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殴られて倒れた影響か、足に力が入っていない様子で少したよりない足取りでグリンは歩く。

ソラから受けたダメージが思ったよりも大きかったようだ。

「やあ、そうだよ。今は訳があってこんな格好だけど僕はグリン。サーキュライト王国の第二王子さ。」

そう言ってニコリと微笑むグリン。

頰にはソラの拳の跡が赤々と残っているが、それでも尚見惚れるほどの爽やかな笑顔を浮かべた。


だが、ネルは唖然とした表情のまま微動だにしない。

驚かせすぎたかなと思い、グリンはさらに優しく微笑み語りかける。

「なに、倒れていたけど話は聞かせてもらったよ。大丈夫、私はこうして生きているのだから婚約を私が取り消さなければ…。」

「い、いや!」

語りかけながら手を握ろうとしたグリンの手が、ネルによって弾かれる。


ネルは青ざめた顔で後ずさり倒れそうになるが、後ろに控えていたロバートがその身体を支える。


「ど、どうしたんだい?」

あまりにも狼狽えた様子にグリンは問いかける。


ネルは自力で立ち上がり呼吸を整え、グリンに向かって口を開いた。

パクパクと口が動くが上手く声が出せないようだ。


「落ち着きな、ほれ、もう一回深呼吸して、言いたい事があるなら息を吸い込んだ後に一気に言いな。」

見かねたソラがネルに優しくアドバイスする。


スーハーと深呼吸した後、ネルは大きく息を吸い込んでやっとの思いで言葉を紡ぐ。


「へ、変態!!!」


と、グリンに向かって大きな声で告げるのだった。


「え、ええ…?変態…だって?」

今度はグリンがショックのあまり倒れかける。

見かねたランプが素早く駆け寄りグリンの身体を支えた。


「変態よ!変態!なんでグリン王子が女の子になってるのよ!ど、同性と許嫁なんてありえないわよ!」

ネルはさらに言葉を続ける。


「まあ、普通そうですよねぇ…。」

ゴンはうんうんと頷く。

「ん?すきなら、せいべつとか、どーでもいい。」

ルビィは不思議そうに首を傾げる。

「わ、私は愛があれば良いと思うけど…女の子同士で結婚しろって言われたら困るなぁ…。」

サクラはあくまで普通の感想を述べる。


三者三様の意見を耳にしたグリンは次にソラを見る。


捨てられた仔犬のような目で見つめられたソラは、腕を組み「うーむ…。」としばらく考え込む。


そして、ハァとため息混じりに言葉を放つ。


「まあ、当人同士がありならいいけど俺は同性と結婚すんのはやだなぁ。変態は言い過ぎだと思うけどよ。性癖は人それぞれだしよ?」

ソラとしては自分が男として、ノンケとしての考えを述べる。


「まあ、そう言う事ですな。グリン王子…いやグリン王女様。同性で結婚など当人で愛し合ってしなければ無理なのですよ。」

支えていたランプが優しくトドメを刺した。


その言葉でグリンはがくりと項垂れる。


「あ…あたしったらつい…失礼な事を言っちゃったわ…申し訳ありませんグリン『王女』!でも同性はどうしてもナイって言うか…。」

「お嬢様は悪気があった訳ではありませぬ!グリン『王女』!どうかご慈悲を!」

王族相手に言い過ぎたとグリンに謝罪するネルとロバートだったが『王女』呼ばわりがさらにグリンの心を抉る。


「こ、こんな姿になった私にも非がある…だろう…許す…だが婚約は破棄で…問題ないな?」

グリンは精神的ダメージから息も絶え絶えで沙汰を告げる。


「え、ええ…ありがとうグリン『王女』。」

許され、婚約破棄を告げられて取り敢えずホッとするネル。


「けどよ、グリンとの婚約破棄は良いけどそれだとランプさんと許嫁になるんだろ?良いのか?絵面的に。」

若い娘と脂ぎったおじさん貴族との組み合わせはソラとしては犯罪にしか思えなかったので思わず正直な意見を口走る。


「た、確かにこんなブタ貴族とは嫌だけど…お金のある家にあたしが嫁がないとあたしの家はもう取り潰しになるわ。」

「取り潰しだあ?」

「当家はある事情で莫大な借金を抱える事となりまして…元々お嬢様が王家に嫁ぐと言う事で信用して頂けていたのですがグリン王子の失踪でそれも危うくなりましてな。それで借金を肩代わりする代わりに嫁に来るようにとそちらのランプ様が申し出て下さっていたのです。」

