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路上で話し込んで居たソラ達の視線が、宿屋から現れた銀髪の女騎士に集う。


「少しお話したら格安で泊めてくれると言う事になってね、ってどうしたんだい?そんなみんなで私を凝視して…。」

「おう、ちょっとお前さんに聞きたい事があるからちょいとツラ貸せや。」

「な、なんだい…?」


戸惑うグリンの顔を引き寄せソラは小声で問う。

「おい!お前さんあの嬢ちゃんに見覚えは無いか?」

「ん?あの娘とはあちらの?」

問われて視線をネルの方へと向けるグリン。

そして、「ああ」と一言呟きソラに答える。


「彼女は見覚えがあるね、この街の領主の娘でネル=トリアだったかな。」

「へえ、本当に知り合いなのか…じゃあ聞くけどよ、お前さんとあの嬢ちゃんが許嫁ってのも…本当なのか?」

「ああ、確か彼女も私の許嫁の1人だったかな。」

「そうなのか!…って許嫁の『1人』だぁ?」

聞き捨てならない一言にソラはその整った顔を顰める。

あまり女の子のして良い表情では無かったが中身はおっさんなので致し方ない。


「ああ、他にも確か…9人ほどいたはずだよ。」

そんなソラの様子に気づかぬグリンは質問の続きと思い素直に答える。


だが、その返答でソラはこめかみに青筋を浮かべる。

「なんだって?」

「だから、他に9人ほど許嫁がいたはずって…もしかしてソラさん」

「バッキャロォ!」


『もしかして、ソラさんは嫉妬してるのかい?』などと軽口を叩こうとしたグリンの顔面にソラの全力の拳が迫る。


「ひっ!?」

とグリンがその拳の勢いに小さく悲鳴を上げると、ソラの拳がピタリと顔の前に止まった。


拳を止めたソラは、目を閉じて難しそうな顔で何か考え込んでいる様子であった。


「あ、あの…ソラさん…?」

そんな謎な状況にグリンは戸惑う声でソラの名前を呼ぶ。


すると、ソラはクワッと目を見開き

「やっぱりバッキャロォ!!!」と言って途中で止めた拳を振り抜いた。

ピタリと静止した状態からの無拍子と言われる拳であった。


「なぶぇ!?」

と声にならぬ声を上げて姫騎士は吹き飛ばされ、壁に激突してぐったり動かなくなった。


そんなグリンに向かってソラは怒鳴りつける。

「一夫多妻とか文化の違いかって思って思いとどまったけどよぉ…結婚相手をうろ覚えだあ?不誠実すぎんだろ!」


ソラは許嫁が数人居ると言う時点で不誠実だと思ったが殴る寸前にここが異世界であると思い至り止まった。

しかし、それならそれで「見覚えがある」だの「9人はいたはず」だの許嫁、未来の伴侶に対してその言い方は不誠実だと怒りを露わにしたのだ。


「一夫多妻自体はいいんだ…。」

「と言うかこちらでは普通ですからね。」

「ん、ソラのハーレムルート希望…。」

とグリンがのびているのだがサクラ、ゴン、ルビィは特に気にした様子もなくつぶやく。


「ちょ、ちょっとあなた達の仲間がぐったりしてるんですけど!?」

そんな中、ネルは心配そうにグリンに駆け寄った。


「あ、ありがとう…ネル…さん…。」

ふらふらとネルに支えられグリンは礼を述べる。

「あら、あたしの事を知ってるの?どこかで会ったかしら?」

ネルは名乗ってもいない銀髪の女性に名を呼ばれて驚き訪ねた。


「それはそうさ、これでも一応君の…。」

「おやおや!お客様がお連れ様を呼びに戻ると言ったきり中々戻ってこないので様子を見にきてみれば!これはこれはネル様ではありませんか!」

グリンが答えようとしたところに、宿から現れた恰幅の良い緑髪の中年が現れる。


「チッ…クソ豚…。」

ネルはその男を見るや、忌々しそうに舌打ちして悪態をついた。


「ははは、傷つきますなぁ!婚約者を見て豚呼ばわりとは!」

面と向かって悪態をつかれるも、男は愉快そうに笑う。


「豚と呼ばれたく無かったら痩せたらどうかしら?」

