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微睡みの中、人の気配を感じてソラは眼を開く。

すると、そこにはソラの顔を覗き込む絶世の美女の顔が目の前にあった。


「うわあ!」

驚き、思わずソラは寝袋から飛び起きる。


「やあ、おはようソラさん。」


そんなソラに笑顔で目覚めの挨拶を送る銀髪の美女、グリン。


「びっくりしたぞおい!なんだよ朝っぱらから…。」


「いやあ、昨日聞いたぴざとーすと?だったかい、それが気になってね、ソラさんが起きたらすぐに作ってくれないかなんて思ってね。」


「だからって寝てるとこにまで来なくていいだろうが…寝起きにすげえ美人に覗き込まれてたら心臓に悪いわ。」

そう言うと、ふぅーと深呼吸し、ソラは頭を切り替える。


「ははは、すまないね。でも昨日のチャーハンも美味しかったし待ちきれないほど楽しみなんだ。しかし美人ね、うん、美人か。」

照れくさそうに頬を赤らめそう言うグリン。

本来、美人は男に対する褒め言葉では無いのだが、ソラに言われると妙に嬉しく感じてしまうのだった。


んー!と声を上げ、ソラは大きく伸びをする。

「んじゃまあ、顔洗ってから朝飯の仕度するか…。」

「ああ、そうしよう。楽しみだなぁ。」

グリンはまだ見ぬピザトーストの味を想像し、少年のように心を躍らせていた。

普段の王子様らしい凛々しさは食欲に負けてしまったらしい。


そんなグリンを見て、ソラはしょうがないなと思いつつ、少し呆れ顔だ。

そして、ふと何か思いついたのかニヤケ顔を浮かべグリンにこう告げた。

「そうそう、確か旅の同行を許可した時に俺はちゃんと言ったよな。王子様だからって特別扱いはしねえってよ。」


「ああ、確かに言っていたね。勿論私もそのつもりだ。」


「わかってるならいいんだ。つー事でだ、朝飯は作り方教えてやるからお前さんが作りな、グリン。」

ソラはグリンの方にポンと手を置いてそう告げた。

「え…?」

突然のソラの発言にグリンは眼を丸くする。


「飯の仕度は交代制だぜ。」

「そ、そうなのか…?分かった、料理などした事は無いがそう言う決まりと言うのならやってみせましょう。」

突然の指示に驚き戸惑うグリンだったが、ソラが言うのならと初料理に挑戦する覚悟を決めた。


「まあ、そのルールは今決めたんだがな。」

ソラは聞こえないぐらいの小声でそうつぶやいた。


こうして、グリンのはじめてのお料理を体験する事になった。




「まずはこのトマトを薄くスライスしてだな…。」

「薄く…?なるほど、やってみよう。」

簡易キッチンには必要な食材が並べられ、それをどうするかソラの指導の元グリンは料理を始める。


まずは、食材を切るところからだ。


グリンはトマトをまな板の上に置き、包丁を構える。

その姿は、一流の騎士のらしく隙の無い構えだった。


そう、明らかに最初から間違っていた。

だがソラは何も言わず腕を組んで傍観していた。


「ソラさん、ちょっとあれは明らかに間違ってるよ!」

見かねてサクラがソラに言うが、ソラはしーっと人差し指を立ててサクラを黙らせる。


「いいんだよ、最初は失敗した方が良い経験になるってもんだ。その方が記憶が鮮烈に残って後々の為になるもんさ。」

「そ、そうかなぁ?まあそう言うなら私もだまって見てるけど…。」

ソラがそれで良いと言うので、渋々ではあるがサクラも余計な口は出さずに傍観する事にした。


「はぁ!」

その時、まな板の前で構えていたグリンが動く。

掛け声と共に、凄まじい速度で何度も何度も包丁を振るわれる。


そして、瞬く間に薄く斬られたトマトがまな板の上に並ぶ事となった。

中のゲル状になった部分を崩さず、そしてとても、薄かった。

その薄さはおよそ3ミリほどである。


「どうだい?こんな感じでいいのかい?」

グリンはやり遂げた顔で唖然とするソラに向かって言うのだった。


「うん、そうだな、薄くとは言ったが芸術的なまでに薄いな…ちゃんと教えるか…。」

