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「ただいまー。あっち凄い事になってるね…。」
ふわりと、サクラとルビィが箒に跨って門の上まで戻って来た。
「おう、吹っ飛ばされた奴はどうだった?」
「バッチリ回復はしたよ!この世界の人って頑丈だよね。生きてるのが不思議な怪我だったんだけど…。」
「ぜんかいしてやった、ぜ。」
ストンと箒から降り、ソラの隣に立つサクラとルビィ。
一仕事終えた事を告げると、ソラに訊ね返した。
「ソラさん、ところでこの状況どうするの?」
「あー…それなんだけどよ…。」
先程までゴンと一緒に考えていたが未だに良い案がない事をソラは素直に伝えた。
「まあ、私たちに出来ることはせいぜいさっき見たいにやられた人を介抱するか遠くから魔法で動きを邪魔するぐらいかだよね。」
「遠くから魔法!その手があったか!」
サクラの発言に名案だとばかりに手を打つソラ。
「でもこの距離からダメージ与えるような魔法だと周りの人巻き込むし、本当に邪魔しかできないのが難点だよ。あと邪魔だと思われて先にこっち向かって来られたら私はなんとかできる自信がないよ…?」
「むう、確かにそうか…あーもう!どうしたらいいんだ!」
名案だと思ったが問題点もあった事にソラは頭を抱える。
そんな最中、ソラたちが話し込んでいる場所の下。
つまりサーキュライト王国を囲む門が開く音がした。
「なんだあ?」
何事かと思い下をソラたちは下を覗き込むと、門から騎士ではない武装した人間たちが現れていた。
先頭には見知った顔。
眼帯をした冒険者ガスだ。
後ろに続くはガスが率いる冒険者パーティ悪夢の団。
勿論、団員である聖剣の勇者(仮)であるライロの姿もある。
彼らは門から飛び出すように現れて、騎士団とライトが交戦している所に向かった。
「加勢が来たみたいですね。冒険者にも魔王軍との戦いに参加するよう要請でもあったんでしょう。」
「ああ、一時雇用的なやつか。緊急時だもんな。」
「ライロさんが居るなら意外となんとかなるんじゃないかな?」
「そうだと良いな。聖剣ってやつの力なら行けると信じようぜ。」
そう言って、ソラ達は対策を考える事はやめて悪夢の団を応援する事にした。
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「どうして雑魚の癖に、こんなに持ちこたえるんだよ!死ねよ!さっさと死ねよ!」
ライトは盾の壁を作った騎士達に向かって剣を振るう。
その一撃で、盾は一度は崩れるものの、すぐに立ちなおったりしてまたライトの攻撃を阻むのだ。
さらにバールが盾の壁と連携して攻撃してくる。
ライトはそれを難なく回避はしているものの、鬱陶しさを感じて苛立ちをつのらせていた。
「クソがクソが!なんでこんなしぶといんだよ!僕の知ってるお前らの力じゃ一撃で吹き飛ぶレベルのはずなのに!鬱陶しい!どうせ負けるんだからさあ…早く死ねよ!」
ライトの知る騎士団と自分の実力差ならば、軽々と圧倒できるはずだった。
なのに、騎士団は持ちこたえる。
「我らは国を守護る者、そう易々とやられる訳には行かぬのだ!」
雄々しくバールが叫ぶ。
「「「おおお!」」」と騎士団も呼応して雄たけびを上げる。
「あー煩い!五月蠅い!ウルサイ!無駄だよ!無駄!お前らは僕が全員殺すしこの国もあそこに居る魔物共に蹂躙されるんだよ!早く死ね!」
その声に苛立ちを一層激しくするライト。
そんなライトの前に立っていたバールがニヤリと笑う。
「ライトよ、確かに我らではお前に勝てないだろ。いずれは押し切られる。だが無駄では無かったようだ。」
「はあ?何言って…!!!」
ブゥンと光の軌跡がライトの眼に入る。
「ぐ…ガァアア!」
咄嗟にライトは身をかわすが、光の軌跡はライトの左腕をかすめた。
ライトは激痛と共に、片腕から大量の血が流れるのを感じて絶叫した。
斬られた、そう認識したライトは攻撃してきた者を睨む。
「おーおー、本当に騎士団長さんが敵みたいじゃねえか。まるで悪夢だ。」
そこには、光り輝く剣を携えた中年のおっさんが。
「噂じゃバトルジャンキーって聞いたから魔道にでも堕ちたのかね。本当に悪夢だぜ。」
さらに、眼帯をした中年のおっさんが居る。
後ろには他にも杖や弓を持った後衛が控えていた。
「冒険者、悪夢の団!助太刀に来たぜ!」
「は、はははは!良いね!良いよ!噂に聞く聖剣の勇者様じゃないか!本物の勇者とヤる前に最高の前菜だよ!あはははははは!」
悪夢の団が口上を上げると、ライトは狂喜した。
強い人間と戦う事、それがライトの望みである。
故に、目の前の聖剣の勇者はそれなりにできそうだと感じたので歓喜した。
不意打ちとは言え、ライトに一撃を浴びせたのだ。
聖剣の力もあるだろうが、間違いなく強者だだろう。
「あーでもヤるのにはちょっと邪魔が多すぎるし、出来れば万全の状態でヤりたいなあ。」
狂気じみた笑みを浮かべて、騎士団や悪夢の団の他の面々を見てライトは言う。
「まあ、聖剣の勇者なら生き延びれるよね。他は無理だろうけど。」
そして唐突に大きく、人間離れした跳躍をして逃げ出した。
「待て!ライト!」
バールは咄嗟にそれを追おうとするが、ライトの走る速さはやはり異常であった。
「なんだよありゃ、これじゃあ逃げられちまう。」
「と言うかまずくないか!あっちは!」
逃走を許したと苦い顔をするライロ。
ガスはさらに不味いと言う事に気が付いた。
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「やるなあ、さっすが聖剣の勇者だぜ。でもありゃやべーな。逃げられた。」
ソラは相も変わらず門の上から戦場を見ていた。
「はい、不味いですね。魔王軍の方に逃げられてしまいました。」
「魔王軍が動くって事だよね、多分。」
「このくに、やばい。」
ライトが魔王軍のところに立ち戻り、侵攻を指示されたらいくら聖剣の勇者が居た所で危ないだろう。
数の暴力に加えて、魔王軍に点在している巨大蜘蛛、あれはかなりの強敵だ。
聖剣が一本では足りないだろう。
せめてもっと単独で力のある人間が何人か居たら良いだろうが。
「ちょっと詠唱に時間がかかるけど大魔法撃ちこんでみようか?遠距離だから威力は落ちるけど削れると思うよ。」
サクラは手を上げてソラに提案する。
「危ない事はするなって…いや、ここからなら大丈夫か。多少の助けになれるなら、やっちまいな!」
「うん、やってみるね!でも本当に少し削れるぐらいだから、期待しないでね。」
ソラは取り敢えずできる事があるならとゴーサインを出した。
そして、自分は何かできないかと頭を抱える。
「後は戦場の奴らに頑張って貰うしかねえよな。でも知り合いが血を流すのは見たくねえ…くそう、俺は何もできないのか…。」
ぶんちんやそろばんを召喚した所で何もならない。
バイクを出しても意味が無いだろう。
「何か…何かねえのか…。」
サクラが詠唱をはじめ、魔力が渦巻き始める。
その隣でソラはひたすら悩み続けるのだった。
あけましておめでとうございます。
本年も本作をよろしくお願いします。




