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激しい剣幕で詰め寄る女性に対して、ソラは面倒臭そうに頭をかいている。

「だいたいレディの腕をキメるとかなんなのよ!どう言う教育をされてきたのよ!ほんと頭来ちゃう!」

「ああ、はいはい、そりゃフードで顔を隠してたらこんなお嬢さんとは思わねえからな。それについては悪かったよ。すまねえな。」

女性の文句が一区切りついたところでソラはバツが悪そうに謝罪した。


「ふん、思ったより素直じゃないの…まあ許してあげるわ。」

素直に謝罪する事で女性の怒りは落ち着いたようだ。

多少この女性も自分が不審者だった事は認めているようでお互い様と考える節もある。


「でも何で衛兵に追いかけられてたんだよ?なんかやらかしたのか?それならまた突き出…」

「それについてはわたくしからご説明致します。」

ソラが問いかけると、女性の影からすっと黒づくめの老人が現れてソラの言葉を遮った。

文字通り、影からである。


「うわ、びっくりした!」

「驚かせてしまいましたかな。わたくしはロバートと申します。こちらのネルお嬢様の執事をやっております。」

そう言うとロバート老はうやうやしく頭を下げる。

それと、女性の名はネルと言うらしい。


改めて見ると、ネルはお嬢様と呼ばれるのに相応しい出で立ちをしていた。

赤いドレスを身にまとい、腰まで伸びたウェーブのかかった金髪は、よく手入れされており薄暗い時間帯でも輝いて見えた。

ロバートの方は、老執事らしく燕尾服を着て白い髪をオールバックにしてはいるが、目つきは鋭く片目は眼帯と言ったいかにも只者では無いと思わせる容貌であった。


「お、おう…俺はソラです。こっちのちっこいのはゴン。赤いのがルビィ。女子高校生がサクラ。あと一人グリンって奴がいるんですけど今はあの宿の中に入って値段交渉しているみたいです。」

丁寧な挨拶をするロバートにつられてソラも自己紹介を返す。

女子高校生と言う言葉は通じていないがあまり気にしていない様子であった。


「グリンですって?今グリンって言ったの?」

そんな事よりもネルには最後に上げたグリンの名前にネルが強く反応する。

その反応でソラは失敗に気づく。

(そう言えば忘れてたけどあいつ王子様じゃねえか…!)


そう、グリンはサーキュライト王国の王子である。

サンクトリアはサーキュライト王国の領地の1つであり、グリンはここでも有名なのであった。

また、グリンは整った顔立ちをしておりアイドル的な人気が高い。

若い女性からは第一王子のヤースよりも絶大な支持を受けているのだった。


ソラはそこまで人気があるとは知らないのだが、騒ぎにはなるだろうと想像する。

サーキュライトの宿屋にやって来た時も人集りが出来ていたしここでもそうなるのではないかと。


「ああ、グリ…グリーンさんだぜ。美人の騎士様だ。」

故に、ソラは咄嗟に誤魔化すことにした。

実際グリンはどこからどう見ても女騎士なのであながち嘘でも無いだろう。


「なんだ、グリン王子じゃないのね…やっと見つかったと思ったのに残念だわ。」

ハァとネルは深いため息を吐いた。


「やっと見つかった…?ねえ、グリン王子を探してるの?」

サクラはネルの態度に疑問を持ち尋ねる。


「あなた達知らないの?暫く前からグリンが失踪したって騒がれてるのよ。」

サーキュライト王国の各地ではグリン王子が突然姿を眩ませたと言うニュースが飛び交っている。

街を救った英雄達にヤース王子と共に労いの言葉をかけに行った後に行方不明になったと言う事だった。


街の外へと向かう姿は目撃されているが、近隣の街や街道で一切の目撃証言も無く、魔獣や盗賊にやられてしまったのではないかと実しやかに囁かれている。


「マジかよ…そんな事になってたのか…。」

「まあ、目撃証言は無いでしょうねえ。」

「あはは…そりゃねえ。」

真相を知るソラ達はなんとも苦い笑みが浮かぶ。

女体化していれば王子様の目撃証言など出るわけもない。

今のグリンを見て誰が王子と思うだろうか。


「早く見つかってほしいわ…じゃないとアタシはまた逃げなきゃいけなくなるもの。」

「お嬢様…。」

「何よ、嫌なものは嫌なの!」

「これも貴族の務めですので…。」

「いーや!誰があんな豚なんかと結婚するもんですか!」

グリン失踪の話を聞いてなんとも言えないでいると、ネルとロバートが言い争いを始める。


「おいおい、なんだよ?なんか訳ありなのか?」

ただならぬ様子にソラはおせっかいなおっさんの血が騒ぎ口を挟む。


「訳ありよ!グリンが見つかんなかったらアタシはクソ豚貴族と結婚しなきゃならないんだから!」

ソラが尋ねると、ネルはややヒステリックにそう答える。


「はあ、よく分からねえが政略結婚ってやつか?んでそれが嫌で逃げ出してたって感じかね。」

「ええ、そう言えば説明しそびれてしまいましたな。まあ概ねそのようなものでございます。いろいろ訳がありまして…。」

なんとなく察したソラは考えを口に出すとロバートが気まずそうに答える。

どうやらネルお嬢様は親に強いられて望まぬ結婚をさせられそうで逃げ出しているらしいと言う事だった。

それをネルの父が私兵を使って捜索していたところにソラが居合わせて突き出したのがつい数時間前の事である。


「だいたい分かったけど、グリン王子がどうして関係してるの?」

先程からグリンが見つかればと言っている事についてサクラが質問する。


「それは、アタシがグリンの婚約者だからよ。」

「「「えっ?」」」

ネルの答えにソラ達は声を揃えて驚いた。


「やあ、みんな待たせたね。」

そんな中、グリンがひょっこり宿から戻って来たのだった。

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