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「ってなわけで、寿司は美味いし良い店だったぜ。」
閉店後のパッカ亭、ソラ、サクラ、グリン、ルビィ、ゴンが誰もいないフロアの一角のテーブルに着き話し合っていた。
「ソラだけ…ごちそう食べてる…。」
昼間の出来事を話すソラ、それを聞いたルビィは1人だけ寿司を食べてきたソラに不満顔だ。
「仕方ないだろ、パッカの大将がめちゃくちゃにしてたんだ。落ち着いたら全員で行こうじゃねえか。」
「ふむ、それはいい!」
「…いいね。」
「ソラさんが認めるぐらいちゃんとした和食だったんだよね?楽しみにしてるからね!」
「ライバル店での会話には思えませんねぇ。」
ソラの提案に、嬉しそうな顔を見せるグリン、ルビィ、サクラの3人。
唯一、ゴンは客観的にいまの状況を考えてしまい、苦笑いを浮かべる。
「まあ、この店には義理はあるが、あっちの店にも恨みはねえからな。細かい事は気にすんなって。」
「はあ…でも相手の店はガラガラなんでしょう?あっちから恨まれたりしませんかねぇ?」
「あー、そりゃありえるな。さっき話した通り、パッカの大将があっちの店をやたら目の敵にしてるみたいでよ。変な恨みは買ってるかもしれねえな。」
気楽そうなソラだったが、ゴンの指摘で少し心配そうな表情を浮かべる。
「そう言えば、お客さんが教えてくれたんだけど、レオンの店の予約してる奴は入店禁止だー!って店長に言われてるみたい。」
「ふむ、それは良くない。営業妨害じゃないか。」
「ろくでもねえな…そんなことしなくてもこっちは十分繁盛してるだろうが。」
サクラが仕入れた情報によると、パッカはソラの料理が人気なことで調子に乗って、レオンのお店に客が入らないようにしているようだった。
それを聞いたグリンとソラは怒りを露わにする。
「まあまあ、雇い主のクズさは置いといてこれからどうするんですか?借金も返せたし路銀は稼げてると思うんですけど。」
「借金は元々一食分払えなかったってだけだからすぐ返せたし、いつ辞めても良いっちゃ良いんだがな。客は俺の飯目当てが多いみてぇだから、いきなり辞めるのも悪いんだよな。」
ソラたちがなぜこのような店で働いているかと言えば、借金があったからに他ならない。
ザウスランドに来て、財布の中身が心許無くなっていたのだが、その上でたまたま入ったパッカ亭の料理が出来損ないの和食のくせにとんでもない値段を請求された為、体で返す事になってしまったのだ。
パッカ亭の料理と給仕をする事で、ソラ達はめざましい活躍を見せた。
サクラ、グリンは見た目からあっと言う間に看板娘、ゴンとルビィはマスコットになり、ソラは料理を大幅に改善して見せたのだった。
次第に客足が増え、忙しくなってしまい、借金を返し終えた今でもパッカに懇願され働いてるのが現状であった。
勿論、ソラには帰るべき場所があるため永久就職は考えてはいない。
そもそも、ソラがこの街に来たのは目的があるからなのだ。
「とりあえず時間が出来たらやる事やるか。」
ソラはそうひとりごちる。
「そう言えばなんでソラさんはこの街に来たかったの?お寿司食べたいからとか?」
「ああ、まあ似たようなもんだけど…」
パァーン!
サクラの問いにソラが答えようとしたところに、勢い良く扉を開けて1人の男が現れる。
「お前ら喜べぇ〜!明日から始まる料理トーナメントに俺の店がシードで参加できるようにしてやったぜぇ!」
闖入者、パッカは入ってくるなりソラ達に向かって言う。
「はぁ?」
それに対してソラは思わず眉間にしわを寄せながら聞き返す。
「開催委員会に金を積んでシード権を手に入れてやったのさ!これで圧勝して奴らの店も名誉も地の底に落としてやる!ああ、スージーは雇ってやってもいいかな?ギャハハ!」
「あのー、店長?なんですか料理トーナメントって?」
聞いてないし急すぎる。
その言葉を飲み込み、サクラは冷静に質問する。
「ああん?バカなのか?名前の通り、料理で競うトーナメントに決まってるだろぉ?」
パッカの馬鹿にしたような答えにサクラはムッとする。
勿論、サクラだってそんな事は名前でわかる。
質問の意図はそうではないのだが、問いただす前にパッカが語り始める。
「この街では、ある時期からグルメブームが起きてて毎年一番の店を競うトーナメントをやってるんだぜぇ!それに出場してこの店が1番だって証明してやるのさぁ!なあ、ソラ〜!お前の料理なら優勝間違いなしさぁ!あ?」
ねちっこくソラに語りかけるパッカ。
そんなパッカの頭を両手で掴むソラ。
「出るのは構わねえけど事前に了解取るとかねえのか?報告、連絡、相談って言葉、知ってるか?あんまり酷いとすぐさまこの店をでていくぞ?」
とパッカの身勝手な行動を叱る。
「ぐぎぎ〜!お前!誰が雇い主だと…ごめんなさぃ…。」
前に叱られた時に学習したのか、今度はすぐに謝るパッカ。
「まあ申し込んだもんはしかたねえ。金で買ったシード権ってのも気に食わねえが、良い機会だ。料理対決って事はレオンの店の大将にまたすぐ会えるって事だよな。」
「もちろんさぁ〜!レオンの野郎をこてんぱんに負かしてやってくれよ?まぁ、シードのうちと戦えるとは限らないけどねぇ〜!」
料理トーナメントへの参加を受け入れたソラに気を良くして、また態度が大きくなるパッカ。
「じゃあよろしく頼むぜぇ〜!大会の概要はここに書いてあるからなぁ!」
そう言ってパッカは一枚のチラシをテーブルに置いて、スキップしながら去って行った。
「本当に、嫌な御仁だな…。」
「ほんと、嫌な感じ。」
「パッカ…バッカ?」
「典型的なバカな金持ちって感じですねえ。」
「雇い主なんだからそれぐらいにしとけよ。それよりも内容を見とくか。」
ソラは仲間たちを窘め、パッカの置いて行ったチラシを手に取る。
「ふむふむ、材料は主催側で用意、テーマに沿った料理で対決…テーマは当日…審査員が評価…なるほどな。」
「なんかのバラエティ番組みたいだね。でも大丈夫なの?確かにソラさんの料理は人気みたいだけど、ソラさんの料理って…。」
「まあ、こんだけウケてんだから良いとこ行くんじゃねえか?気楽にいこうや。」
こうして、ソラ達はザウスランド料理トーナメントに参加する事が決まったのだった。




