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「今日も一日頑張るか!」

エルフの少女、ソラは姿見の前で気合をいれる。

朝日を受けて煌めく金髪を後ろで縛り上げポニーテールを作る。

袖をくるくる巻いたシャツと分厚い作業ズボンに着替えて元気よく部屋から飛び出した。

今日の仕事は街を囲む防壁の増築作業の手伝いだ。

増築はソラの発案した工法で取り掛かる予定である。

発案責任者として遅刻は厳禁、いつもより早い時間に現場に向かう。


「ちょ、ちょっと待ってください!」

ソラが、寝泊まりしている眠る豚亭の外に出た所でふいに声がかかる。

そこには狐耳少女のハクと眠そうなルビィの姿があった。


「おう、おはよう!今日もいい天気だな」

「おはよ…ねむ…」

と軽く挨拶を交わして現場に向かおうとするソラだったが、進路を両手を広げたハクが立ちふさがった。


「なんだよ、今日は急いでるんだよ。なんか用があるのか?」

いち早く現場に出て、段取りを確認したいと考えていたソラが迷惑そうに言う。

「急いでるじゃありませんよ!ソラさん、あの時冒険者になるって言ったのになんでこうずっと普通に土木作業員しちゃってるんですか!もう冒険者登録してから一ヵ月も経ってるんですよ!邪竜目覚めちゃいますよ!勇者来ちゃいますよ!」

そう捲し立てるハク。

「冒険者ギルド通して仕事してるし、問題ないだろ。なんか他の仕事だとゴブリン殺せだクマ殺して持ち帰れだ物騒なもんしか無かったし。これも一種の冒険者の形だよ。冒険してないけど。」


一応、ソラは冒険者になっていた。

ソラがこの世界に来て最初の夜、樫林空の資格一覧を見つけてから、冒険者になる道を選んでいたのだった。

なると決めたら即座にハクに案内してもらい、冒険者ギルドで冒険者として登録していた。

ソラが冒険者登録したのを見届けると、ハクは満足そうに「それでは冒険者ソラさん!今後の”英雄”としての活躍を期待していますね!」と言って消えていった。


それからひと月が経ち、ハクはルビィにソラの現状を確認してみると、どう聞いても完全に土木作業員になっていたので慌ててはせ参じたようである。

なぜなら、ソラの言う「物騒な」仕事をやってもらわないと困るからだ。


「ゴブリン退治とかしてくださいよ!冒険者は戦って強くなるものなんですから!」

「いや…まあ戦い続ければ慣れて強くなるかもしれないけどよ、好き好んで命の奪い合いとかしたくないし、こっちだってやられるリスクあるし、何より怖いし…」

現代人として当然の意見である。

だが、ここが現代の感覚があてにならないファンタジーの世界である事をソラはあまり理解していなかった。

「大丈夫です!”英雄”ならまずゴブリンやクマなんかには負けません!一般人よりもHPやDEFが高いですから何度か攻撃を受けても耐えられますし、レベルが上がればその辺りはみんなザコになりますよ!」

ハクはさも当たり前のように世界のシステムを説明するが、ソラにはあまり理解できていなかった。

仕事先で「タスクをアサイン」「エビデンスを提示して」「コミットする」などと言う言葉を初めて聞いた時の気分である。

だがニュアンスでなんとなくはわかったような気はするので確認する。

「するってーと、例えばゴブリンとかにこん棒で殴られてもナイフで切り付けられてもクマに殴られても即死しないぐらい丈夫な体してて、そいつら殺し続ければデタラメに強くなれるって言ってるのか?」

「ええ、そうですけど?」

当たり前じゃんとばかりの回答に思わず頭を抱えるソラ。

「常識が違う…ファンタジーかメルヘンかよ…ってファンタジーだったな…」

そしてファンタジー世界に居た事を思い出して納得した。

「今回はわかってくれたみたいですね!」

以前と違ってすんなり受け入れた様子のソラをみてハクは安堵した。

「なんとなくな、教えてくれてありがとよ。身を守る為には多少狩りとかして強くなっといた方がいいんだな。」

「ええ、ええ!」

ニコニコとうなずくハク。

「じゃあ、今の仕事が終わったら旅しながらちょいちょいマタギの真似事するか!」

「ええ、ええ?」

旅をすると言う聞き捨てならないワードに疑問符が沸くハク。

「防壁の増築作業のとっかかり作ったらそこで今の仕事が終わるから、その報酬で旅に出るんだよ。なんか仕事の評価が良いみたいで親方が追加報酬くれるって言ってたから楽しみだなー。」

今後の計画を楽しそうに語るソラ。

「旅って!ソラさんは邪竜復活と”勇者”来訪までこの街の冒険者してもらわないと!」

慌てふためくハク。

「ああ、旅に出るのはこっからかなり西の方に三千世界を見通す魔女ってのが居るって話を旅人から聞いてな、その魔女に会いに行きたいんだ。」

「いやいやいや!そうじゃなくてですね!邪竜とかどうするんですか!ソラさんが居ないと”勇者”がやられちゃうし邪竜が街まで来ちゃいますよ!」

「ああ、そういやそんなのあったな」


詰め寄るハクに、ちょっと待ってなと言い残して眠る豚亭に踵を返すソラ。


しばらくして、革袋を持ったソラがハクとルビィの元へ戻ってきた。


「ほら、これ」

ソラは革袋から白く光る宝玉をハクかルビィ、迷った末にルビィに手渡した。

なんとなく、ハクに渡すと驚いて落としそうだと思ったので。

「綺麗…なんか神聖っぽい…」

受け取った宝玉を見て感想を述べるルビィ。

そして、ハクは目を丸くして唖然としていた。

「話を聞いた次の日にさ、ラケルと一緒に邪竜?が封印されてるってとこ行ってさ、怪しい所掘ってみたら赤黒いドラゴンが寝てたんだよ。」

はははと笑い話のように語るソラ。

「で、感情っつーか気合入れたらその水晶っぽいやつ光ってそのドラゴンを吸い込んで白く光るようになったんだよ、ハクの話した通りだったな!」

「あ…ああ…」

ハクがかすれた声を上げるが気づいてないのか、話を続けるソラ。

「まあ、そう言う事で街とか勇者ってのは大丈夫だろうから旅に出るわ。悪いけど勇者来たらその水晶?渡してやっておいてくれよな。必要なやつなんだろ?」

「ああああ…ああああああ!」

ハクの声は次第に叫びへと変わり、頭を抱えもがきはじめた。

「え、えええ!?おい、どうしたんだ!?」

驚かせすぎたとかそう言う次元では無いリアクションに戸惑うソラ。

「なに…こんなの…はじめて…」

ハクに続いて、ルビィも様子がおかしくなっていた。

寒くもないのに、自分の体を抱きしめ震えている。

二人の豹変になんかまずいことしちゃったんじゃないかとおろおろするソラ。

「あああああああああああ!!!」

「ぅぅ…ぁぁ…」

そして、叫ぶハクと震えるルビィが閃光に包まれた。

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