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長方形の木製の板の上に所狭しと料理が並んでいた。

ライス、味噌汁、海苔、芋煮の小鉢、そして中央にはでかでかとしたピンク色の魚の切り身が鎮座している。


「まさかこんな所で焼き鮭が食えるとは!」

海産物目当てで魚の看板がある食堂に入ったソラ達一行。

そこで適当に頼んだ料理に馴染みのあるものが出てきてソラは瞳を輝かせていた。


「にしても、この鮭ちょっと大きいね…切り身でも普通の5倍ぐらいあるよ…。」

サクラは少し焼き鮭の大きさに辟易している様子だ。

それでも、日本人には馴染み深い光景に少し嬉しそうではある。


「ソラさん達のも中々美味しそうだね。それにしてもいい匂いだ。食欲を唆る。」

グリンの前には秋刀魚のような普通の焼き魚が脂を滴らせている。


「はやく、たべよ。」

「そうですね、もう私もお腹がペコペコですよ。」

ルビィとゴンの前にはジュウジュウと音を立てて今もなお加熱されているステーキが置かれている。

二人は肉食系のようだ。


「そうだな、いただきます!」

「いただきまーす!」

「はむ、はふはふ、むぐ。」

「むぐ、熱いですね…美味しいですけど!」

「いただきます。魚は久しぶりだなあ。」

ルビィとゴンはソラがいただきますを言うと同時にステーキにかぶりつく。

サクラとグリンはゆっくりとフォークを持ち魚を口に運ぶ。


そして、ソラはじっくりと目の前の焼き鮭定食を見定めていた。


(まずは小鉢か)

ソラは小鉢に入った芋にに箸を伸ばす。


(茶色い、日本なら甘辛く煮た味で間違いねえんだが、ここは異世界だ…思った通りの味だとは限らねえ…)

