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ライトは大剣を振るい、たった1人でラケル達4人を圧倒していた。
「あれ?こんなに弱かったっけ?なあグリン?君は僕のライバルだったよなぁー?」
そんな中、挑発するようにライトはグリンに語りかける。
「ライバル…だったとも…!」
怒りを隠せず、グリンはライトに斬りかかるが軽々と攻撃を弾かれる。
「だったらもっと頑張ってくれよー?あ、僕が強すぎるのか!ごめんねー!ははっ!」
そんなグリンの様子を見てさらに愉しげに口を歪めるライト。
完全に余裕の態度を見せている。
だが実際全く歯が立たないのも事実であった。
「挑発に乗るんじゃないよ王子様、隙を作ってあの見え見えな弱点に一撃かます事だけ考えな!」
ラケルは挑発に乗って頭に血が上ってしまっているグリンの背中を大きくパンと叩いて喝を入れる。
「すまない。」
ラケルの喝にそう一言だけ返してグリンは再びライトに意識を向ける。
ライトは挑発の言葉を投げかけながらもラケル、ルビィ、リリスの連携攻撃を捌いていた。
流石は一国の騎士団長を務めただけあって、達人と呼べる身のこなしであった。
冒険者として経験を積んできたラケル達も動きでは負けてはいないのだが、神の力の影響か、怪物じみた力を発揮するライトにいま一歩届かない様子だ。
「あーあ、こんなんじゃすぐに終わっちゃうよ!」
そう言いながら横薙ぎに大剣を振るう。
ラケルとグリンは咄嗟に後ろに跳び回避するが、リリスとルビィが攻撃範囲から逃げ切る事が出来なかった。
ルビィはリリスを庇うようにメイスを構えライトの剣撃に備える。
すると、目の前でその剣撃が大きく上に逸れて行った。
「な…。」
口にしたのはライトであった。
突然足元が滑って、ストンと尻餅をついてしまったのである。
咄嗟に足元を見ると、そこには丸い珠が無数に連なった見慣れぬ板が何枚も転がっていたのである。
「あーあ、ソロバンで遊ぶなって教えられなかったのか?」
尻餅をついたライトに1人の少女が声をかける。
癖のある金色のロングヘアーを持つ美しいエルフの少女、ソラが意地悪そうに笑っていた。
「くだらない手を使うんだね、っと!」
尻餅をついたライトに隙ありと言わんばかりにルビィが殴りかかる。
だが、ライトは身体を捻ってなんとか回避した。
そして、再び立ち上がろうとするが
ゴツン!と頭から鈍い音を立ててよろめいた。
「っ!なんだよ!」
何かにぶつかったと思いライトがその方向を見ると、そこには半透明の障壁が目に入る。
その先には細い杖を構えるサクラの姿があった。
「結界魔法か!面白い使い方をするね。」
サクラは防御の為の結界魔法をライトの動きを邪魔する為に使ってみせたのだ。
ライトが改めて体制を立て直そうとするが、サクラはライトの動きを邪魔するように新たな障壁を作り上げる。
そのせいで立ち上がる事もままならなかった。
さらに、そんなライトに向かってラケルが斬りかかる。
「がぁ!」
ライトは咄嗟に斬りかかるラケルに向かって転がり寄り、サクラの結界魔法による妨害とラケルの攻撃の直撃を回避する。
そして、サクラから離れるように跳躍した。
「くっそ!小賢しいなぁ!こんなんじゃ楽しく無いだろ!ほら、攻撃魔法とかで攻めて来いよ!」
ライトは度重なる妨害で苛立ちを隠せなくなっているようだ。
「サクラ、分かってるな?」
「うん、大丈夫!ソラさんのアドバイス通りなら行ける気がするよ!」
挑発に乗らないよなとソラはサクラに念を押すが、心配ないようだ。
ソラは戦線に突入する前にサクラに対してひとつアドバイスをしていた。
それはシンプルで尚且つ世の真理。
「いいか、餅は餅屋だ!斬った殴ったは幸いラケルだの王子だの専門家が揃ってる!なら俺たちは専門家が活躍できるように得意な事でサポートしたらいい。戦うって言っても無理に前線に立たなくていいぞ。」