「あいも変わらず元気がよろしいですなあネル様?しかし、婚約者にそのくちぶりは貴族のお嬢様とは思えませんな。」

尚も悪態をつくネルに対して男はでっぷりとした腹をさすりながら余裕の笑みを見せる。


「なあ、もしかしてネル嬢ちゃんが言ってた豚貴族って…。」

「左様でございます。彼が行方不明のグリン様の代わりにネル様の婚約者にと名乗りを上げた貴族。宿屋王ランプ様でございます。」

ソラが疑問を問うとロバートはそれに丁重に答える。


「おっと失礼…コホン。どうも皆様、お初にお目にかかります!当宿のオーナー、ランプ=スイミンと申します!皆様に快適な夜をお約束するランプグループの宿屋をどうぞご贔屓に!」

ソラ達の探るような視線を感じたランプは恭しく、大袈裟に名乗りを上げた。


「どうも、これはご丁寧に…私はソラと申します。お店の前で騒がしくしてしまって申し訳ありませんでした。」

丁寧に名乗りを上げたのでソラは礼儀を正して挨拶を返す。


「この人がネルさんの…?」

「見るからに悪徳な感じが…。」

「たべすぎ…?」

サクラ、ゴン、ルビィはいかにも肥え太った悪徳貴族と言う見た目のランプに嫌悪混じりの視線を向ける。


「おい、お前らもキチンと挨拶しねえか!礼儀は大事だぞ。」

そんなサクラ達の不信な視線に気付かず、ソラは挨拶も無いことを注意する。


「あ、うん…そうだね。」

ソラに注意されてサクラはハッとする。

見た目がいかにもであれ、もしかしたら真っ当な人間かもしれないのだ。

初対面で蔑ろにするのは失礼だろうと思い直した。


「私はソラさんの同行者でサクラと言います。挨拶が遅れて失礼しました。」

「私は精霊のゴンです。」

「ん、ルビィ。」

と各々が名乗りを上げるのを見るとソラは満足そうに頷く。


「どうも、皆さま歓迎致しますよ!さあそんな所に立っていないで中へどうぞ!良い部屋を格安でご用意させていただきましたので!」

「こう言う時の格安ってあんま信用できないんだよなぁ…。」

笑顔で中へと促すランプ。

だが値段が気になるソラはぼそりとそんな事を呟く。


「本当の格安ですからどうぞご安心くださいませ!お値段はなんと!ごにょごにょ…。」

ソラの呟きを耳ざとく聞いていたランプは宿泊費をソラの耳元でとっておきの情報であるかのように囁いた。

それは確かに、普通の宿のさらに半額を下回るのではないかと言う程の格安であった。


「本当にお安いんですね…無理してませんか?」

「ははは、むしろタダでも良いと申したんですけどね!何せ王族のゆかりの方ですし。しかし、グリン様がそれではいくらなんでも失礼だと申しましてこのお値段にさせて頂きました。他の方々には内緒ですよ?」

とソラの問いにユーモアを交えてランプは答える。


「ちょっと待ちなさいよ!いまグリンって言ったわよね!」

聞き捨てならない人物の名前が出てきた為、ネルが思わずランプに詰め寄った。


「ええ、言いましたとも。貴女の元婚約者であるグリン様の事ですよ。」

ランプはニコニコと平静を崩さずに答える。


「元なもんですか!生きてたならそっちとの縁談が生きるわ!あんたの方が破談よ!」

獰猛な笑いを浮かべるネル。

これでランプとの婚約話が無くなると鬼の首を取ったような気分であった。


「いやー、申し訳ありませんがそうは行かないのですよ…ネル様。」

しかし、ランプは平静を崩さぬどころか余裕のある表情を浮かべる。


「何よ!グリンがいるなら婚約続行でしょ!」

「いえいえ、それはもう無理なのですよ。」

「なんでよ!」

「なんでと言われましてもねえ…グリン様の今のお姿を見たらわかると思いますが…ほら、そちらの。」

そう言ってランプはネルに壁際を見るよう促した。


ネルは言われて視線を向けると、先ほど手を差し伸べた銀髪の女騎士の姿があった。

お待たせしました。

夏コミで燃え尽きてましたが復活です。

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