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ほくほくの天ぷらが皿の上に盛られていた。

調理場からソラたちの元に運ばれてくるまでに時間がかかっているようだが、まるで揚げたてのようだ。


実はその筈、料理が盛り付けられた皿には時間経過が遅くなる魔法をかけられているので殆ど揚げたての状態であったのだが、ソラには知る由も無かった。


「さっき審査員の爺さんが美味そうに食ってたし、やっぱりエビからだよな。」

そう言ってソラは真っ先に海老の天ぷらに箸をつける。

まずは、と塩を付けずにそのまま海老天を口に運ぶ。


サクサクッ


はむはむ


ごくり


「あぁ…うまい!衣がサクサクのほろほろで食感が気持ちいいし、海老も半生状態でぷりっぷりだ!中から海老の旨味が詰まった汁が出てきてたまらねえ…。」


一口食べただけで、感無量な表情ですらすらと感想を述べるソラ。


あまりにも美味しそうに語るので、ソラの周りにいる者たちは皆ごくりと喉を鳴らして、ソラを真似て海老の天ぷらを食べ始めた。


ソラは最初のコメントを残したあと、塩を少しつけたりして黙々と一本堪能していた。


「お次はこれかな…。」

海老の尻尾まで噛み締めるように食べ切ったソラが次に箸を伸ばしたのは白身魚の天ぷらであった。


残っている天ぷらは白身魚、蟹、イカ、そして緑色の何か。


ソラの考えはこうだ、まずは空腹の状態、つまり1番美味しく食べれる状態に大好物のエビ天を食べる。

その後に淡白な白身魚、イカを食べた後に推定野菜である緑色の天ぷら、そして最後の味が強い蟹の天ぷらでシメる。


それがソラにとって最も満足する為の戦略であった。


はむ、サクッ…ジュワァ…


(思った通りだ、これは白身魚…アッサリとしてるが脂が乗ってるがクドくない…旬のキスの天ぷらと負けず劣らず…)

「ああ…うめぇ!」


心の中で実況さながらの事を考えながら顔を綻ばせる。


続いてイカの天ぷら。


サクッ、クニクニ


(やっぱりイカだな!この弾力は間違いない!)


ソラが噛みごたえからイカと判断した瞬間のことだった。


「んーー!!!」

(なんだこれは!!旨味が溢れ出る!)


ソラの口の中に突然旨味の暴風が吹き荒れた。


噛めば噛むほど味が出る、そんな考えを吹き飛ばすような強烈な旨味、思わずソラは足をバタバタと動かしていた。


「美味い!なんだこりゃ!イカなのにイカじゃねえ!味がすげえぞ!すげえ!」

驚きのあまり語彙力を失った感想しか出てこなくなるソラ、


ここは異世界。

ソラにとって未知の食材で溢れている世界。


ソラ自身、この世界で料理をそれなりにしてはいるものの、知らない、扱ったことのない食材は数多に存在するのだ。


ソラはその味との別れを惜しみながらもイカを食べきり、次の天ぷらへと目を向ける。


「失敗だったな…。」とソラは独り言を漏らす。


先ほどのイカの天ぷら、まさかあそこまで味が強いとは思っておらず完全な想定外だった。


それこそ、クライマックスの盛り上がりのように強烈だ。


なので1番最後に食べようとしていたカニらしきものの天ぷらが霞んでしまうかも知れない。


イカよりカニの方が味が強いと思っていた事をソラは大いに悔やんだ。


そして、次に食べるべきものを真剣に見定める。


カニのようなものか緑色の野菜のようなものか。


イカ天をクライマックスとするなら、次に濃厚そうなカニ天、さっぱりした野菜天の順番にすべきだろうか。


それとも、カニの味が強いことを見越して、当初の計画通り野菜天から行くべきか。


はたから見れば、美味いならどう食べても良いだろうと思うところだが、大好物を目の前にしたソラからしたら重大な局面である。


「待てよ…?」

ソラはふとあることに気が付いた。


緑色の物体は野菜と仮定しているが、これもまた未知のものなのではないかと。


現に黒い粒子を発するダークマターが甘い果実のようなものだった事もある。


先入観は捨てるべきだろう。


だがその場合、ソラには全く予想がつかないものとなる。


「なあグリン、ちょっといいか?」


「ん?なんだい?」


「この緑色のやつって何かわかるか?」


そこで、ソラはこの世界の人間であるグリンに聞くことにした。


わからない事があったら聞く。


それは単純だが、この場のソラにおける最適解であった。


「それはボルボル貝だね、棒みたいに細長くて緑色の貝なのさ。味はクリーミィで濃厚なんだよ。もう一つ残ってるのはマカボコ蟹だね、プリプリした身が美味しいんだ。」


「なるほどな、ありがとよグリン。参考になった。」


そう言ってソラはカニの天ぷらへと箸を伸ばす。


グリンの一言でソラの心は決まったのだ。


サッパリしたものを食べたのにに濃厚な貝でシメる。


グリンの言う通りならばこのプランで間違いないはずである。


まずはカニ天。


ハサミの部分を掴んで、衣に包まれた身を食べる。


プリリとしたカニの身が口の中で溶けるように広がり、カニの味と衣の香ばしさがなんとも言えないハーモニーを生み出した。


イカ天とは違い、ほとんどイメージ通りの味だったが火加減が絶妙で、半生のような舌触りがたまらない。


柔らかすぎてあっと言う間に飲み込んでしまい、口の中からいなくなってしまったことに名残惜しそうな、それでも幸せそうな表情を浮かべるソラだった。


「さて、次がラストだ。」


最後に残った緑色物体、貝の天ぷらに手を出すソラ。


(グリンの話の通りならきっとこれは…)


細長い天ぷらをパクリと口に入れた。


サクッ、ジュワ


天ぷらを咀嚼して瞬間、海の味がソラの口の中いっぱいにひろがった。


続けてバターのようなクリーミィな風味、貝特有の強い旨味が押し寄せてくる。


(やっぱりだ!見た目は全然違うけど牡蠣みてえだ!)


グリンがクリーミィさを強調したことから、ソラは牡蠣のような味わいを予想したが、まさにその通りであった。


その濃厚さはソラが考えていたシメに相応しい味だった。


そして、ソラは己の選択(食べ順)が正解であったと確信する。


(この料理対決のテーマは揚げ物、だがレオンはさらにもう一つ皿にテーマを持たせたんだな…テーマは海だ!海産物豊かなこの国だからこその一皿…!)


海の味を強く感じる貝で最後を締めくくった事で、その事がはっきりと理解できたソラ。


久々の天ぷらの味に加え、感動的な味わいを堪能したソラは

「ご馳走様でした!」

と言ってレオンに向けて手を合わせるのだった。

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