表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/11

第一章 7『後悔の過去』

「―話って何だよ、それに、さっきのゴードンさんの変わり様は…」


 先程の明らかな動揺から察するに、ただ事ではないようだった。


「この、写真を見てください。」


 渡された写真には、若いゴードンとその横に一人の女性が写っていた。


「その隣に写っている人、私の母なんです。」


 そう言うと、アグネーゼは過去の話を始めた。





―10年前、アンファング王下聖図書館。


 当時、ゴードンは図書室副管理官に就任したばかりの新米だった。その日管理官不在のため、副管理官であるゴードンに全権利が渡っていた。


「ゴードン副管理官、こいつは、王ですら手に余る物だ。金書庫奥にて、厳重に保管するように。」


 上層部の人間から受け取ったのは鎖に繋がれた黒い本だった。厳重に縛られているその本は不気味な禍々しい気を放っていた。


 ゴードンは受け取った本を地下にある金書庫へと運んだ。


 途中、何者かの気配がした。が、早く仕事を終わらせたかったゴードンは階段を降りていく。


「気のせいだろう、早いとこ終らせて家に帰ろう。」


 金書庫に着くと、大きな鉄扉があり、幾重にもかけられた複雑な魔壁を特殊な鍵で開けなければならない。


「ここが、金書庫か。初めて入るな。」


 ゴードンは、ここへ来てまだ日が浅い身であり、金書庫に入るのは初めてだった。


 鍵を開け、重く硬い扉を開けるといくつもの本という本が乱雑に山積みにしてあった。


「み、見たこともない本がこんなに…。」


 山積みになった本の中には、未知の言語で記されているものや、謎の生物について書かれた物などがずらりと並んでいた。


 その中で、一際目立つ場所に強力な魔術で保管されている本があった。


「これは、受け取った本にそっくりだ…。」


 そこにあった本は先程受け取った本と全く同じものであった。


「王ですら所持する事が難しい本であるはずなのに、どうして2冊も…。そもそもどうして私なんかにこんな大切な物の保管を…?」


 考え込んでいたその時、何者かがゴードンの持っていた本を奪い取った。


 どうやら、何者かは薄暗い場所を移動しながら後をつけていたようだ。


「な、何者だ!姿を現せ!」


 暗がりから出てきたのは、醜い老婆だった。


―我はこの場に棲む者。この本は我々予言者が描きし永遠の予言書。今宵の餌は貴様か。


 恐ろしい形相でこちらを睨む老婆に驚いたゴードンはその場から逃げ出そうとして、老婆を突き飛ばしてしまった。


―足掻け人間よ、ここに来た者は皆我に喰われるのだ。"副管理官"とやらは我の餌なのだ。


 その老婆の言っている事がよくわからなかった。


―人間よ、貴様は騙されたのだ。


 そのネットリとした不気味な笑いに包まれた言葉を聞いた瞬間悟った。全てが仕組まれたことなのだと。


「私の積み重ねてきた物は、全て嘘だったというのか…。」


 瞬間、老婆は化け物へと変化した。

メキメキと音を立て、骨格や髪などが変わって行く。


―――もうだめだ。逃げ出す気も起きない。


 何もかも諦めていたその時だった。眩い光が真っ暗な部屋を照らしたかと思った瞬間、目の前に白い修道服を着た女性が現れた。


「諦めないで。」


 女性は微笑むと、ゴードンの手を掴みゴードンを光の中へと引っ張りこんだ。どうやら転送魔法の一種のようだ。


 それと同時に女性は光の外へ投げ出され、彼女が金書庫へ残る形になった。


「な、何をして!!」


 ゴードンが叫んだ時には遅かった。転送される直前に見た光景。それは、その女性が老婆に喰われる瞬間だった。


―セリシアー!!


 そう、彼女はゴードンの妻だったのだ。




※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



「――これが父の言っていた事の全てです。」


 アグネーゼは話を終えると涙を流していた。


 ソラは彼女に気を使い、これ以上深くは聞こうとしなかった。


「私は許せません。父の人生も母の人生も奪ったあの王族を!」


 震える声でそう言った彼女は、また涙が溢れそうになっていた。


「ですから!ソラ様まで居なくなってしまうのではないかと、わたくしは不安なのです!!」


 そう言った彼女は、取り乱したことに気づき、部屋を出ていってしまった。


「話は、娘から全て聞かれたようですね。」


 彼女と入れ違いで、ゴードンが入ってきた。


「すいません…、そんなことがあったのに。俺…。」


 ソラは先程の話を聞いて、自分がしようとしていた行動に申し訳なさを感じていた。


「私の方こそ申し訳ありませんでした。あそこには、ソラ殿を関わらせたくなかったのです。」


 ゴードンは下を向き、話を続けた。


「娘は、あなたをここに運び込んだときに言いました。『助けて、大切な人なの』と。ですからあの娘には大切な人を失うということをさせたくないのです。」


 ゴードンはソラの目をまっすぐ見て言った。


「ソラ殿。あなたはこの話を聞いてまで、何をお調べになりたいのですか?」


 ソラは、すぐに答えた。


「ここの、歴史について知りたいんです。」


 ゴードンの表情は険しくなり、ソラに説明した。


「―歴史の本は、いわばこの国の真実。一般人に見られてはいけないものなので、"金書庫"に保管してあります。それでも行きたいと仰るのですか?」


 ソラは、少し驚いたがそれでもリネスの事を思うと、やらなくてはいけないという使命感に駆られすぐに言葉を返した。


「すいません。娘さんやゴードンさんのお気遣いはとても嬉しいです。しかし、それでも、俺は図書館へ行かなきゃいけないんです!」


 ゴードンはソラの真剣な目を見て本気なのだと分かり、承諾した。


「―分かりました。私が責任を持ってお連れいたしましょう。ただし、出発は明日の朝です。」


 ゴードンは、そう言うと立ち上り部屋を出ていった。


 ゴードンも苦渋の決断だったろう。そんな人達の思いを全て背負い込んで、それでも行くと決断したソラにはもう、迷いはなかった。

 

 



―その日の夜。


 食事をしようとゴードンに言われ、一階の食堂へと降りてきた。


「すまない。娘は、あれから部屋に籠って出てこないんだ。」


 いつも、二人で囲んでいるであろう食卓に並べられた料理は、小さいテーブルに三人分用意されていた。


「さぁ、そちらに掛けてください。」


 そういえば、きちんとした食事にありつけたのはかなり、久しぶりな気がする。


 椅子に座るとゴードンが、


「ソラ殿。明日の出発前にお話があります。」


「今じゃダメなんですか?」


 ゴードンは明日話すと言って、それ以降話題に出すことはなかった。




―食後、就寝前。


 ソラは考え事をしていた。


「何だか、ここまでかなりトントン拍子に事が進んできたな。」


 だが、すぐに気のせいだと割りきって、眠りにつこうとしたとき、頭の中でリネスの顔が浮かんだ。


ーリネス…。 


 ソラはその夜、深い深い眠りについた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