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ヴァンパイアと呼ばれる種族の朝は遅い。


ヴァンパイアとは種族は夜の住人である。

夜の闇の祝福を受け、夜である限りは絶大な力を振るうとされている。


だが、その代償として陽の光や神聖なるモノ、つまりは陽のモノには耐性が無い。

故に、昼間は隠れ家で眠り、主に夜のうちに活動するのだ。


そんな生態はさておき、アードベック個人としては夜も昼も関係なかった。

彼はヴァンパイアロード、ヴァンパイアの中でも最も力が強く、傲慢であった。


故に、「何故我が昼夜などと言う世界に翻弄されればならぬのだ。」と言って好きな時間に寝て、好きな時間に起きる事を旨としていた。


今は時間で言えば深夜、ヴァンパイアが最も活躍する時間である。

だが、彼はそんな時間にも関わらず豪奢なベッドの上でぐーすか熟睡していた。


冒険者の来訪や、城の罠を好き勝手に攻略する珍客のせいでそれなりに疲れが溜まったようでそれはもう深い眠りであった。


しかし、その眠りが突然の「ドカン!」という爆音で妨げられた。


「な、なんだ!なんなのだ!」

驚いて飛び起きるアードベック。

音のした方角に顔を向けると、眠る前に捕まえたはずの冒険者達の姿があった。


「ぉはょーございます…なんてな。よう、よく眠れたか?」

そして、冒険者達の中でも一際目を惹く金髪の美少女エルフ。

ソラがニヤけた顔でアードベックに向かって言うのだった。


「貴様らが何故ここに居る!地下牢に入れさせたはず…!」


「色々あってな、まあそんな事はどうでも良い。俺はお前さんに言いたい事があってきたんだ。」


「首輪を付けていないという事はあの小娘が裏切ったのか!くそ、腹立たしい!人間如きが我に歯向かおうなどと思い上がりおって!」

ソラがアードベックに向かって話しかけるが、アードベックは耳を貸さずに一人で憤慨していた。


「おい、あー頭に血が上ってんな…おい!聞けよ!おい!聞けっつってんだよ顔面蒼白ゴボウ野郎!」

「てめえ今なんつったエルフ風情がぁ!」

話を聞かず憤慨し続けるアードベックに対してソラは大きな声で罵声を投げかける。

すると、ノータイムでアードベックはキレた。


そして、眼にも止まらぬ速さでソラに襲いかかる。


が、それは叶わなかった。


「ぶべ!」


見えない壁のようなモノに物凄い勢いで激突したのだ。


「うお、びびったぁ!早すぎて見えなかったけどキレて殴りに来たんだよな?障壁っての作っておいて貰って良かったぜ…。」

アードベックの早さに驚き、無事だった事にホッと胸を撫で下ろすソラ。


アードベックが襲いかかって来たらと考えて、予めサクラに魔法でアードベックの寝床を囲むように障壁が張られていた。

アードベックはそれに気付かずぶつかってしまっていたのだ。


「だ、大丈夫かな…なんか首の向きがおかしな方向に曲がってるけど…。」

障壁を張っている当の本人はと言うと、顔から勢いよくぶつかり、首の骨がどうみても折れてるような角度で曲がってピクピクと震えているアードベックを心配そうに眺めていた。