この世界に慣れたとは思ったが、常識が通じないのは本当に勘弁して貰いたい。

そう思いつつソラはグリンにお手本を見せながら料理を進めるのであった。




「じゃあオーブンが無いからフライパンで作るぜ。トマトとタマネギを軽く炒めてからフライパンから外して、その後にそれなりに薄く切ったフランスパンに乗せ変えてだな。」

ソラはそう言いながら手を動かしてグリンにお手本を見せる。


「ふむふむ、なるほど。中々簡単そうだね。」

「そりゃな、切って乗せて焼くだけの簡単な料理だからな。金も時間が無い時によく作ってたなぁ…そん時はパンの耳並べて、チーズだけはケチケチせずにつかってこんな風によ…。」

ソラは昔をしみじみと思い出す。若干酸っぱい思い出のようだが、とても穏やかな顔をしていた。


「ってそろそろ頃合いか、あとはグリンが仕上げるんだ。さっき俺がやってたみたいにパンの上にチーズ乗せて焼き上げるだけだ。」

「なるほど、簡単だ。任されたよ。」

グリンはそう言ってチーズを乗せる。


「いいぞ、あとは蓋をして熱してやれば良い感じにチーズが溶けて出来上がりだ。」

そう言ってソラはグリンにフライパンの蓋を手渡す。


「なるほど、熱したら美味しくなるのか…ならば!」

そう言ってグリンはフランスパンにしっかり蓋をして呪文を唱える。


「全てを焼き尽くす煉獄の焔よ、我が力、我が呼びかけに応えここに顕現せよ!」

グリンがそう言うと、轟とグリンの手元から焔が現れ、フライパンは一瞬で焔に包まれる。


焔はさらに轟轟と音を立てて、天に昇るほどの火柱を作り上げた。


「私は魔術の素養もあってね、熱が必要ならお手の物さ。」

「おいバカ!今すぐ火を止めろ!」

「いたっ」

ドヤ顔でソラを見やったグリンだったが慌てふためくソラに頭を叩かれた。


グリンは何故怒られたか分からなかったが、ソラの様子に慌てて魔術の焔を消失させる。


焔が消えると、そこには熱で赤々となったフライパンの姿があった。

ソラは真っ黒に焦げた蓋を弾いて中身を見る。


「あーあー…炭になってるじゃねえか…どう考えたら地獄の業火で焼き尽くすって発想になんだよ!」

「いや、熱したら美味しくなると言っていたし、昨日チャーハンを作ってたくれた時に火力が命みたいな事を叫んでいたものだから…いやすまない…。」

炭化したピザトーストになる予定だったものを見てグリンは申し訳無さそうに頭を下げた。


「いや、まあ勘違いさせたのは俺だし、はじめてだから仕方ねえか…すまんなグリン。作り直すからよく見て覚えてくれ。次はちゃんと作って貰うからな。」

落ち込むグリンに、勘違いさせた非が自分にもあるなと考え直し、優しく声をかける。


「すまない、ありがとうソラさん…次は、次こそはちゃんと仕上げてみせる!」

「おう、その次はな、今日は無理せず、常識的な料理を覚えような?」

涙目で、次は失敗しないと決意を固めるグリンにソラは今日は料理はどんなものか、やってみせる事にした。


「ゴン、悪いけどまた食材を出してくれねえか?」

「はいはーい、わかりましたー。」

そう言って再びピザトーストの材料を簡易キッチンに並べる。


並べながらゴンはふと思った事を口にする。

「いやー、凛々しい方かと思ってましたけどグリン王子様は結構な天然さんなんですねー。」

「え…?」


「確かに、結構な天然だな。でもまあ普段とギャップがあって可愛らしいじゃねえか。」

ソラがゴンの発言に対してあまりフォローになってないフォローをする。


「ん、ドジっ子ぞくせい。」

「やめなよ…。」

ずっとだまって傍観していたルビィがぽつりと言う。

サクラはそれをそっと窘めた。


話の中心となっているグリンは、その会話が全て聞こえており、手で顔を覆ってぷるぷると震えていた。

顔は隠れており表情を窺い知る事はできなかったが、その耳は真っ赤になっていた。

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