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-57- 敗北者

サーキュライト王国の方から勝鬨の歓声があがる頃、その方角に背を向け駆け抜ける者が居た。

頭にクワガタのような歯を付けた人型の魔物だ。


彼は魔王軍幹部の1人、魔将イカロス。

とは仮の姿、神が魔王軍と勇者の戦力バランスを調整する為に遣わせた神霊である。


彼は魔王軍の幹部として、他の幹部同様に人類を侵略する作業を淡々とこなしていた。

そんなある日、彼の元に神からの念話が届いた。


「おいお前、魔王軍に派遣した…なんて名前だったか…まあどうでもいいや。お前、どうも私の力が最近不安定になってる。運命が勝手に形を変えてる気がするんだよ。しかも、どうなったのかよく分からない。運命神の私がだぞ?あー最悪だ。最悪。他の神霊も何匹か消えてるし。お前無事みたいだしちょっとなんとかして来い。力は少し貸してやる。それなりの成果が出なければ消す。苦しませて消す。じゃあよろしく。あー、最悪。」

などと一方的に使命と力を与えられた。


そして彼は、魔王軍の内部からおかしな動きがないかを調査する事となった。


それ以来、イカロスは魔王軍の動向におかしなところは無いか、進軍などの大きなイベントに滞りは無いかなどを魔王軍幹部である立場を利用して監視してきた。

結果、サーキュライト王国への侵攻に遅れが起きている事を発見し、さらには不利な状況に追い込まれているのを目の当たりにする事となる。


イカロスは自ら貸し与えられた神の力を霊薬として、この戦いのキーマンであるライトに貸し与えた。

すると、運命の矯正力が強くなり、ライトが人間達を圧倒し始めた。



しかし、すぐさま状況は覆され、ライトは敗北する。


「ナントイウコトダ…アノニンゲンガトクイテンナノカ?」

戦いを見守る最中、大した行動は起こさないが、的確に運命を破壊する者がいた。

運命の力による御都合主義、例えどんなバレバレの弱点であっても誰も気づかないようになる現象。

それをあっさりと指摘し、崩壊させる者がいた。


本来はここにはいるはずのないエルフの少女、ソラである。


「ハヤク、カミニホウコクセネバ…!」

イカロスは自身の使命を全うする為に、神への念話を試みる。

しかし、何も反応がない。


何故だ、何故神は答えない。

イカロスは困惑した。


だが、使命は果たさねばならぬ。さもなくば自分は消える。

念話が通じないならば直接会いに行くしかない。

そう思い次は転移を試みる。

しかし、転移は発動しなかった。


何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ!

神霊は主人たる神の元へ転移するシステムがあるはずだったのに、一切発動しない事に混乱を深める。


こうなったら、走って、跳んで行くしかない。

場所はシナリオの通りならばおおよその見当がつく。

確か神は…。


イカロスは神の現在の居場所に向けて駆け出した。

使命を果たす為、全力で駆け抜ける。




そんなイカロスの上から声をかける者がいた。

「お、クワガタみーっけ!ノコかな?オオかな?なーんだ神霊かー!」

色気を感じさせる女性の声、ただし内容は虫捕り中の子供のような発言だ。


イカロスはギョッとして頭上を見る。

何者かが高速で移動する自分の上で語りかけてきており、さらには神霊と見抜いている。

魔王軍であれ人間であれそのような事をできる者を彼は知らない。


「やーやー、はじめましてクワガタくん。あたしはリコ。ちょっと君の上司に用事がある者だ。」

「シネ!」

リコと名乗った女に対してイカロスは即座に襲いかかる。

全速力で駆けるイカロスに追いついた上に、イカロスの事を神霊と見抜いた上で上司に用があると言う女だ。

間違いなく危険な存在であるとイカロスは判断した。


「んもー、ちゃんと挨拶したのに襲いかかってくるとかなんなのさー。まあいいや、そんな事より君の上司の場所を…って無理か。」

イカロスの頭のハサミで両断された女が言う。


「ムリダロウナ、オマエハモウシンデイルノダカラ。」

吐き捨てるように、イカロスは言う。

そして、再び神の元へ向かおうとしたが、突然膝から崩れ落ちた。


「ア…?」

力が入らず戸惑うイカロス。

そんな彼を見下ろすように女が立っていた。

先ほど身体を両断された女が、無傷で何事もなかったかの様に。


「ナ…?」

何故だと聞こうとしたが、声が出なかった。

そんなイカロスを、夏の終わりの蝉を見る様な眼でリコは見つめる。


「君の上司がさらに弱体化したみたいだ。もう君からは神に繋がるパスがなにも残って無いね…可哀想に…。」

イカロスに向かってリコは話しかけるが最早なにも反応は無い。


返事をする力も残っていない。

ただ、リコの言葉を聞いて、信じられないと絶望を感じるのみであった。

嘆きたいが声も出せず、ただただ意識が薄れて行く感覚に恐怖する。


「まあ、運が悪かったね。ってそれはあたしもかー…どうやって神を探すかなー。」

リコは一瞬、哀れむ様な声色でイカロスに語りかけたと思いきやいつもの軽い調子に戻り頭をかいた。


「もう視えない事だしヒントは欲しいんだけどなー、この調子なら他の神霊もいなくなってそうだわ…さてさて、困った困った。いっそ諦めて本当にバカンス行っちゃうか。」

困ったと言いながらもどこか余裕を感じさせるリコの独り言を聞きながら、イカロスの意識は閉じた。


その後、魔将軍イカロスの姿を見た者は誰もいなかった。

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