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「おい!入ってこい!」と言うパッカの合図で、レオンの店の扉を開けたソラ。


テーブルの上に散らばった寿司と、外にまで漏れ聞こえてた先の会話から、大凡何が起きていたか理解する。


「これがうちに新しく入った料理人だぁ〜!」とドヤ顔でソラを示すパッカ。

ソラは

「邪魔するぜ。」

と言って店内に入り、パッカに向かって小さく手招きした。

まるで内緒話を誘うかのような仕草に、「ん?なんだぁ?」とパッカはソラに顔を寄せる。


ソラはそんなパッカの頭をがしりと両手で掴み込んだ。

「んな!?」突然のソラの行動に驚愕の声を上げるパッカ。


「あのなぁ…人様に迷惑かけんじゃねえよ!あと食べ物を粗末にしてんじゃねえ!」

ソラはパッカに向かって怒鳴ると共に、両手をぐりぐりさせる。

「いでで!俺は!雇い主だぞいだだだ!!!」

パッカは頭を掴まれながらもソラに向かって高圧的な態度を取ろうとするが、さらにソラの手に力が入った為、痛みに悶えていた。


「雇い主だろうと関係ねえよ!人に迷惑かけない!食べ物を粗末にしない!いいな!」

とさらに剣幕を強めてソラはパッカに言い聞かせる。

流石のパッカも勢いに負けて、「…はぃ。」と小さく返事をする。


「ったく、忙しいのにわざわざ連れてきて、合図したら入ってこいってバカバカしい事に付き合わされちまった。」

はぁー、とソラは深くため息をついた。

そして、レオン達の方を向き直ると深々と頭を下げる。


「この度は大変申し訳ありませんでした。パッカがご迷惑をおかけしました。」

ちゃっかり、パッカの頭も片手で下げさせようとしているソラだったが、パッカは全力て抵抗していた。


一方、謝罪されたレオン達はソラの行動に驚き、未だに固まっていた。

なにせ、ライバル店であるパッカの敵対的な行動を受けたあとに入ってきた切り札の様な存在がいきなり謝罪するとは思いはしなかったのだ。


ソラは顔を上げ、そんなレオン達の様子を見渡すとなんとなく気恥ずかしく感じて、軽い様子でレオンに話しかける。


「悪いね、ところでお前さんがこの店の大将でいいのかい?」

「え、あ、はい。そうです。僕がこの店の主人です。」

「そうかい、じゃああの寿司もお前さんが握ったのかい?」

ソラはテーブルの上に散乱している寿司を指差しレオンに聞く。

「は、はい。」

「へえ、どれどれ。」

ソラはテーブルに向かう。

そして、散らばった寿司のシャリとネタを手に取り、汚れがない事を確認してからその二つを合わせて、少しネタを醤油につけ、食べた。


「美味い!大将!いい腕してるな!」

ソラは寿司を食べるなり、絶賛した。

現在進行形でレオンの店の客を奪ってるライバル店の人間とは思えない言動であった。


「パッカの大将はもういらねえみたいだから残りも貰うぜ。こんな美味いもんを食わないなんて勿体ないったらありゃしねえ。」

そう言ってソラは散らばった寿司を集め、次々と食べていく。

一瞬ダークマターのようなものには躊躇を見せるも、それでも全て食べてしまった。


「形はくずれちまったけどどれも美味いじゃねえか。さて、お勘定頼む。いくらだ?」

寿司を平らげたソラは近くに立っていたスージーに聞く。


「えっと、レオン、どうしよう?」

「これなら銀貨10枚だけど…いいのかい?」

「食っちまったから仕方ねえよ。じゃあお勘定置いてくぜ。」

値段を聞くとソラはチャリっと皮袋から小銭を取り出し机に置く。ぴったり銀貨10枚であった。


「じゃあまだ仕事中だから、ウチの大将連れて帰るか。」

そう言うとソラは、パッカの服の袖を引っ張って店を出ようとする。

「と、その前にひとつだけ聞いておきたいことがあったんだ。」

店を出ようとしていたソラが、足を止めレオンの方をじっと見つめながら言う。

「寿司とかここいらで流行ってる日本食、大将が考えたのかい?」

「え、ああ…そうだよ。」

質問の意図がわからず、レオンは素直に答える。


「ふぅん、お前さんが…。また今度、ゆっくり話を聞かせてくれよ!」

レオンの返答を聞き、ソラがそんな事を言うと、スージーがサッとレオンとソラの間に割って入った。

「だ、ダメよ!あなたさっきから良い人みたいな事してるけどパッカの店の奴じゃないの!レオンのレシピとかが狙いなんでしょ!」

ソラのライバル店の人間とは思えない言動で思考回路がフリーズしていたが、ようやく頭が回るようになったスージーが警戒を露わにする。


「ああ、まあ今はそうだな。取り敢えず今日は失礼するよ。またな。」

「今は?今はって言ったか?辞めないでくれよぉ〜!」

ソラが思わせぶりな事を言った為か、すがりついてくるパッカ。


「お前さんが責任持って仕事するなら考えるさ。経営者なら経営者のやることあるだろ。」

とパッカをなだめるソラ。

その後に呟いた「いずれは帰るけどな…。」と言う言葉は誰の耳にも届かなかった。


「ごちそうさま!またな!」

改めてそう言うと、今度こそソラはレオンの店を後にした。

縋り付くパッカを引きずったまま。


「あれ、今の子和食じゃなくて日本食って…。」

ふと、先ほどのソラの言葉に違和感を覚えるレオン。


「行っちゃったの。結局どう言う人だったの?」

「パッカって人は嫌味だしバカなのはわかったっす。」

「エルフの子はどうなの?」

「なんか男前で良い人そうっすね。」

「でもライバル店なの。」

などと、一部始終を傍観していた弟子たちは呑気に会話を交わしながら厨房へ戻っていくのだった。

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