-65- 新たな召喚
曇天の空の下、二台のバイクと一頭の白馬が道を行く。
「なあグリン、お前さんこの先の街に行った事あるか?」
バイクを運転する金髪のエルフの少女、ソラが尋ねる。
「ああ、もちろん何度かあるさ。港町コラル、巨大な珊瑚の見守る美しい街さ。」
ソラの隣、白馬を駆る銀髪の女騎士グリンは答える。
「巨大な珊瑚は初耳だな、それよりもあとどれぐらいかかるかって分かるか?」
ソラはただの港町と認識して、そこを目指して居たがその様な観光情報は初耳であった。
どう言うものかとても気になるが、今はそれよりもそこまでの距離が気がかりだ。
「そうだね、あと半日といったところだろうか。」
「半日か、それまでに降ってきそうだよなぁ。」
そう言ってソラは空を見上げる。
辺りはやや暗くなり、風も心なしか強くなってきた。
「大型トラックでも出せりゃあ馬ごと乗せれたんだがな…よし!試してみるか!」
そんな事を思い付きソラは原付を停める。
グリンとサクラもソラにあわせて走りを止めた。
「一体何をするんだい?」
「また私たちが知らないようなモノを召喚するんですかね?」
「ん、楽しみ。」
グリン、ゴン、ルビィの異世界組はソラの言う事がよく分からず、何をするのか好奇心を刺激されていた。
「大型トラックって確かそれ用の免許いるんだよね?ソラさん持ってるの?」
唯一理解しているサクラはソラに尋ねる。
「おう、大型も大型特殊ともあるぜ。」
ソラはそれが自慢できる事と言わんばかりに、親指をグッと立ててドヤ顔で答えた。
「へー、ソラさんって色々免許持ってるんだね!すごいなぁ。」
サクラは大型と特殊の違いは良く分からないが、とにかく免許を色々持っている事に感心しているようだ。
「技術と免許はいくらあっても困らねえからな。色々取っておけば就職に有利だぜ。」
ソラは言う。
「就職かぁ…そうだよね、私、元の世界に帰れたら進学して、就職するって言う普通の学生に戻れるんだよね…少し前まではずっと師匠の下で生きていくと思ってたから…。」
サクラはそう言ってシュンとした顔を見せる。
「まあ、絶対に帰らせてやるし帰るからそう辛気臭くなるなよ。それよりも、いっちょ試すから見ておきな。」
ソラはサクラの背中を軽く叩いて慰め、原付に括り付けてあった杖を手に取った。
「よっしゃ!男カシバヤシソラ、でっかい魔法を見せてやるぜ!」
ソラはそう言って杖を構える。
「おー…いいぞー。」
「ソラさんの魔力なら凄いモノが出てきそうですねー。」
「ドキドキするな…。」
「ソラさん頑張ってー!」
真剣な表情で力を練り上げるソラに応援の声がかかる。
ソラは丹田に力を込め、大きく息を吸い込んだ。
「すぅぅ……せいっ!!!!」
息を大きく吸い込んだ後、気合いと共に杖を振るう。
すると、ソラの前に光の粒子が現れ、どんどんと集まり形を創り上げていく。
「よし!成功か?」
原付や料理道具を召喚する時よりも大きな形ができあがるのを見てソラはガッツポーズを取る。
ドスン、ドスン、ドスン、ドスンと音を立てて大きなモノが地面に落ちた。
「あー…。」
それを見たサクラが落胆の声を上げる。
「これがソラさんの出したかったモノなのかい?」
グリンがそう尋ねると、ソラは首を横に振った。
「違うよ、まあ一部ではあるがな…失敗だ!」
召喚されたモノ、巨大なタイヤを見てガックリとソラは項垂れる。
「あの、前々から思ってたんですけどソラさんっ…魔法の使い方下手ですよね。」
そんなソラにおずおずとゴンは意見を述べる。
「仕方ねえだろ…魔法なんか無い世界で生きてきたんだからよ。」
「魔力は十分に見えましたけど、体の中で凄く力が渦巻いてて…でも杖から出て来るのはその一部と言うか外に出せて居ないと言うか…勿体無いですねぇ。」
ゴンは尚もソラの魔法のダメ出しを続けた。
「つまり出力が下手くそなのか?あれか、ハーッ!って手から出すあれみたいなのができねえとダメなのか?」
ゴンの発言から、改善余地があるのかと気になったのでソラはそれに食いついた。
「そうですね、もっと魔力を外に出すイメージを持って…とおや?」
ゴンがさらに話を続けようとしたところ、ゴンの顔に雨粒が当たる。
「やべえな、とうとう降り出しちまったか…地面がしっかりしたトコ探してテント張って凌ぐか。」
ソラはそう言って辺りを見渡す。
一面が森に覆われており期待はできなさそうだったが。
「ん、こっち、石畳あるよ。」
ソラに向かってルビィがそう告げる。
「でかした!って石畳っつーより舗装された道だな?」
ルビィが指差した方向の向こうに、石で作られた道が見えた。
よくよく見ると、森の奥へと続いているようだ。
「なんだろ?見てみようか。」
サクラがそう言って石畳の道を歩き出す。
「そうだな、建物でもあれば儲けものだし無かったらその場でテント広げて雨宿りだ。」
ソラはそう言ってサクラに続く。
「待ってくれ!なんか、凄く不気味じゃないか!怖く無いのかい!?」
グリンが馬を引きながら慌てて追いかける。
「たてもの、あるといいね。」
「そうですねー、あれ?でもここは…何か引っかかるような?」
ルビィとゴンは2人で話しながらゆっくりと3人の後を追う。
ソラ達一行は、森の中へと続く道へ消え、雨の勢いは次第に強くなり、空の色は益々暗くなって行くのだった。
最近フルで聞いた某トラックのCMソングが思ったよりも良い歌で、しかも色んなバージョンがある事を知って驚きました。




