-51-
ウォォォォン!
突然の謎の爆音で思わず騎士や冒険者たちが振り返る。
そこには見知らぬ乗り物に跨り猛スピードで疾走してくるエルフの少女の姿があった。
さらに後ろには赤毛の少女を乗せており、エルフの少女は武骨な剣、赤毛の少女は凶悪なメイスを手に持ち殺気を放っている。
騎士達は一瞬新手の魔物かと思い身構えたが、バールの「いや待て、あれは冒険者だ!ソラ殿だ!」との指摘で納得し、とりあえず、多分増援とみなす事にした。
「どけどけ!道を開けろぉ!」
そう叫んでソラは騎士達の間を抜ける。
まさに特攻といった勢いで駆け抜けていく。
ウォォンウォォン!
小型バイクで大した排気量では無いはずなのに、まるで獣の叫び声のようにマフラーが爆音を奏でていた。
ソラの心を反映したかのように猛々しく響き渡っていた。
「あー、若い頃にちょっとヤンチャしてた時を思い出すぜ…!化け物に突っ込むって言うのにちっとも怖くねえや!」
「おー、ソラ、かっこいい。」
「あははは!そうか!かっこいいか!よっしゃ!もっとカッコいい所見せてやるよ!」
はははと大笑いしながらも、魔物の群れに向けてアクセルを回す。
勇気を出して特攻をしかけると言うより完全にハイになってしまっているようだった。
完全にヒャッハーなノリである。
魔物の群れともうすぐ接触すると言う所で、ソラの両脇から猛スピードで迫りくる影があった。
「ヒャッハー!皆殺しだぜえ!」
「最初に死にたい奴はどいつだあ!」
そう叫んだのはソラではない。
ソラのバイクよりも早い速度で走る猪に跨ったモヒカン姿の豚集団であった。
「は!?」
サーキュライトの人間でも、魔王軍でもないその闖入者にソラは目を疑った。
メーターを振り切る速度で走るソラを追い越した猪にも驚いたが、それに騎乗しているモヒカン豚の方にもっと驚かされた。
「やあ、ソラちゃーん!会いに来ちゃったよ!ブヒヒ!」
ソラのバイクに並走するような形でひときわ大きなモヒカンをした豚が言う。
「お前は!オークリーのキモ豚!なんでこんな所に!?」
「はいキモ豚頂きましたー!」
ソラがキモ豚呼ばわりするとその巨大なモヒカンの豚、もとい巨モヒカンのオークは恍惚の表情を浮かべる。
「ただの援軍さ。近々魔王軍と激突するかも知れないからってこの国の王子様が直接、アタシ達に頼みにきたのさ。」
さらに別の影が、ソラに語り掛ける。
ソラはその声に聴きおぼえがあった。
「まさか!」
そう言ってそちらを見ると、鎧を纏った緑色の肌の女性がひときわ大きな猪に騎乗している姿があった。
「ラケル!」
オークリーで世話になっていた冒険者、もといオークリーの王女であるラケルだ。
「よ、少しぶりだねソラ。あとルビィも。」
「ラケル、やっほー。」
気軽に挨拶を帰すルビィ。
「リリスも居るよーオッハロー。」
さらにひょこりとラケルの胸元から、フェアリーのリリスが顔をだした。
「お前まで!」
「元気にしてたー?ってなんか目の前めっちゃモンスターいるし!マジヤバーイ!」
そう言ってリリスはラケルの胸元に隠れていった。
「まったく、しょうがない子だね。一応アタシの近衛隊なんだから戦ってもらうよ。」
「ヤーダー!でかいのはヤーダー!」
「デカいのはモヒカン隊がなんとかしてくれるさ、ほら、一緒に戦うよリリス!お喋りはまた後でねソラ!」
ラケルは猪の腹を蹴ると、加速してあっと言う間に魔王軍に突っ込んでいった。
「またねソラちゃーん!ブヒヒヒ!」
さらに並走していた巨モヒカンもそれに続く。
他にも、大勢の猪に乗った武装集団がソラを追い越して魔王軍に突撃していく。
中には何人か見知った顔の人間も居た。
猪に騎乗した集団は魔王軍を圧倒していた。
ジャイアントダークフレイムスパイダーはモヒカンオークの振るう巨斧の一撃で頭が砕かれ、炎を吐く暇もなく息絶える。
人型の魔物もラケルや他の兵が大剣でなぎ倒して行く。
破竹の勢いで進むオークリーの援軍に、魔王軍は蹂躙されていた。
「勢い良く突っ込みに行ったのにやる事ねえじゃねえか…!」
ソラはバイクを停めてその光景をただ見ているだけであった。
「あれは、オークリーのさいきょうぶたい、騎猪兵団…こうそくでいどうするいのしし、グリンブルスティにまたがって…せつめいめんどくさい。」
「おいルビィ?しゃあねえ…ゴンちょっとこっち来てちゃんと説明してくれ。」
長文の説明セリフに飽きてルビィが説明を放棄すると、代わりの説明役ゴンを呼び出した。
「はいはーい、説明しますよー。」
ゴンがソラの元へ現れ、解説を始めた。
「あれはですね、オークリーが誇る最強の軍団、騎猪兵団です!高速で走る事ができるグリンブルスティと言う軍用の猪と、巨大で破壊力のある武器を振るう兵士を集めて作られた破壊、突破、制圧に優れた集団ですね。」
「初耳なんだが。」
「まあソラさんはずっと普通に仕事してましたし…軍にかかわる事なんてないじゃないですか。」
「それもそうか。」
軍事なんて特に興味を持たずに過ごしていたので当たり前だとソラは納得した。
「弱点は破壊力が凄まじいですけどその分スタミナが無い事ですね。敵の数が多い時とかは不利になってしまいます。まあ、魔王軍が元の3倍ぐらいの数でこない限り無理ですけどね。既にサクラさんがごっそり削ってくれてますし。余裕ですよこれは。」
「ほんとだな…圧倒的すぎる…。」
ギャオオオー!
断末魔を上げて最後のジャイアントダークフレイムスパイダーが息絶える。
知恵のある雑兵は勝てぬと見ると早々に撤退をはじめていた。
魔王軍はもはや完全に敗北状態である。
戦場跡の中心で、ラケルが剣を掲げて大きな声で宣言する。
「アタシ達の勝利だ!」
「「「「おおおーーーーー!」」」」
勝鬨の声が響き渡った。
「なんか、この国の騎士も張り切って飛び出した俺も立場ねえな…。」
振り上げた拳が行き場をなくして空ぶったかのような感覚に、ソラは悲し気に呟くのだった。