ソラの疑問にロバートが低調に答える。


「あー、時代劇とかでよくある借金のカタにみたいなもんか…人様の家の問題だからなんとも言えねえけど…。」

事情は理解したが、あまりすっきりしない内容の為ソラは苦い顔を浮かべる。

「なんとかしてあげられないのかな?ソラさん…。」

サクラはネルに同情した様子で、ソラに助けを求める。


「でも部外者が首を突っ込んで良い問題じゃねえしな…渋々でもネルのお嬢ちゃんが納得してんならそれで仕方ないんじゃねえか。」

しかし、ソラは自分達がなんとかできる問題ではないと首を横に降る。


「おやおや、これではまるで私が悪党の様ですなあ。」

そんな中、ランプが見兼ねて口を挟む。

そのわざとらしい口調にネルは苛立ち睨みつける。


「嫌われたものですなあ…あなたの家を見兼ねて助け舟として婚約を申し出たと言うのに…。」

「何を…お金で買われたみたいなものじゃない!良いわよ!家のためにあんたの慰み者になってあげるわよ!」

ランプの言う事が鼻についたのか、ネルは思わず激昂した。


「いえいえ、そのような事は微塵も考えておりませんよ。私は親切でやっていますので。」

「どうだか!」

尚も怒りを露わにするネルの様子にランプは困ったように頭を叩く。


「ここまで嫌がられてしまうとなると…こちらも考え直さなければいけませんねえ…。」

ため息をついて、くるりとネル達に背中を向けるランプ。


「お嬢様、まずいですぞ…ランプ様との婚約がご破算になれば当家は…!」

その様子に慌てるロバート。

だがネルは興奮しており「うるさいわよ!」と一蹴した。


「この手段は問題があるから使いたくありませんでしたが…ルト!こちらへ!」

ランプがそう宿に向かって叫ぶと、金髪で身なりの良い美少年が現れた。

まだ10歳ほどだろうか。中性的な顔つきをしているが利発そうである。

彼がルトと呼ばれた人物のようだ。


「はい!父上!何かご用ですか?」

ルトはランプに向かって尋ねる。

なんと、この美少年は驚くべきことにランプの息子であった。

ブタのような肥え太った紳士とは似ても似つかない外見だ。


「さてと、ネル様?」

息子の肩に手を置き、ネルに向き直るランプ。

「な、何よ…。」

「私が嫌でしたら、まだ10歳ですが私の息子と婚約ではどうですかな?息子に婚約者はまだ早いと思っていまして私が名乗りを上げたのですが…。」

「え、えええ?!」

思わぬ提案に素っ頓狂な声を上げるネル。


「え、父上!?ぼ、僕がこんな綺麗なお姉さんと婚約だなんて!おそれ多いですよぅ!」

そして、いきなり話をふられたルトも顔を真っ赤にして声を上げる。


「ふぉぉ…!」

その様子に、ネルは思わず変な声が出て口を抑える。


「ははは、ルトは満更でもなさそうですなあ。」

その様子にランプは嬉しそうに笑う。

太った悪代官のような笑みではなく、暖かく見守る父親の顔であった。


「ち、父上!からかわないでくださいよ!」

ランプにそう言われますます顔を赤くさせるルト。


「…るわ。」

「お嬢様?」

口を抑えていたネルがスッとランプの前に向かって歩き出す。


「お、お姉さんからも父上に何か言ってあげてくださいよ!僕にはまだはやいって!」

ルトは近寄ってきたネルに向かって助けを求めた。

ネルはニコリと微笑みルトの頭に手をやると、ルトはさらに照れた顔を見せる。

そして、ネルはランプの顔をキリッと見つめる。


「あたし、この子、ルトと結婚するわ!」

そう告げたネルの鼻からは赤い液体が滴り落ちていた。

そう、ネルは少年趣味であった。

「えええ!?ぼ、僕なんかでいいんですかぁ!?」

戸惑う少年だったが、彼も若くして年上好きに目覚めており満更でも無かった。

こうして、ある没落貴族と成金貴族の縁談は順調に進む事となったのである。


「当人同士で話はついたみてえだな。良かった良かった。」

「え、ええー…。」

「見た目とは違って本当に良い人だったんですねえ。」

「もともと、まるっこくてかわいいよ?」

「そんな事より私は婚約破棄され…ふられたのかな…これからどうしたら…。」

「あー、うん。宿屋にとっとと入ろう?な?愚痴なら聞いてやるからよ。あと殴って悪かったな…。」

「そ、そうだね。お部屋で女子会しよっか!失恋話の後はぱーっと騒いだりして忘れるもんだよ!」

「女子会って言うのはやめろ!」「やめてくれ!」

様子を見ていたソラ達は、唯一の被害者であるグリンを慰めるべく、宿屋で飲み、食い、歌い、騒いで過ごすのだった。


後に、グリン王子が生きていたが女体化していた報せは国中に知れ渡る事となり、10人居た婚約者は1人を除いて破談になったのだった。

女の子同士いいよね…。

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