震えていたアードベックだったが、しばらくすると身体を起こし、首の角度を調整して何事も無かったかのようにソラ達に話しかけた。

「それで、何故貴様らが自由な状態で我の寝所にいるのだ?」


苛だたしげな声ではあったが、幾分か冷静さを保っているようだ。


「言っただろ、話があるってよ。ふうどっこいしょ。」

そう言ってソラはアードベックの前に胡座をかいて座る。


「貴様らが首輪をはめておらぬ理由はなんなのだ?」

そんなソラを見下ろすようにアードベックは言う。


「拘るねぇ、一回は俺たちにそんなの付けられたけど単純に外しただけさ。」

「馬鹿な…あれは切ったり無理に外そうとしたら爆発する呪いをかけておいたのだぞ!?」

「まあ、外す方法があったってだけだ。それで俺たちの話は聞いてくれるかい?」


含みありげな言い方をして、ソラはアードベックに対話を促す。


「む…良かろう、自力であの首輪を解除するような貴様らだ、何か愉快な話でもしてくれるのであろう?」

訝しむような視線を向けながらも、ソラの話を聞くべくどっしりとベッドに腰を下ろすアードベック。


そんなアードベックに向かって、ソラは語りかける。

「なあ、お前さんよ…子供攫って閉じ込めてるみてえだけどよ…もうやめねえか?」


「ふむん?」


「何をしようとしてるかはメイドから聞いたけどよ、人質とかみっとも無いとは思わないのか?聞いたぜ、あんたヴァンパイアロードとか言うすげえ強い魔族なんだろ?なら、正々堂々とよ、勇者を待ち受けてりゃあ良いじゃねえか。そっちの方が貫禄とか出るぜ。どっしり構えて、強く見せてやれよ。」

ソラは親身な口調でアードベックを諭そうとしていた。


「だから、な?人質はもう取るのはやめて、真っ当に生きようぜ?じゃなきゃお天道様に見せられねえぜ?」

ニコリと笑顔でそう言うソラ。


「太陽など元々好き好んで見るものか!我は人質は趣味でやっているのだ!魔族に真っ当に生きろなどと馬鹿ではないのか?」

当然、アードベックはそれを一蹴した。


「やっぱりダメか?」


「当然だ、我は下等な人間どもが怒り、悲しみ、苦しむ姿が何よりも楽しみなのだからな。この間も楽しかったぞ?攫った子供を助けに親が一人でここにやってきてな。罠でボロボロになりながらも古城の奥にまでなんとかたどり着いて…我は感動したから子供を連れてきてやったさ。そして、念願の再開、子供を抱きしめた瞬間…その親は子供にナイフで胸を貫かれたのさ!首輪で我の操り人形だからな!ああ、その時の表情と言ったら最高であった!絶望、我に対する怒り!お?貴様らも中々いい表情になってきたではないか!」

アードベックは趣味と称した自身の行いを楽しそうに語る。

その内容の残酷さにソラ達はみるみる顔を怒りで歪めはじめた。


「ねえ、ソラさん。こんな奴許せないよ…。」

サクラは震える手をぐっと握りしめソラはに言う。


「ここまで腐れ外道だったとはな…ブン殴ってやりてえがさっきの動きからして俺は敵いそうにねえのが悔しいぜ…。」

ソラも、拳を握り、怒りに震える。


「話はそれだけか?」

怒るソラ達を愉快そうに眺めるアードベック。


「ああ、もういい…話す事はもうねえよ。」

ソラは立ち上がり、アードベックに背を向ける。


「ならばこの厄介な障壁を解除するがいい。自力で首輪を外す実力だけは認めてやって見逃してやってもいい。」

障壁をコツコツ叩きながらアードベックは言う。


「本当に見逃すかは怪しいとこだからな、俺たちが出て行った後で解除してやるよ。じゃあな。ほら、お前らも行くぞ。」

そう言ってアードベックの寝室を後にしようとするソラ達。


その背中に、アードベックがわざとらしい大声で語りかけた。

「ああ!そうだった、実はあの首輪、無理やり外すとか破壊する他に、我が好きな時に爆発させられるんだったなぁ!気ばらしに子供達を数人、吹き飛ばしてみようかなぁ!」


ソラはギョッとした顔で振り返る。


その驚きの顔にアードベックは気分を良くし、ニヤリと歪な笑みを浮かべる。


「やめろ!早まるんじゃねえ!」

ソラは大声で制止する。


「やだね、あと10秒で子供が死にまーす。」

巫山戯た口調でアードベックが言う。


「くそっ!走れお前ら!」

ソラはそう声をかけると、仲間を伴って大慌てでアードベックの寝室から出て行った。


「ははは!急いだって無駄無駄!おや、障壁が消えたか。じゃあ後からゆっくり追いかけて飛び散ったガキを見て絶望している顔でも拝んでやるか!あははは!」

心底楽しそうにアードベックは笑う。

子供を助けるためにわざわざ対話にくるお人好しだ。

さぞかしいい顔が観れるだろう。

そう思うと自然と笑いが止まらなかった。


「それじゃ、どっかーん。」

そう言ってアードベックは首輪に仕込んだ呪いを発動させる。


瞬間、古城が揺れた。

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