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戦うグリン達を他所に、ソラは少し下がった所で待機していた。
今度は出遅れた訳ではなく、視界の隅で近づいてくる人影を見つけたからだ。
人影はソラの隣にストンと着地する。
「よう、もう大丈夫なのか?サクラ。」
「うん。もう全然平気だよ。」
「悪いな、若い奴に重てぇ事させちまってよ。」
ソラは、申し訳なさそうに言う。
サクラの力に頼り切って、魔王軍に大魔法を放たせた事をずっと後ろめたかったのだ。
「いいんだよ、私がやらなきゃ兵隊さんがいっぱい死んじゃってたかも知れないし。」
「でも、お前がやる事じゃ無かった。」
守護る為に戦う、それは兵隊の仕事だとソラは思っている。
たとえ魔法が使える、力があるからと言って一般の女子高校生にやらせる事では無い。
現にサクラは心が耐えられず、その場で崩れ落ちていた。
「そうかな?でも、やっぱりあれで良かったと思うよ。」
それでもサクラは、何でも無かったかのように言う。
「いいや、あの場にいた大人がやるべきだった事だ!お前の師匠や俺が!でも力があるからって…お前に押し付けちまった!」
そう叫ぶソラの手は少し震えていた。
年端も行かない少女に、辛いことをさせてしまったと言う自分への怒りの為である。
「そうかもしれない、でも私はやりたくてやったんだよ。ここの人たちを守護りたいって思ったから。私にはその力があったから。」
「いいや、お前はまだ高校生なんだろ?まだ子供じゃねえか。力があったって心が耐えられねえだろ。現にさっきも…。」
「そうだね、私の魔法でたくさんの魔物が吹き飛んで、死んじゃって、怖くて辛かった。」
思い出したのか、サクラの声は少し震えていた。
「だろ、だから大人に任せて門の所まで帰ってな…こっからは大人の仕事だ…。」
そう言ってソラは一歩前へと踏み出した。
サクラは、ソラの、小柄な少女の背中がとても大きく感じた。
だが、サクラは帰らない。
「私だって、戦うよ!」
確かな意思を込めて放ったその言葉には、もう震えは無かった。
「何言ってやがる…子供は下がって…」
「子供じゃないよ。」
そう言ってサクラは一歩前に出る。
「女子高生だろ?まだまだ子供じゃねえか。だから大人に任せて…。」
そんなサクラを諭すようにソラは言葉を続ける。
だが、サクラはそれでも下がらない。
「違うよ、今の私は…まあ制服は着てるけど子供でも女子高生でもない。」
「じゃあなんだって言うんだよ?」
子供じゃない、サクラはそう言う。
ならば、彼女はなんなのか。
ソラは試すように問うた。
「私は三千世界を見通す魔女の弟子、魔女のフブキサクラ!この国を、目の前の皆を守護る為に戦います!」
サクラはそう強く宣言した。
「なんつーか、最近の若い奴らに見習わせたいな…良い啖呵だ。」
ソラはふぅと一息溜息を放った後、ニコリと笑った。
「昔年配の上司が言ってたっけな、子供の成長は早いってよ。」
「もう、子供じゃないって言ったよね。若者の適応能力舐めないでよね?」
サクラもまた、ニコリと微笑む。
本来、サクラはリコによっていくら自衛の力を付けたとしてもその心の弱さから最終的に魔王軍に捕らわれてしまう運命であった。
だが、今ここで心を強く持って立ち直った事により、その運命は崩壊した。
その瞬間にソラの持つ召喚手帳にはさまれたカードがさらに一つ、光を増したのだがソラはそれに気づく事は無かった。
「それじゃ、行こう!」
そう言ってサクラは駆け出そうとした。
「応!とは言いたいが、ちょっと待て。サクラって魔法で戦うんだよな?」
そんなサクラをソラは呼び止めた。
「そうだけど…。」
「あんな乱戦の中でどうやってぶちかます気だ?」
「あ…。」
「だろうと思った。頼りになる大人が知恵を貸してやるよ。」
そう言ってソラはニヤリと口を歪めた。




