど、いくらなんでもこんなのはおかしい。いや、よく考えてみたら今日1階で妹がテレビを見ているのはちらっと見たはず、だが、今日はまだ兄の姿を見ていなかった。


 俺は、兎に角このままじゃ何も始まらないと思い立ち、行動を起こすことにする。布団から離れて扉の前まで来た。


「きっと大丈夫だ。大丈夫なはず!」

そう自分に言い聞かせ思いっきりノブを捻る。開いた先に見えたのはいつもと変わらない踊り場だった。この踊り場の柵から覗くように下を見ると1階を見ることが出来る。そのため、様子を確認してみた。


 しかし、自分の思っていたものとは違かった。さっきまでテレビを見ていたはずの妹の姿もなくテレビの音もしなかった。


「おーい、妹? いるなら返事してくれないか?」

家中にこの声は空気に乗せて響き渡ったはずなのに、やっぱり返事が返ってくることはない。


「おい、おい! 誰でもいいから返事をしてくれよ! ねえ、おいってば。お願いだから。俺が何したってんだよ。なあ、これおふざけなんだろ? 良く分かんないけど反省するからさ。返事ぐらいしてくれたっていいんじゃないのか? ねえ、ねえ! 何か言ってくれよ! ねえ...お..い」 

自分以外に誰もいないというのを今初めて味わった。涙が込み上げてきそうになった。でも、それでもなお叫んでみる。でも、何時しかそれは泣き叫ぶようになっていたのだった。


(なんで、誰も返事してくれないんだよ。誰でもいいから返事してくれよ...)


~~~~~~~~

数分後


「泣いてても何も分からないし解決しない。そうだ! 外に出てみよう!」

 さっそく実行してみることにした。階段をダッシュで駆け下りる。『外に出れば誰かに会えるはず』そう考えると、気づかないうちに涙が止まっていた。玄関のドアを開けて今期待を胸に外への扉を開いたのだった。


 ドアを開けると聞こえてきたのは風の音、そして雨の音だった。周りを見渡してみると雪が積もっており全体的に白い景色が広がっている。


 でも、それだけだった。車の音も何もしない。もっと、何か、別の音を聞いてみたくなってきた。何でだろうか? 


心の内が闇に染まっていく。何の光もない絶望だった—




 この時初めて知ったんだ。この世界は、僕以外誰もいないというのを...


~~~~~~~~


俺は家の直ぐ近くの道路に出てみる。いつもなら右の方から車の音が聞こえてくるのに、本当に何も聞こえない。ザアザアと地面に降り注いでは水たまりを作っていく雨。

ただ、それをぼんやりと見やる。

でも、何かが起こるわけでは無い。ただ、何もすることが無いだけだ。あの時と同じだ...学校でも、家でも、何もない。暇しかない。でも、これはそんないつも感じている暇とは何かが違う気がした。


打ちひしがれては崩れていく光。雲が太陽を遮り、辺りは一層と暗くなる。ただでさえ寒い冬だというのに。


身体に打ち付けては滴って落ちてゆく水。それは、急速に俺の体温を奪っていきそこに風が辺り鳥肌が立つ。手が痛い。見てみると真っ赤になっている。


ねえ、俺は何をすべきなんだ。 それに答えてくれるものなどいるはずもなく...

ただ、大通りの方に足を進めた。


 大通りに着くと車は走っていなかった。雨の中でで水浸しになった道路の上で大の字になって寝っ転がっている。だが、今の状態でそんなの気にならなかった。

「あはははは、これからどうやって生きていけば良いんだろうな」


  誰もいない世界。車なんて走っていない。でも、一つだけ奇妙なものを発見した。それは、うちの家の駐車場に車が置いてあったということだ。いや、それだけではなく別の家の駐車場にも有ったのだ。これは一体どういうことなのだろう?


「家族にもう会えないのかな、友人にも。ああ、もう夜か。最初、時が止まったのかと思ってたけど太陽は動いて1日が過ぎていくんだな。本当にどうすれば良いんだよ! 誰でも良いから出てきてくれよ! これが天罰というのなら何がいけなかったんだ。神様も本当はいるのか...な..!?」


 家族に会えない? 友人に会えない? 神様...そのキーワードが1つに重なったような気がした。そしてなんとなく忘れ去ろうとしていた昨日の夜の出来事を思い出した。


 でも、何かが有ったということしかまるで陰に隠れているかのように思い出すことが出来ない。そんなことをしていると、一つの単語だけが頭の中に浮かび上がってきた。それは大変はっきりしているものだった。

『したいことをしなさい—』


「したいことを...しなさい? やりたいことをやれってことなのか?」

 俺の精神状態は大変不安定で、絶望を越えて快楽のような状態に陥っていた。もうどうなってもいいような気持ちになっていた。あの締め付けていた恐怖も今では何も無かったかのように消え失せている。それぐらい、分かってしまったから。


「やりたいこと...やりたいことってなんだろう? いや、今自分がしたいことは?」


 そう考えたら、簡単に一つの答えにたどり着いた。

「そんなの、決まってる...!」

 今まで快楽のようだった感情が剥がれ落ちて、本来の精神に戻ることが出来た。その時、本当の感情が溢れ出る。それは、家族に会いたい気持ちだろうか? いや、人恋しいだけなんだろうな。まだ、会ってない時から1日も経っていないんだから。こんな訳の分からない所に数10人が放り込まれたならまだ耐えることも出来ただろう。でも、一人じゃ何もできない。一人っていうのはこんなにも不便で、弱弱しく、何もできなくなってしまうんだ。


「元の世界に戻りたい!」

俺は、今までの人生でこんなにも大きく声を出したことが有っただろうか? そう思えてしまうほどの声を出したのだった。


その瞬間再び目の前が閃光で眩く光った。 



(やっと、いつもの世界に戻れるんだ...きっと!)

読んでいただきありがとうございます!

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