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-82- 海と船と勉強と

広い広い大海原を船が行く。

船は帆船と言った形ではなく、四角い箱、巨大なカーゴのようであった。

それを巨大な首長竜のような姿に二本の大きな角の生えた海龍が馬車のように引っ張る、龍船である。


そのカーゴの上に展望スペースが作られており、そこには作り物のように美しい金髪の少女が一人。

龍の行く先、何処までも続く水平線を眺めていた。


潮風が少女の頬を撫で、長い金髪を激しく揺らす。

潮の香りがする空気を大きく吸い込んで少女は鈴の音のような透き通る声で言葉を噤む。

「かぁーっ!船旅ってのはいいもんだなぁ!」


その陶器のような唇か放たれる言葉は、どこかおっさん臭かった。

そう、彼女こそは見た目はエルフの美少女、中身はおっさん、その名も樫林空(ソラ)である。


「ソラさーん、グリンさんが気持ち悪そうにしてるんだけどー!ってわわっ!」

そんなソラの後ろからセーラー服にローブを羽織った魔女帽子の少女、サクラが階段を駆け上がり声をかける。

展望スペースの風が思ったよりも強かったのか、飛ばされそうになる魔女帽子を慌てて手でおさえつけた。


「あー、しゃーねぇな…連れて来たのか?」

ポリポリと頭をかき、ソラはサクラの方に向き直る。


「うん、ついてきてるよ。」

「うう…気持ち悪い…。」

よろよろと、サクラの背後から青褪めた顔をした騎士スタイルの銀髪の美女、グリンが姿を現した。


「…ん、グリン…情けない。」

「龍船はあまり揺れないのになんで酔うんですかねー。」

よろよろと歩くグリンの背中に手を当て、支えるようにしているボサボサ赤毛の少女、ルビィとその隣にふわふわと浮いているだけの黒毛の狐耳少女ゴンの姿もあった。


「まあ、あんま言ってやんな。まだ立ち直りきれて無くて弱ってんだろ。ほれお前さん、風当たりのいいコッチに座りな。」

そう言ってソラはグリンを風当たりのそこそこ良い場所に座らせる。


「うう…すまない…すまない…。」

「いいから、ちょいと待ってな。ゴン、杖を出してくれ。」

「はい、どうぞ。」

ソラはゴンから杖を受け取ると、何かを召喚する構えを見せる。


「はぁぁ!出ろぉ!」

気合いを込めて杖を振り下ろすと、光と共に小さなガラスコップが現れた。


「ほれ、これを飲め。」

そして、ソラはそのコップを手に取りグリンに手渡す。

「これは…冷たい…んぐ…んぐ…。」

ソラが召喚したものは、お冷であった。

つまり、ただの氷水である。


「飲んだら中の氷を口に入れとけよ、割と楽になるぞ。」

「ああ、わかっは、むぐ、ああ…すこひすっきひひてきた。」

言われるがままに氷を口に入れるグリン。

女体化したグリンの口には少し大きいようで口の中いっぱいになってしまっているが、顔色はみるみる良くなって来ていた。


「船酔いには氷ってな。後は落ち着くまでゆっくりしてるんだな。」

「ああ、ありがほう…。」

「なんかグリンさん最近王子様の面影ないですねー。それよりもソラさん、前にも少し言ってしまったんですけど…あの…その…

。」

グリンを介抱しているソラにゴンが話しかける。

しかし、自分のマスターにあたる人物にはっきりと告げていいものかと思い言い淀んでしまっていた。


「おう、なんだ?なんか言いたいのか?別に怒らねえから言ってみな。気になるじゃねえかよ…。」

「えー、では言いますよ。ソラさんって…魔力の使い方が下手って前に言いましたけど、下手って言うか…なんで成功しているのかわからないぐらい…扱えてないですよね…。」


僅かな沈黙の後、ソラは何事もなかったかのように、

「ほーん、そうなのか。」

と答えた。


「え、あ、はい。凄く無駄にしてます。今ぐらいの召喚なら杖なんかいらないぐらいで済みますし。」

ソラのどうでも良さそうなリアクションにゴンは面食らいながらも話を続ける。


「今までもそうでしたけど、気合いを入れるような仕草をしてる時は無駄に魔力をダダ漏れにしてました。今のだって使った魔力の100分の1ぐらいで十分召喚できたと思います。あんな小物に使いすぎだなと思ったので差し出がましいと思いながら言わせて頂いたんですけど…あの、本当に怒ってないですよね?」


「当たり前だ、怒らねえって言っただろ。まあ仕方ねえさ。下手くそでも。なんせ俺の世界にゃ魔力なんてもんは無かったからわかんねえよ。今までも気功とかそんなノリで使ってたしな。」


「いや、気功も普通にフィクションだと思うけど…。」

とサクラが小声でツッコミを入れるもソラはそれをスルーした。


「ま、教えてくれてありがとよ。」

そう言ってソラはゴンの頭をくしゃくしゃと撫でる。


「あの、良いんですか?うまく使えるようになりたいとかないんですか?」

話を続ける様子がないソラにゴンは問いかける。


「まー、無くても困らねえしな。元の世界に帰っても使える技術でも無し。今のままでも十分便利だしこのままでいいさ。」

「そうですか…でもソラさんの潜在魔力と召喚魔法ならある程度やるだけで一級魔術師検定も取れると思うから少しもったいないですね。」

「検定…?おいゴン、ちょっと詳しく教えてくれないか。」

魔法やファンタジー要素にあまり無関心だったソラが検定と言う言葉に大きく反応する。


「え、はい。魔術師検定と言うのは魔術師協会と言うところが正式に発行している資格です。三級から一級と特級の4段階あって、二級以上の資格を取っておくと魔術系の就職に便利って言われてますね。」

「簿記みてえだな…。」


「基本的に試験は魔力操作、魔力の大きさを見て、その後に魔法の実技で行います。実技は言わば得意な魔法の一発芸大会みたいなものですね。ソラさんの召喚魔法なら珍しいですし魔力操作だけなんとかしたら行けると思うんですよ。」

「はー、勉強はいらねえけど技術力を見る感じの検定か…それはどこで受けられるんだ?」


「魔術師協会の支部ならどこでも受けられると思うんですけど…一応寄りもしませんでしたけど今までの街にもありましたよ。」

「ふむふむ…。」

ゴンの説明を一通り聞いて思案するソラ。


「ザウスラントまであと一週間ぐらい船旅が続くんだったよな…なあゴン、お前さんは俺が魔力の扱いが下手って分かるぐらいにはそっちに明るいんだよな?」

「まあ私自身魔力の生命体みたいなものですし…。」


「じゃあ俺にちょっと手ほどきしてくれないか?」

「おや、興味無かったのでは…。」


ソラの突然の心変わりに面食らった様子のゴン。

「何、この世界に来てから資格の勉強とかして来なかったらからな。たまには息抜きに趣味の事でもやりてえと思ってな。」

ソラはそう言って、ニヤリと笑う。

エルフの少女のその顔は、新しいオモチャを買ってもらった少年のように楽しげであった。


「では私が教えられる事なら教えさせていただきますね。」

「おう、頼むぜ。」

こうして、ソラの異世界初の資格取得に向けての勉強会が始まった。

ただし、その資格が帰った後に役に立つかはまた別のお話である。

久しぶりの更新はソラのパワーアップ大作戦です。

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