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ソラ達は走った。
アードベックの寝室を飛び出して、外に繋がる窓を一目散に目指していた。
廊下には、ソロバンが大量に立ててあり、ソラ達が走る衝撃でパタパタとドミノ倒しのように倒れて行った。
「仕掛けは上手く行ってたみてえだな!もう意味ねえけど!」
「なんか勿体無いねっ!」
「そんな事より早く外へ出ましょう!」
「予定ではあの窓からだったね!」
「いそ、ぐ!」
そのソロバンドミノはソラ達が仕込んだ仕掛けらしく、階下へと続く階段へと続いていた。
階段にはさらに紐や大きなタイヤなどが設置されており、ドミノが進めば某教育番組の様にどんどんと先へ進んで行っただろう。
「脱出だ!」
ソラ達は倒れて行くドミノには最早目もくれず、真っ直ぐに窓を目指す。
窓からは太いロープがぶら下がっており、そこから外に出られるようになっていた。
アードベックの寝室があるのは古城の三階であった為、そのフロアからすぐさま外に出ようとすると、ロープなどを伝う必要があったのだ。
瞬間、古城が爆発音で揺れる。
「うおお!!!飛び降りてでも外に出ろぉ!!!」
爆発の中心はソラ達が先ほど居た場所、アードベックの寝室。
正確にはその真下からであった。
「しょ、障壁!」
サクラが慌てて自分たちの周りに身を守る結界を展開する。
瞬間、爆風がサクラ達に届く。
結界で守られたサクラ達はそのまま勢い良く、窓からシュポーンと射出される事になった。
そして、そのまま古城を取り囲む森の木々の中に突っ込んで行った。
「いてて…みんな、怪我は無いか?」
「大丈夫です〜。」
「だ、だ大丈夫だ!」
「ん、おけ。」
「怖かったー!」
吹き飛ばされたものの、サクラの魔法と木々がクッションになったおかげで、ソラ達は爆発に巻き込まれながらも無傷で脱出に成功した。
「ありがとな、サクラ。危うく城と一緒に吹き飛ぶ所だったぜ。」
ふぅーと大きく息を吐いて、ソラはサクラに礼を言う。
「えへへ、ギリギリだったけどね…。」
「それよりも、城が…!」
グリンが古城を見て震えているのでソラ達も振り返ると、そこには大きな火柱が上がっている古城の姿があった。
「うわあ…。」
正直やりすぎた、後悔と罪悪感がソラにのし掛かる。
爆発の原因はソラが仕掛けた呪いの首輪のせいで間違いないだろう。
ソラは予め、アードベックが話を聞かないようなどうしようもない相手だった事を想定して、全ての呪いの首輪をアードベックの寝室の下、丁度城の中央に位置する広間に重ねて置いておいたのだ。
破壊すると爆発する特性を活かした爆破装置としてである。
ただ、遠隔で爆破するような装置は持ち合わせていない為、アードベックの寝室から呪いの首輪を仕掛けた広間までソラが召喚した道具をドミノ倒しのように並べて導火線がわりにしようとしていた。
ゴールにたどり着いたら呪いの首輪をナイフが切り裂いて爆発するように。
だが、その仕掛けはアードベックが遠隔で呪いの首輪を起爆した為使われる事無く爆発に巻き込まれ消滅した。
「やらかした…。」
ソラがぽつりとそう呟く。
爆発の威力はソラの想像を絶するもので、天に届くほどの火柱が立ち上っていた。
他の面々も言葉も出せずその光景をただ見つめていた。
さらに、城内の罠にも飛び火したのか至る所で爆発が起きている。
言葉で表すならば凄惨の一言である。
「あ…ああ、こ、この火柱が奴の積み重ねて来た罪の重さなんだ!」
グリンがそんな事を口走る。
「そ、そうか!そうだよな!奴らが攫った子供の数がこの火柱の高さなんだ!」
ソラが何かを悟ったようにグリンの言に乗る。
「まあ…確かに呪いの首輪の数の分火力が上がったからここまで凄い事になったんだろうね…。」
「そうですねー、間違ってはないですね。」
サクラとゴンはどこか呆れ気味だ。
理論武装、それは罪悪感を和らげる言葉の魔術。
ソラ達はやりすぎた破壊工作に正当性を持たせる事で己の罪の意識から逃れる事にしたのだ。
実際、起爆したのはアードベック自身だし、アードベックはどうしようもない悪党であった為、そこまで強い罪悪感を感じる必要は無かった。
「悪は去った!多くの人を苦しめた報いだ!ははは!」
グリンがさらに虚勢を貼るように大きな声で宣言する。
いつの間にか馬小屋にいたはずの白馬にまたがり決めポーズを取っている。
流石女体化していても王子様であり堂に入った宣言であった。
実際は呪われていたりソラの作業を見ていたりしていただけで何もしていなかったがその辺りは気にするべきでは無いだろう。
「いつの間にか雨が上がってんな…まだ暗いけど先、行くか。」
とりあえずは心の平穏を取り戻したソラはそう言ってバイクを二台召喚する。
「えっと、スイさん達はいいの?」
「あいつらなら無事に帰れてるさ、そもそもあいつらの村の場所とかわかんねえし…元の道に戻って先に進むしかねえさ。」
「ですね。まあ道中会えるかもしれませんし気にせず行きましょう。」
まだまだ爆発、炎上を続ける古城に背を向け元の道へと戻るのだった。