というものであった。
そのアドバイスを受け、サクラは防御や結界魔法が得意で、攻撃魔法と違い詠唱無しで放てる為、今のような妨害を思い至ったのだ。
ソラもまた、召喚魔法で出せる道具を使い妨害をする事に徹する考えである。
隙を作れば後はラケルなりルビィなりがトドメを刺してくれるであろう。
「ったく…面白くないなぁ!くそ!」
攻撃を仕掛けてこないサクラに業を煮やしてライトは叫ぶ。
代わりに、ラケル、ルビィ、グリンが仕掛ける。
ライトは先程まで圧倒していた時のように応対しようとするが、ラケル達を盾にして近づいてきたソラとサクラの妨害によってジリジリと追い詰められてきていた。
「グリーン!いくらなんでも卑怯とは思わないのかい?騎士道精神はどこにやっちゃったんだい?」
ライトは弱点と思われる炎腕に傷が増え、不利を悟ったのか戦いながらも口撃に出る事にした。
「ぐ…確かに私もこれは卑怯な気はするが!国を守護る立場の者としてはなんとしてでもお前を倒さねば!」
今の戦い方に些か後ろめたさを感じていたグリンの剣が鈍る。
不意打ちはしたものの、こうも囲んで虐めるような戦い方は如何なものかと思い始めていたのだ。
ラケルも若干それにつられそうになりてが緩む。
ルビィは特に気にせずメイスを振るい続けていた。
そんな攻撃の手がゆるみかけてたグリン達にソラは声をかける。
「惑わされるな!相手は刺されてもなかった事になるような卑怯な作りしてるんだぞ!こっちも卑怯なぐらいでちょうど良い!」
と断言してみせた。
「それもそうか!」
ソラの謎の説得力により、グリンとラケルの剣に迷いが消える。
相手はチート性能だからこっちも卑怯で良い。
普段のグリンなら納得はしなかっただろうが今はすんなりと受け入れる事ができた。
それは精神操作の魔法が得意な狐耳の少女がソラの傍に居たことと無関係では無いだろう。
グリン達の猛攻、そしてサクラとソラの徹底的な妨害に追い詰められていたライトにさらなる無慈悲な一手が襲いかかる。
突然、黒い液体がライトの顔にかかり視界を塞いだのだった。
「が!なぶ!」
なんだよ!と抗議しようとするも、ドバドバと顔にかけられるそれが口に入り上手く発音できなかった。
「あー、リリス戦うよりこっちの方が向いてるなー!タノシー!」
ライトの上には、先程からこっそり戦線から離れて居たリリスの姿があった。
その手にはお徳用!と書かれて居た墨汁のボトルを持って居た。
ソラが召喚してリリスに持たせていたのだ。
「おしまいだよ!」
この大きな隙を逃さないとばかりにラケルは全力の一撃を炎腕に見舞う。
オークの健力で放たれたその一撃に異形の腕は砕け、光となり散って行った。
「がああああああ!!!」
腕を砕かれたライトは絶叫を上げた後に倒れ、ピクリとも動かなくなった。
「やった…のか?」
グリンは倒れるライトを見下ろし、呟いた。
「はい、神の力は完全に消失しています…!」
そんなグリンの呟きを拾い、ゴンが言う。
「はぁ、もう復活とかはしないんだね?」
「よかったー!リリス役にたったよね?グッジョブ?」
「ん、ファインプレー。」
ゴンの言葉で全員がホッと胸をなで下ろす。
「お前さんも、大分役にたってたぜ。」
「そう、かなぁ…。」
「おうとも、いい仕事だったぜ。」
ポンとサクラの背中を叩いて労いの言葉をかけるソラ。
サクラはイマイチ活躍できた気がしておらず釈然としていなかったが、ソラはよくやったとニコニコ顔だ。
やってた事は確かに地味なのだが、戦うと前向きな姿勢を見せた上でサポートとして役に立ったのだ。
ソラには仲間のそんな成長する姿がとても嬉しかった。
そんな少女の笑顔につられて、まあ良いかと思い微笑むサクラなのだった。
こうして、サーキュライトを襲った過酷な運命は完全に砕け散ったのだった。




