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睨み合う二つの軍勢を横目に、ソラ達はひた走る。
森に逃げようとも考えたが、足場が悪くもたもたしていると追いつかれる危険があった。
ならば、障害物の無い平原に出て高速で引き離す。
そう考えソラはサクラ達を先導する。
「サクラ!箒出せ!怖いとか言わないでトップスピードで街へ向かうんだ!」
「うん!わかった!」
「それとゴンとルビィもちっこいから一緒に連れて行けないか?」
「大丈夫!重量的には問題ないよ!」
「よし、ゴンとルビィはサクラの箒に捕まって一緒に逃げろ!あとゴンはその前に杖を出してくれ!」
「はい!ソラさん!」
ソラはサクラ達に指示を出す。
ライトとは少し距離ができたが、不意打ちで尻もちをつかせただけだ。
見ればもう立ち上がり、服についたホコリを払っている。
一刻も早く逃げなくてはならない。
ソラはゴンから受け取った杖を構えて、気合いもとい魔力を込める。
「頼む、出てくれ!」
「ソラさん!あの乗り物じゃそんなにスピード出ませんよ!サクラさんの箒に捕まった方がいいんじゃないですか!」
ゴンはソラが、いつも移動に使っていた原付を出そうとしているのだと思い、呼び止める。
しかし、言ったは良いものの、サクラの箒には3人跨る事で既に余裕が無い状態だった。
「大丈夫だ!もっと早いやつを出す!サクラ、先に行ってなんとかしといてくれ!」
「う、うん!わかった!早くしてねソラさん!」
「おう!」
サクラはソラならなんとかなると思い、信じて飛び立った。
ソラはと言うと杖に込めた魔力を使い、召喚魔法を行使した。
ライトは立ち上がり歩き始めている。
ソラの目の前の空間に光の渦が現れ、それは姿を現した。
原付と言うよりはバイクに近い形状、スマートな形をした小型の二輪車。
今まで乗っていた原付と言われる総排気量50ccの二輪車では無く、原付二種と呼ばれる排気量、加速度共にワンランク上のバイクであった。
昔ながらのスタンダードでスーパーな原付の正統な進化系のそれである。
「っしゃあ!出た!」
ソラは思った通りの召喚ができた事で喜び、そして急いでバイクに跨った。
エンジンを吹かして加速する。
その動作に気づいたライトが慌てて走り、追いかけるがソラは素早くギアを上げ、さらに加速して引き離す。
「なんだよ今の魔法!凄い凄い凄い!見た事ない!」
ソラを追いかけようとしたライトだったが、追いつけないと悟るや立ち止まり、見たこともない召喚魔法に歓喜の声を上げる。
「凄いよ!さっきの不意打ちといい、見たことのない魔法といい!なんで逃げちゃうのかなぁ?もっと僕に凄いのを見せてよ!僕を楽しませてよ!ねえ!」
遠ざかるソラに叫ぶように語りかけるライト。
ソラはこれなら余裕で逃げれると見ると、少しUターンしてライトの元へ近づく。
そして、ある程度距離を取った上で停車した。
「戻ってきてくれたのかい?おいでよ!遊ぼうよ!」
嬉しそうに両手を広げてソラを呼ぶライト。
「うるせーど変態!誰がお前なんかと関わるかよ!強い人間と戦いたいから人間を裏切ったとか言ってたけど、魔王とかと戦えばいいだろバーカ!悪趣味なんだよ!」
そう叫んで中指を立てるソラ。
まるでチンピラが喧嘩を売る時のように挑発する。
「はは、何言ってるんだい?魔王は必ず勇者に負けるんだから勇者の方が強いに決まってるじゃないか。どっちかとやるならより良い方とやりたいじゃないか!」
そう言ってソラの居る方に歩み寄るライト。
「なら両方とやりゃ良いだろ、頭沸いてるのか?ああ、沸いてたな。まともじゃなかったわ。」
なおも挑発するソラ。
「はは、うるさいなあ…黙って僕とやればいいんだよ…なあ!」
度重なる挑発についに頭に来たのか、ライトがソラに向かってもの凄いスピードで走り出す。
「やべ、怒らせすぎた!」
ソラはそう言って踵を返しアクセルを回す。
「ははは!早いけど馬と同じぐらいじゃないか!この距離からなら追いつけちゃうね!」
人間離れした速度で走るライト。
それをチラチラ確認しながらソラは走る。
「嘘だろ!?人間の速さじゃねえ!」
「ははは!待ちなよ!ははははは!」
狂気染みた笑顔でライトはソラを追う。
しかし、ソラもある程度速度を出して居るのか、なかなか差は縮まらない。
「来んなよ!いい加減諦めろ!魔王軍の幹部してんだろ?あっち行けよ!これ以上ついてくると騎士団、お前の元仲間とやる事になんぜ!」
「騎士団?あいつらみたいな雑魚、数秒で全殺しさ!誰が団長してたと思ってるんだい?どの程度なのかよく知ってるさ!」
戦うのに躊躇はないかと言う意味で聞いたソラだったが、ライトに全殺しと一蹴された事でもうダメだとソラは悟った。
これは、他人の事をなにも考えていない、自己中野郎だ。
説得しても無駄なタイプだと。
しばらくそのまま、ソラとライトは追いかけっこを続けていたが、サーキュライト王国の門が近くになり終わりを告げる。
「結局ここまで来ちゃったかー!じゃあ君も、他の奴らも僕が皆殺しにしなくっちゃね!あっちで棒立ちしてる魔物供には悪いけど、美味しいとこもらっちゃおー!」
「楽しそうだな変態サイコ野郎、だけどお前の思い通りにはならないさ。」
ソラは、馬と同じぐらいの速度で走っていたバイクのギアを上げ、トップスピードで門に向けて走る。
「は?なんだよ!急に早くなって、逃げないでよ!待てよ!おい!」
突然、今までにない加速をみせてみるみる引き離されるライト。
信じられないとばかりに驚き、戸惑い、怒りの叫びを上げる。
「追いかけて来たから誘導させてもらってただけさ。精一杯走ってるように見せかけてね。」
そう言ってソラは門を抜け、見計らったように門がばたりと閉じられた。
「ふざけるなあ!戻ってこい!僕と戦え!!!くそ!ここにいる人間諸共皆殺しにしてやる!」
門の前で憤り、叫ぶライト。
「団長殿?どうしました?」
門の外、魔王軍の前で陣形を整える為に奔走していた騎士団の若い男が、見知った自分たちの上司が大声で叫んでいるのを見つけて声をかける。
「ああん?」
睨み殺す、と言えるような殺意の篭った視線でライトは若い騎士を睨む。
「ひっ!」
いつもと全く違う、凶悪な視線に若い騎士は悲鳴を上げる。
「あーあ、ソラちゃんに逃げられちゃったから、騎士団から遊ぶとするか。本当は蜘蛛の餌にでもしてやるつもりだったけど、僕の欲求不満の捌け口になってもらおう。その後は魔物供を門にけしかけて、街を壊しながらソラちゃんを探すかな。」
「団長殿…な、何を言っておられるので…。」
「うるさいな、雑魚が。まあ僕は仮にも団長だし、わかりやすく説明してやるか。」
そう言ってライトは剣を抜き、若き騎士に向かって振り下ろした。




