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ソラが召喚した赤い物体、それは何でも濃い中華料理味にできるペースト状の調味料だった。
調味ペースト、それはどんな味覚であれ、確実に旨味を感じさせる味の兵器。
これまでもパッカの店で、どんな食材でもお手軽に本格中華に変えるそれをソラは使っていた。
それがソラの思った以上に、この世界の人に「新しい」だの「うますぎる!」だの大ウケしてパッカの店はレオンの店を凌ぐ程になっていたのだ。
「さあ、味の覇王と呼ばれた調味料のチカラをみせてやろうじゃないか!」
「興味深いね!」
試合前の口上にあてられたのか、ノリノリで料理を開始するソラ。
ソラは、コンロを最大火力にしてその上に中華鍋をドンと乗せる。
そこに多めに油を投入して少し煙が出るまで待ち、煙が出始めたところに刻みネギを投入、風味が油に染み出した頃に他の具材を入れ、軽く混ぜ合わせる。
そして溶き卵を一気に鍋に投入、固まり始める前にすぐさまご飯を投入、続いて調味ペーストを入れ鉄のお玉でかき混ぜる。
そう、ソラが作るのは炒飯である。
「独身中年の得意料理!とくとみやがれ!」
そう言って鉄鍋を振って炒飯を混ぜていく。
「おお!なんと言う調理法だぁー!丸い鍋の上でお米が舞っております!」
既存の、煮る、焼く、揚げるなどとは異なる調理に会場が湧き上がる。
「く…!演出なら負けてられないね…!炎よ!」
ユピーがそう言うと、小さな火の玉が周囲に浮かび上がった。
そして、何かを調理していると思われる風魔法の竜巻の中に吸い込まれていった。
そして、風と炎が合わさり一際大きな火柱となる。
「こればすごぉぉーーーい!魔法でこのような調理、見たことありません!」
ユピーの派手なパフォーマンスに会場はさらなる盛り上がりを見せる。
「これで終わりだね!」
「こっちもできあがりだ!」
ソラ、ユピー両名の料理がほぼ同時に出来上がる。
「どちらの料理もできあがったようです!それでは審査に入りましょう!」
司会者がそう言うと、スタッフがテキパキと配膳を行う。
間もなくして、銀色の丸い蓋が2つずつ審査員の前に並べられるのだった。
「今回はどちらも見たことのない料理でしたので実食まで伏せさせ頂きました!それではまず、ユピー選手の料理からオープン!」
司会者がそう言うと、審査員の右側に置かれた料理の蓋をスタッフが開けて行く。
が、スタッフの光魔法によって、蓋の中身が発光し、中身が見えない。
何か山のようなシルエットだけがわかる状態である。
それがさらに立体投影の魔法によって開場に大きく映し出されている。
どう考えても演出が過剰である。
ドラムロールとともに光魔法が徐々に弱くなっていき、ユピー料理が姿を見せた。
それは、黄色がかった白いムース上の物体で、表面に焦げ目がついている料理であった。
「なんだぁこれは!?」
未知の料理に審査員が狼狽の声を上げる。
ソラはそれを見てゾクリをした。
「まさかだけど…アレは…!」
「どうだね?これがワシの究極料理…!」
ユピーは驚きと惑う審査員達を見て料理名を告げる。
「炙りマッヨネーズね!!!」
「調味料じゃねーか!」
高らかに宣言するユピーに思わずツッコミを入れてしまうソラであった。




