-96- ソラの料理
料理トーナメント開催から三日目、ようやくシード選手であるソラの試合の時がやってきた。
「いよいよか、緊張してきたな…。」
控室、出番を直前にソラは落ち着かない様子で呟いた。
「ふふ、珍しく緊張してるんだね、可愛いところもあるんだ。精一杯力を出し切ると良いと思うよ。」
「ん、がんば…。」
「美味しいですもんね、ソラさんの料理!どんな相手でも楽勝ですよ!」
グリン、ルビィ、ゴンが次々にソラにエールを送る。
1人だけ、サクラだけが不安げにソラに声をかける。
「あの…ソラさん、変なこと言うみたいなんだけど…さっきからなんだか胸騒ぎがするから…気をつけてね?」
急に何を言い出すのかと思いつつも、サクラの心遣いにソラは一言、「おう!」と返事を返した。
そして、ソラは仲間たちを背に、一人で競技場へと向かって行った。
ソラが競技場に入ると、パッと魔法の光に照らされる。
「さぁー!いよいよシード選手の登場です!」
司会者が高らかに叫ぶ。
「今話題のパッカ亭の料理人!ザウスランド伝統のワショクに引けを取らない独創的な料理で巷を虜にする魅惑のエルフ!ソラ選手の入場だー!」
前説などは既に終わっており、シード権のあるパッカ亭の代表選手、ソラの入場によって、試合の準備が整った。
「アンタが噂の料理人だね!ワショクでもない新しい料理を出すって噂だが、小娘じゃないかね!勝ちは貰ったようなものだね!」
対戦相手であろうコック服の鷲鼻老人がビシッとソラに向けて挑発を行う。
「おーっと!いきなりユピー選手!ソラ選手に向かって勝利宣言だー!」
(なるほど、そう言うノリか)
対戦相手の挑発を受け、ソラは一瞬考えてすぐさま相手の挑発に乗って見せた。
「は、言ってな!見た目が小娘だと舐めてかかると吠え面かくぜ、おじーちゃん。」
「ソラ選手も負けてない!可愛い顔してやる気満々かー!?」
ソラと対戦相手ユピーのやりとりで会場のボルテージが高まっていく。
相手の挑発、司会の煽りからソラはこのやり取りをプロレスのようなものだと判断していた。
故に、ソラはさらに場を盛り上げるべく演出を続ける。
中華鍋と大きめのお玉を召喚し、鍋を強く叩く。
グワァーン!
「この世で誰も見たことがねえ料理を見せてやるぜ!」
そう言ってお玉の先をユピーに向けるソラ。
「なんだー!?あの鍋は!もう既に道具から見たことがありません!」
「小賢しいね!そんなものワシの魔料理の前では敵じゃないね!」
そう言うとユピーは魔術で小さな竜巻を自らの周りに生み出した。
「ユピー選手!繊細な魔力操作です!!一体どんな料理を見せてくれるのかぁ!注目の第6試合!今回のテーマは…卵を使った料理でっす!!!」
ソラとユピーのやり取りを盛り上げつつ、試合テーマが発表される。
「卵が使われてたら良いって事か、ヨシ!アレで行くか!」
「アレを作ればワシの勝ちは決まりだね!ヒヒヒ!」
「両選手、既に何を作るか決まっている様子ですね!それでは試合…開始ぃ!!!」
司会者が試合の開始を告げると、ソラは早速用意された食材の吟味を始める。
「この世界に来てずいぶん経つけどなんだかんだで野菜が素の世界と似てるから分かりやすくて助かるなぁ、例外もあったけどよ。」
そんな独り言を呟きながら質の良さそうな食材を次々と集めていくソラ。
「こんなもんか、審査員とゲストへの試食って考えると結構な量になるもんだな。」
ドスンと音を立てて食材の入ったカゴをキッチンに置くソラ。
そして、そのまま下拵えに入ろうとしたところで
「おおーっ!」と司会が叫ぶ声が聞こえた。
ユピーに何か動きがあったようだ。
「凄い!!ユピー選手!巧みな魔力捌きで風魔法を使って料理しているー!!!」
ソラは気になってユピーの方に目をやると、そこには二つの球体を頭上に浮かべるユピーの姿があった。
球体の片方の中身は、幾つもの黄身の影が見えるので卵だと言うことがわかる。
そして、もう片方には調味料と思しき液体が浮かんでいる。
ユピーはその二つの球体を近づけると、一つの大きな球体となり、物凄い勢いで中身が混ざり始めた。
ユピーの使う魔法はどうやらミキサーのような役割らしい。
「魔法で料理してんのか…すげえ光景だな…。」
そんな光景に呆気に取られながらもソラは着々と食材の準備を進めていく。
淡々と準備を進めて、刻みネギ、溶き卵、魚のほぐし身、ごはんが用意できたところで「よし!」とソラは一息置いて、魔力を集中させる。
「出てこい!」
ソラがそう言うと、調理台の上に光と共に赤い物体が出現した。
「なんだー!ソラ選手!見たこともない物を取り出しました!何かの調味料入れのように見えます!」
「なんだね!?召喚魔法!?」
ソラの喚び出したモノに会場から視線が集まる。
それにはソラの世界の文字と、誰なのかわからないおじさんの笑顔が刻まれていた。




