第一章4『見知らぬ故郷』
―とある会議室にて。
真っ暗な部屋にプロジェクターの光だけが壁を照らしている。
その中にうっすらと見える人影。
「被験体の回収にはあとどれくらいかかるのかね。」
顔はハッキリとは見えないが、恐らく彼がここのトップなのだろう。
「もう暫くお待ちいただくことになります。ただ、この街のどこかにいるのは確実です。」
ピシッとしたスーツに身をまとった女性がプロジェクターの前で、数十人相手に質問の答えを返す。
「あの街か…現在、異世界秩序「オーダー」が発生している地区ですね。」
席に座っているうちの一人がそう呟いた。
「はい、被験体は我々の改変テクノロジーによってオーダーが起こりうる場所へ自ら赴く習性を脳内に植え付けてあります。」
「ということは被験体、『ライフゼロ』の回収は時間の問題ですね?」
トップらしき人物がそう問いかけた。
「はい、必ずプロジェクト『ライフゼロ』を回収いたします。」
―必ず…。
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―きて!!起きて!
「朝っぱらからどうしたんだよー、リネス。」
ソラの体の上でぴょんぴょん飛び跳ねてどうやら慌てた様子のリネス。
「あのね!お外がね!」
どうやら興奮してまともに言葉がでてこないようだった。
朝に不馴れな身体を無理やり起こし窓の外を見てみた。
「―!!」
―完全に異世界だ。
街行く人も、建物も何もかもが混じりあった世界ではなく、異世界そのものになっていた。
「ソラ!ここが私の街だよ!!」
リネスが子供のようにはしゃいでいるのを見ながら、状況を整理した。
「ってことは、リネス!おまえ"こっち側"の人間だったのか!?」
リネスはよく分からないというような表情をし、ソラに提案をした。
「ソラ!私の街を案内するよ!!」
「俺、人混み嫌いだからパス!」
そう言って頭から布団をかぶり聞こえないふりをした。
「ぞ~らぁ~…」
相当行きたかったのか、泣きならがらソラの名前を呼んでいる。
「あーもー!!分かったよ!行きゃあいいんだろ!」
あまりの泣き声にとうとうソラの意思は耐えられなくなり折れてしまった。
「ほんどに?ヒック…」
少し潤んだ上目遣いに思わずソラはドキッとしてしまい、自分の気持ちを隠すように出掛ける支度をした。
「早く~ソラ~!!」
「ちょっと待て、その格好じゃさすがにまずいだろ。ほら、洗濯してたお前の服があるから。」
Tシャツ一枚で外に出ようとしているリネスを捕まえ、着替えさせた。
「これでよし!んじゃあ行くか。」
玄関の戸を開け、目の前にある光景を見て夢ではないか頬をつねってみた。
「ははっ、夢じゃねぇ。」
最初にここに来た頃は、何だか街の人も寂しそうな感じだったのに今いるここは活気に溢れるいい雰囲気の街だ。
「ソラ!この辺にはね?とっても美味しいお店があるんだよ!」
と、大はしゃぎで街を案内しようとするリネスに手を引っ張られ、店まで走った。
「ほら!ソラ!そこの角を曲がったら…。」
リネスの言葉が詰まる。
「お、おいリネス。店なんかないじゃないか。」
リネスに連れられてきたその場所に店はなかった。
リネスは真顔でなにも言わずにその場所を眺めていた。
「リネス?」
ソラが声をかけるとリネスはハッと何かを思い出したようにまた走り出した。
「お、おい!リネス!まって…!」
ようやく、追いついたと思ったらまたリネスは走り出した。
「リネス!!お前、さっきからどうした?何だか様子が変だぞ?」
リネスを見つけたときにはリネスは噴水近くの階段で下を向いて落ち込んでいるようだった。
「―リネス?何かあったのか?」
リネスは少し顔を上げ、言った。
「無いの、何にもないの。私の思い出の場所がどこにも無いの!」
少し怒ったように声を荒らげて、言った。
「ごめん…」
何故か謝ってしまった。リネスがこんな風に声を荒らげて物事を吐き出すことなんて、なかったからビックリしてこの言葉しか出なかった。
「あぁ…ちがうの、ごめんなさい!ソラ!」
リネスはそう言うと立ち上がってまた走り出してどこかへ行ってしまった。
一瞬見えたリネスの涙に、ソラの行動欲が掻き立てられた。
―調べてみるか。ここのことを。
ソラは、ある場所へ向かった。