-59-
突拍子の無いことを言われると人は思わず硬直してしまう。
一国の王子様がソラのあての無い旅に同行したいと言うのはそれ程おかしな事であった。
「よ、良い訳無いであろう!お前は余の弟なのだぞ!王子なのだぞ!」
いち早く反応したのはヤースであった。
「ええ、ですが私は第二王子です。次期王には兄上がいますし…別に構わないでしょう?何も問題ありませんよ。」
グリンはヤースの言葉を予想していたのか、何食わぬ顔で反論した。
「だがな、余にもしもの事があった時などは…。」
「留学中のマールが居るでしょう。それに私は王位には興味ないのです。それで、如何でしょうかソラさん?」
ヤースはさらに言葉を紡ごうとするが、グリンはキッパリと切り捨てた。
体格などはヤースの方が強そうだが、舌戦ではグリンの方が強いらしい。
そして、ヤースを黙らせたグリンは微笑みながらソラの答えを待つ。
ソラは少しの思案を見せた後
「すまないがお断りさせてくれないか。身分の高い人間と旅するのは無駄に気をつかいそうだし、一緒に旅する理由もないだろ。」
とハッキリと断った。
少しの思案は、できるだけ失礼にならないよう言葉を選んでいただけのようで、ソラは同行を許可する気はさらさら持っていなかった。
「理由ならあるさ、ソラさんやサクラさん、君たちの様な素敵な人の事を近くでもっと知りたいんだ。」
グリンは歯の浮く様なセリフと共に、とびきりのスマイルをソラに向ける。
もし、その笑顔がこの国の女性に向けられたものならば、その女性は黄色い声を上げて失神していたかも知れない。
そんなキラースマイルであった。
「しょうもねえ…、そんな理由なら尚更ダメだな。こちとらいちおう…女ばかりの集団なんだ。下心ある奴に来られたらそれこそ危ねえってもんだ。」
だがソラには通じない。
何故なら見た目は美少女、中身は中年男性だからだ。
サクラも、嫌な気はしないものの、自分が美形である事を自覚した上での行動だなと理性的に観察する事が出来たのであまり通じていなかった。
「下心があってはいけないのかい?」
それでもグリンはめげなかった。
「ダメだな、野獣を好き好んで連れて行くかってんだ。諦めて大人しく王子様やっててくれ。」
めげずにアピールをするが、男のアピールなどを受けても何も嬉しく無いソラは取り合わない。
「そうか…なら仕方ないね。大人しく今は引き下がるとしましょう。」
「ふはは、お前も振られたなグリンよ!では、余たちはお前の旅の無事を祈っておるぞ!」
「ええ、貴女の旅に幸が有らんことを。」
そう言って王子二人はあっさり諦めて帰って行った。
王子たちが帰ると野次馬の姿も散り散りに消えて行った。
「ふぅ、あんまりしつこくなくて助かったぜ。」
「そうだね、ヤース王子とかはまあ前回ので懲りてたんじゃない?」
「かもな。」
「グリン王子は、ちょっとくどい、ね。」
「私は王子様との旅もちょっと興味ありましたけどねー。」
「冗談、アイツは中々の女好き臭いぞ。下手すりゃ俺もサクラもルビィもあぶねえ。ゴンはまあ動物枠だから大丈夫だろうけどな。」
「酷いですよう!」
宿の前の人混みが居なくなり、一息ついてそんな会話を交わすソラ達。
「しっかし、男の下心ある態度ってのは向けられるとはっきり分かるんだな…。」
ソラはふと、そんな事をひとりごちるのだった。
―――
改めて、ソラ達は旅支度を整えてサーキュライト王国の西門までやってきていた。
「さて、こっからはノーヒントの旅だな。」
三千世界の魔女に会うと言う目的を持ってここまでやって来たソラだったが、次の目的は世界の運命を壊すと言うぼんやりとしたものだった。
なので、次に行く場所、やるべき事などは全くと言っていいほど定まってないのだ。
「師匠からは連絡無いの?」
「ああ、カードを時々見てるけど全然うんともすんとも言わねえよ。マジでバカンス満喫してるんじゃねえだろうなあの魔女…。」
そう言って召喚手帳を開き、リコから渡されたカードを見る。
そこに埋め込まれた12個の宝玉のうち、4個が点灯していた。
「気づいたらなんか光りが増えてるし、ほっといても勝手に満タンになるんじゃないのかなあ。」
