-93-
レオンの料理が配膳されていく。
ステージでは審査員が「おおっ!」と感嘆の声を上げる。
程なくして、審査員達のテーブルに並べられた皿が立体映像として映し出される。
「ほう…。」と誰もが息を飲むほど、その一皿は芸術的であった。
虹色に輝く器の上に、いくつもの天ぷらが並べられていた。
淡いキツネ色の衣向こうから鮮やかな紅色が透けて見える。
そして、衣の先端からは同じく紅色の尻尾が見える。
天ぷらの定番、エビ天だ。
その隣に並ぶのは海老に比べると少し薄い色彩の赤、衣の先端からは甲殻類の殻が伸びている。
これは愛すべき甲殻類の蟹で間違いない。
では、それに続くのならば次は一体なんなのか。
扇型の白い天ぷら。
そう、これ白身魚だ。
それに続くは同じく白い色を衣で包んだ存在。
長方形であるそれはイカの切身と想像するのは難しくない。
しかし、次は何だろうか。
細長い緑色の物体。
野菜だろうか、獅子唐、ピーマン、アスパラ、いくつもの考えが頭を過るが形が違う。
最も可能性があるのはアスパラだが、先端の膨らみが無い。
緑色のチョークを長く伸ばしたような物体である。
ああ、ここは異世界。
それならば未知の食材である可能性も考えられる。
食べた時にどんな体験ができるか、心が躍る。
並べられた作品、天ぷら達の横には寄り添うように緑色の粉末が盛られている。
藻塩だと思われる。
ソラはそんな一皿を見せられ、いてもたってもいられない様子でそわそわと体をゆすっていた。
「ソラさん、楽しみなのはわかるけど少し落ち着いて…。」
サクラは落ち着きのないソラを見かねて声をかける。
「お、おう…悪い…。」
ソラは指摘されて自分の状況に気がついたのか、頰を染めながら照れ臭そうに頭をかいた。
「そもそも、天ぷらぐらいソラさんなら自分で作れるんじゃないの?どうしてそんなにそわそわしてるの?」
サクラはソラの態度を疑問に思い問いかける。
「ああ、作れるっちゃ作れるけどよ…やっぱどうしても家の天ぷらって感じになっちまうからよ…ちゃんとした店で食うやつはなんか…本当にうめえんだぞ!」
期待が溢れすぎるあまりに語彙力さえ失うソラ。
だがその熱意は伝わり、自然とサクラ、グリン、ルビィ、ゴン、さらにはパッカや他の関係者でさえ期待が高まってくる。
(なによ、分かってるじゃない)
レオンの料理を高く評価してくれているとあって、先ほどまでライバル視していたスージーはソラに対する警戒レベルを下げる。
ステージ上では、全ての審査員に皿が配られたようで「さあ!いよいよレオンの店の揚げ物料理!!!実食です!!!!!!」
と司会者の声が鳴り響く。
「ご賞味ください。」
レオンが言う。
「美しい…これがワショクの揚げ物か…。」
ほぅと息をのむように老人の審査員が大振りのエビ天を手に取る。
「これは一度、レオンの店で食べたことがある…確かエビテンと言うものであったと記憶している。あの時はテンツユと言うものをつけて食べたが今回はこの緑色の粉…塩をつけて食べると言うことで良いのかな?」
老人は探るように呟く。
「ええ、少しだけつけて食べてください。」
「では…!」
そう言って老人は海老天の先端に少し塩をつけてから口に運ぶ。
サクッ
会場が固唾を飲んで見守る中、海老天に齧り付いた音が響き渡る。
サクサクサクサク!
瞬く間に海老天は老人の口の中に全て吸い込まれて行った。
「はぁ…ふぅん…」
そして老人は恍惚の表情で言葉にならない声を漏らす。
「いかがでしたか?」
レオンがそう声をかけると、老人はハッと自我を取り戻す。
そして、突然宙に浮かび出し、背中を思い切り後ろに逸らしたのち叫ぶ。
「うまあああああああい!!!!」
そして、全身の穴という穴から発光した。
「ええー!?どうして光るの!?」
サクラが発光する審査員を見ながら少し引いていた。
「わからねえけど、光りたくなるほど美味かったって事なんじゃねえかな。うん、試食が楽しみだな!」
ソラは早々に理解を諦めて思考を切り替える。
「ほう、あの方が光リアクションを取るとは、いきなり飛ばしてきているね。」
などとグリンが感想を述べているので、この世界の住人たちからしてみたら馴染みのある現象なのだろう。
審査員の老人はさらに他の天ぷらにも手を伸ばし、大袈裟なリアクションと共に発光を繰り返す。
他の審査員もまた、飛ぶ、脱ぐ、爆ぜるなど、癖のあるリアクションでレオンの料理を称賛する。
そんな中、ソラ達のいる関係者席にもレオンの天ぷらが運ばれてきた。
ソラは思わず「ッシャァ!」と嬉しそうに膝を叩く。
見た目が美少女なのに完全なおじさん仕草で奇異の視線を集めたがソラはそんな事お構いなしに配膳係から天ぷらの盛り付けられたお皿を受け取った。
「ここまでちゃんとした天ぷらは何年ぶりだろうな…まさか異世界でお目にかかれるなんてな…。」
「私もここまでしっかりしたのは初めてかも…凄く綺麗…!本当におうちの天ぷらと全然違う!」
レオンの天ぷらを目の前にして、日本人二人は感動した様子だった。
「さてと、それじゃあ…いただきます!」
そう言って、ソラはいよいよ待ちに待った天ぷらにありつくのだった。
お久しぶりりなってしまいました。
生存してます。