一見して普通の和食ではあるが、ソラは今までの事もあり警戒を怠らなかった。


恐る恐る芋を口に運ぶ。


「もぐ…。」

もちもちとした食感のそれを咀嚼し、飲み込む。


「うまぁーい!」

そして、気づけばソラは叫んで居た。


芋はソラの想像したように甘辛く煮込まれており、少しスパイシーな香辛料の風味がした。

醤油が使われているのは間違いないし、和風の出汁の味も染み込んでいたが、和食かと問われれば首を傾げる。

一言で表そうとすれば、創作和食だろう。


完全に期待通りでは無いが、ソラは概ね満足であった。


次にソラはメインとも言える焼き鮭のようなモノに箸を伸ばす。

ほろりと、肉の繊維に沿って綺麗に身がほぐれる。


一口大になったそれをソラは口に運ぶ。


「……」

そして黙ってライスを口に運ぶ。


「っかぁー!これだよこれ!塩っ辛い焼き鮭に白い米!あー茶漬けにしてぇー!」

普通の鮭よりも大味で濃厚なそれは、塩分過多と思われる程塩気が強かった。

だが、それが丁度良いのだ。

大味であるが故に濃いめの塩気が合う。

ソラの知る鮭では無なったからこそのハーモニーである。


「うめぇ…めっちゃうめえ…。」

歓喜で震えながらライス、鮭、ライス、鮭と箸を進める。


と、度重なる塩辛い鮭の連続で喉が渇いて来たことにソラは気がついた。

ならば、次は当然味噌汁だろう。

茶色いスープが入った器を手に取り、匂いを嗅ぐ。


「うん、味噌で間違いねえな。」

醤油があるのだから味噌汁で間違いないと確信はしていたものの、一応の警戒は怠らない。


味噌汁はシンプルに白味噌で、ワカメが浮かんでいるワカメの味噌汁のようだ。

ソラは赤出汁と言われる赤味噌の味噌汁も好きだが、塩辛い鮭を食べているのだから多少なりともあっさりとした白味噌もありがたい。


そのまま、器を口元まで持って行き直接口をつける。


こくりと白い喉が動く。


「……」

そして再びの沈黙の後、がっくりとソラはうな垂れた。


「なんか違ぇ…。」

そう、ここに来て期待はずれだったのである。


味噌は確かに使われていた。

ワカメも間違いなく海藻のワカメだろう。

だが、出汁ではなく幾多の香辛料が使われていた。


この世界での味噌汁のレシピは、ある料理人が広めた完全に日本の味噌汁が伝わっている。

だが、ソラの飲んだそれは明らかに違う。

サンクトリアの人間が、長い年月をかけて、地元で好まれる味に作り変えていたのだ。


地域によって好かれる味覚は違う。

例えるなら、東京で食べる本格的な博多ラーメンがどこか豚骨の強さが足りずに物足りないようにローカライズされていたのである。


ましてやここは異世界。

創作和食どころでは無いとんでもないローカライズされる事もありえるのだ。


そこで、ソラは味噌汁とは最早呼ぶことのできないそれを少しずつ飲み、ソラ自身の舌もローカライズしていく。

最初から味噌汁と思って飲むから違和感があるのであって、ローカライズされたスパイシーミソスープの味自体は悪く無いのである。


その後、なんだかんだでソラは美味しく焼き鮭定食のようなものを完食。

満足感に浸りながら食後のお茶を飲むのだった。

因みにお茶は烏龍茶のような味であった。


「はー、へんてこな味の味噌汁に一時はどうなるかと思ったが概ね満足だ。」

「私はちょっとあのスープは無理だったかな…でも他は凄く満足したよー。」

「まん、ぷく。」

「ご馳走様ですー。」

ソラ以外の面々も食事を終え、食後のお茶を飲みながら一息ついている。


「ところで良いかなソラさん。」

落ち着いたところで、グリンが言う。


「ん、なんだ?」

「いやね、サンクトリアに来たは良いけど…今更なんだけどソラさん達はどこに行こうとしてるんだい?」

本当に今更な質問であった。


だがグリンの疑問ももっともで、旅とは言っていたが、目的には一切触れたことがなかった。


ただ神の作った運命を引っ掻き回せば良いだけなので、ソラは別に目的なんかを持つ必要が無いのだが。


強いて言うなら、それは。

「観光だよ、どこでも良いからこの世界を見て回るのさ。」

「ふぅん?そうなのかい?まあ私はどこまででも付いて行くとも。そのうち魔女殿に会えるかも知れないなら、どこまてでもね。」

分かったのか分からないのか、グリンは一先ずそれで良いかと納得したようだ。


「取り敢えずザウスランドだったか?そこを目指してはいるがね。」

「そう…なの?」

「ルビィちゃん…ずっとソラさんと旅してるのに知らないんだ…。」

「ソラさえいたら、わたしはどこでもいい。」

「なんだかんだでルビィさんはソラさんの事好きですよねー。」


それからも暫く食堂で雑談に花を咲かせていると、突然食堂に一人のフードを被った女性が何かに追われるように飛び込んで来た。

「なんだ?」

必死の形相にソラ達は気になって様子を伺うと、フードの女はソラ達の元へ駆け寄って来て

「ちょっと失礼、これからむさ苦しい男達がアタシを探しに来るけど、知らないって言っておいてちょうだい。」

と告げるだけ告げてソラ達のテーブルの下、テーブルクロスで隠れるようにそこに入り込んで行った。


そして、続いてゾロゾロと武装した衛兵達が流れ込んで来る。

「今ここに怪しい女が来なかったか!」

衛兵はそう叫び店内を見回す。


食事時は過ぎており、店内にはソラ達と店員しかおらず、店員は知りませんよと露骨に調理場へと引っ込んで行った。


ソラ達も何も言わず、ソラを除いて全員が手元のお茶に視線を落とす。


「ふむ、居ないようだな。」

そう言って衛兵達は踵を返す。


「あの!」

その瞬間、ソラが立ち上がり衛兵に声をかける。


「なんだ?我々は忙しいのだが。」

仕事の邪魔だと言わんばかりの態度で衛兵は答える。


「多分その女この下に入り込んで来ました。」

とソラはテーブルを指差す。


「「「「な!?」」」」衛兵、ソラの仲間、そしてテーブルの下から困惑の声が上がる。


いち早く動いたのはテーブルの下に隠れて居た女。

テーブル下から抜け出し、素早く調理場へ向かおうとする。


だが、次いで動いたソラにあっさりと捕まりアームロックの体勢で捕まってしまった。


「ぐあぁあ!」

関節に走る痛みで女が苦痛の声を上げる。


「ああ君!そこまでしなくて良いから!離して!離してあげて!」

それを見ていた衛兵が思わず止めに入る。


その後、女は逃げることを諦めてがっくりと肩を落とし衛兵に連行されて行かれたのだった。


「ソラさん、ここは匿うとこじゃないの?」

お約束を少しでも理解しているサクラはソラに尋ねる。


「いや、不審者がいて警察いたら突き出すだろ。」

だが、お約束なんて知らないソラは至極一般的な考えを口にするのだった。

こう言う食べ歩きができたらなあと憧れてます。

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