などと希望的な憶測を呟くソラ。
「そうだよー、なんて言ったって運命神は力無くして新しい運命を作ったりできないからね。時間が経てばそのうち解放されるさ。」
その呟きに対して、ソラが手にしたカードから声がかかる。
カードを見れば、リコのホログラムが浮き上がっていた。
「師匠!」
「魔女じゃねえか、ようやく連絡くれたか。」
「色々やってたからねお姉さんは。」
そう言って快活そうに笑うリコ。
「さて、話を戻そうか。放っておいても運命から解放はされるんだけど、それこそ今生きてる人間の寿命が尽きるぐらいまで待たなきゃならないんだ。だから、君たちは旅をして世直しならぬ世乱しをするがいいさ。作れ乱世、壊せ世界!ってわけじゃなく、適当に人に干渉してたら勝手に運命は変わるさ。」
「そうなのか?特に戦ったり色々めんどくさいことしなくていいのか?」
運命を変える為に魔王を倒せだの勇者を倒せだの言われないかと不安が過り、リコに問うソラ。
「そりゃそうよ!だってソラくんの存在はあれよ、舞台劇の真ん中に台本の無い客が混ざってるようなもんなのよ。しかもその客は出演者に好きに干渉していいときた。それで台本通りに劇が続くと思う?」
「続くわけが無いな…てか迷惑な客だな俺!」
リコの例えを聞いて、ものすごくはた迷惑な行為をする自分の姿を想像したソラは思わず突っ込んでしまった。
「まあ、この場合は台本がロクでもないし壊した方が良い劇なのさ。その辺は納得したまえ。」
「わかったようなわかんねえような…まあ良い。それよりもだ、このタイミングで連絡くれたって事は次に向かうべき場所とか教えてくれたりするのか?」
いざ出発を言う時に声がかかったものだから、もしかしてと希望を込めてソラは聞いた。
「いんや、好きにしていいよ?自分の事は自分で決めな。君は何をしても良いし何もしなくても良い。一か所に留まらずに多くの人間の運命を変えたら効率はいいから旅は正解だと思うけどね。それを伝えようと思っただけさね。それに旅に出ようとしてるって事は何か目星があるんだろう?」
どうだ、図星だろうと言わんばかりにニヤリと笑うリコ。
「目星って言っても、気になる奴がいるだけだよ。」
「えー☆ナニナニ気になる人ってぇ☆ソラきゅん恋バナ?なになに女の子に目覚めちゃったのー?」
「切るぞ、おいこの通信どうやって終わるんだ?閉じたらいいのか?」
リコのとってつけたようなキャラと口調があまりにも不快だった為、召喚手帳を閉じてみなかった事にしようとするソラ。
「アー待って待って!冗談だから閉じないでよ!寿司とかプリンとか発明したって料理人に会いに行…」
とリコが話を続けようとしたがソラは容赦なく手帳を閉じた。
すると電話が切れたかのように声が聞こえなくなった。
「なんか、うちの師匠がごめんなさい…。」
自分の師の恥ずかしい言動に思わずサクラは謝ってしまった。
「お前が謝る事じゃねえよ。あの芸風は苦手だぜ…。それよりも、これからの旅は的外れじゃねえって事が分かって良かったなー。じゃあ行くかー。」
そうやって話を終わらせて、ソラはサーキュライト王国を出国する。
そして、ソラ達は門を通り抜け、移動用のバイクを召喚しようとする。
「ちょっと待った!ソラさん!私を連れて行ってくれないか?」
すると、そんなタイミングで背後からソラ達に声をかける者が現れた。
ソラがまた王子のどっちかが来たのかと振り返ると、そこには見知らぬ美女が居た。
銀の長い髪を持つ、鎧姿の美女。
白馬に乗ったその姿がなんとも様になっており、まさに姫騎士と言った風貌で合った。
だが、ソラにはそんな姿の人間に心当たりは無く、失礼を承知で尋ねてみた。
「あの、失礼ですがどちら様ですか?」
すると、姫騎士のような美女はにこやかに答たのだった。
「ははは、失礼してるのは私だよ。この姿では分かるはずもないだろうからね。私はグリンさ。勿論、君の良く知ってるグリンだよ。」
自分はグリン王子であると。
感想で一言頂けるとそれだけでもとても励みになります。
リアクション下手なのであまり返信できませんが、その分作品でお返しできるように頑張ります!




