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ソラは地面に横たわり全身を汗まみれにして、ハァハァと息を切らしていた。
余程体力を消耗したのか、全身が小刻みに震えている。
頰は上気したように赤く、目には涙が浮かんでいるように見えた。
「全然できやしねえ…根本的に才能がねえのかな…。」
そう言って、悔しそうに下唇を噛んだ。
「カカカ!まるっきりダメだが、根性は凄いな!」
「老師…。」
横たわるソラに向かい、ふらりと歩みよってきたムガイが声をかける。
「ここまで才能が無いやつは初めて見たな!魔力を操る気が一切ねえのかって疑っちまうほどだぜ!」
「魔力ってのが全くわからねえんだよな…気合い入れたらなんとかなってたし。老師、魔力ってのはそもそもどう言うものなんだ?」
ソラがムガイ老に質問すると、ムガイ老はキョトンと目を丸くした。
「そんな質問したやつはお前さんがはじめてだぞ?」
「な…そんなに変な質問だったのか?」
「まあ良い、哲学で聞いてるわけじゃ無いって言う前提で答えると、魔力は魔法を使うためのエネルギーだ。身体の中にある不定形のエネルギー。これはわかるな?」
「認識はあってるな。気だのオーラだの言われてるやつと似たような感じか。」
「俺にゃぁお前さんの言うそっちの方がわからんよ…そんで、俺たちが魔法を使うときは魔力にこう形を変えるよう魂で命令するんだ。」
「すまん老師、一気にわからなくなった。」
当たり前のように話すムガイ老であったがソラにはチンプンカンプンであった。
「なんでわからねえんだ?」
「いや、形を変えるとか魂で命令するとか、どうやってやるのか想像もつかなくて…身体の中にあるエネルギー、例えば血液に命令して形を変えるようなもんなのか?」
「血はそんなことできんだろ、魔力はできるけどよ。」
何を言っているのだと言わんばかりの態度でため息をつくムガイ老。
これではまるでソラがおかしいようである。
「常識なのか…常識…あ、そうか!」
ムガイ老のそんな態度でソラは気づく。
「そもそも魔法がある時点で、俺のいた世界と常識が違うって事じゃねーか!」
その通りであった。
ソラが元々いた世界は魔法など存在しておらず、そもそも魔力といった概念は存在していない世界。
しかし、いまソラがいる世界には、超常的でも何でもなく、空気のように、血液のように当たり前に魔力というものが存在する。
それを、ソラは超能力のような常識外の力として考えていた為知覚できていなかったのだった。
そう、認識を改めれば後は感覚を掴むだけであった。
「おお、さっきまでとは見違えるようだな!」
ソラが認識を改めると共に、自身の魔力を知覚すること事ができた為、まだぎこちないながらも魔力を操る事ができ始めていた。
「召喚!」
そう言うとソラは原付バイクを召喚してみせた。
そして、魔力を操り手を触れずに動かしてみせた。
はたから見るとバイクが生き物のように走り回っている。
一通り走り回させた後、ソラはバイクを送還させ、自由に操れている事を実感した。
「っしゃあ!どんなもんだ!」
ガッツポーズをとり、ムガイ老を振り返る。
「おう、上出来だな!これでやっと一般の魔法使いレベルだ。」
そう言ってムガイ老はソラに近づき頭を撫でる。
「どうやら俺が教えられるのはこれぐらいみてえだな。」
そして直ぐに手を離しソラから背を向ける。
「老師のおかげ…ってもうこれでおしまいなのか?」
「ああ、ほれ、見てみろ。」
そう言ってムガイ老は船の外を指差した。
そこには、薄っすらと緑の陸地が存在していた。
「もうすぐ船の旅は終わりだ、荷物をまとめて上陸準備をするんだな。」
「そうか、もう…ありがとうございました!老師!」
「おう、これからも精進しろよ、ソラ。」
「はい!」
長いようで短かった船旅はもうすぐ終わり、新しい旅がまた始まる。
ソラは船から見える陸地を見つめ、胸を熱くさせていた。
エターなってなるものか!
生活環境が変わったので生活を最優先にしてましたけど、色々と余裕できてきたので頑張ります。ぼちぼちで。




