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-63- 燃え上がる焔

夜の闇を炎が赤く染め上げる。

轟々と音を立て、炎は次第に強さを増していった。


「よし、良い勢いだな!」

ソラはキャンプ地に設置した簡易キッチンの火種が勢い良く燃え上がるのを見て満足そうに頷いた。


「ソラさん、こんなに火力あげたらお鍋とか焦げ付いちゃわない?何を作るの?」

そんなソラを見てサクラは問う。


今日の飯は任せろと料理当番を買って出たソラ。

昔に料理屋で働いていて調理師免許も持っていると言うのでサクラはソラの料理をとても楽しみにしていた。


しかし、気づけばキッチンにはキャンプファイヤーと見紛うばかりの火柱が上がる事態となっていた。

サクラはそんな火力で料理は想像もつかなかった。


「まあ見てな。ゴン、準備しておいた材料を出してくれ。」

「はーい!これですね!」

ゴンはソラの指示を受け、テーブルに刻んだ野菜や肉、溶いた卵や冷えたご飯などを並べる。


「ルビィ!あれだ!あんまり火傷しなくなる魔法を頼む!」

「ん、わかった。」

ルビィはソラに向かって指を動かした。

すると、指先から光の奇跡が現れ、赤く光る魔術の印を作りあげる。

それは、炎耐性を付与するプリーストの補助魔法であった。

ソラに向かって飛んでいくその魔法を、ソラは身体に到達する前にがしっと両手で捕まえる。

本来、この魔法は身体全体を包むように炎耐性のバリアを張るのだが、勢い良く両手で掴む事で両手にのみそのバリアが色濃く張られる事となった。


「じゃあお次は俺だな、召喚!」

ソラが杖を構えそう言うと、光の粒子が集まりいくつかの形を作り上げる。

金属製の大きな鍋、中華鍋と一般的に呼ばれるものである。

さらには小さな小瓶、塩、胡椒、胡麻油、そして入れるだけで中華料理店の味になる万能調味料が現れた。


「それじゃ、炒飯作るぜ!」

今夜のメニューは火力が命の炒飯であった。


「戦闘準備じゃなかったのか!?」

道具を取り出し、補助魔法を施し、最後には召喚師があらかじめ召喚獣を呼び出しておく、冒険者なら戦う前に行う当たり前の手順である。

それを、ソラは料理の前に行っていたのだ。

この世界の常識人であるグリンが勘違いしてしまうのも無理はない。


「防護魔法をキッチンミトンみたいに使う人は私もはじめて見たかな…なるほどー、便利そうだね!」

サクラは変なところで感心していた。


「あいよ!炒飯お待ち!」

そんな呆れと驚きの混じる視線を気にする事もなく、ソラはあっと言う間に全員分の炒飯を作り上げた。


「ふわぁー!美味しそう!」

「なんとも食欲をそそられる香りだ…!」

出来上がったそれを見て、サクラとグリンは目を輝かせる。


お皿に半円状に盛られた炒飯、それは卵、ネギ、四角く切られた焼豚、そして緑鮮やかなレタスが入ったオーソドックスなレタス炒飯であった。


「昔中華料理屋で働いてた事があったからな!味は保証するぜ!にしてもダメ元で調味料出してみたけど出てくるもんだな…調理師免許取っておいて良かったぜ。」

当たり前の様に調味料一式を召喚していたがどうやら初挑戦だったらしい。


「オークリーからサーキュライトに行くまではお鍋だけでしたもんねー。」

「こんかいはそのときよりおいしそう…じゅるり。」

ルビィは待ちきれないとばかりにスプーンを手に取り炒飯をすくって口に運んだ。


「…!!!はむっ!はむっ!」

それが予想以上の味であった為、食べる手が止まらなくなってしまった。


「おいおいルビィ…頂きますがねえぞ?」

「いただきまふ…はむはむ。」

ソラにたしなめられると炒飯の入った口でそんな事を言って再び食べる事に夢中になりはじめた。


「んじゃ、みんな食おうぜ。いただきます!」

「「「「いただきます!」」」


「んー!この味!懐かしいなぁ!中華料理屋さんの味がするよー!」

懐かしの味を噛みしめる様に味わうサクラ。


「この味…城でもこんな美味なものは無いぞ…件の伝説の料理人でも、これ程のものは…!」

一口食べ、驚いているグリン。


「シャキシャキのお野菜の食感と味の濃いお肉が絶妙のバランス…これは味に目覚めましたよ!」

食レポをはじめてしまうゴン。


「前のやつより、いっそう、グッド。」

すでに食べ終え満足そうなルビィがソラに向かってグッと親指を立てる。


そんな皆んなの食べっぷりを見てソラは満足そうに微笑むのだった。


みな食事を終え、満足そうに寛いでいると、ソラは食器を回収しがてらグリンに声をかける。


「どうだ?美味かったか?」

「ああ、とても美味だった…はじめての体験だったよ、まるで味に襲われるような、暴力的でいて甘美な…。」

味を思い出すかのようにうっとりと語るグリン。

「いや、食レポはいいから。」

とソラは語りはじめたグリンを制止した。


「そんな事よりもお前さんは寿司とか食った事あるか?」

城のパーティ会場に寿司が並んでいたのでサーキュライトでは普通に食べられているのか、この世界では一般的な料理なのかがソラは気になっていた。


「ああ、スシは以前母上の知人と言う伝説の料理人が作ったモノを食べた事がある。あれも美味だったが私はソラさんが作った先ほどのチャーハンの方が美味しいと思ったよ。」

そう言えばと、グリンやヤース達の母、ノルトが知り合いの弟子がパーティ会場の料理を作ったと言っていた事をソラは思い出した。

ソラが口にしたものは弟子の作であっても相当に美味だったと記憶している。


「炒飯の方が美味いは言い過ぎだぜ、大トロの寿司とかも食った事あるだろ?そっちの方が美味くなかったか?」

「脂の乗った魚のやつかい?確かにあったね。美味しかった。でもやっぱりさっきの料理の方が良いさ、お世辞じゃなくて、そう思うとも。」

どうやら本心からグリンはそう言っているらしい。

その様子にソラは何か納得したように「ふむ…。」と一言唸った。


「よし、じゃあ朝飯にはピザトーストってやつをご馳走してやるよ。多分こいつも気にいるはずだぜ。」

「それは楽しみだ!」

「おう、楽しみにしとけよ。」

そう言ってソラは食器を片付けに向かうのだった。

レタス炒飯には鮭もいいんですけどやはり焼豚が王道な気がします。

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