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設定説明回みたいなものです。
一回で終わらせたくて長くなってしまいました。
「まず、なんであたしがサクラちゃんに帰れないと言ったかを説明しようじゃないか。」
「そうですよ!説明してください師匠!」
むーっと頰を膨らませ怒るサクラ。
そんなサクラを気にかけもせず、リコは語る。
「取り敢えず大前提の話だ。この世界の神様はどんな奴か知ってるかい?そこのゴンちゃんから聞いたりはしてないかな?」
「そういや知らねえな、ゴンもあんまりリストラしてきた元上司の話とかしたくねえだろ?」
神の話と言われて、労わるような視線をゴンに向けるソラ。
リストラやトラブルで辞めた職場の話はしたくないものだろうと、ソラは今までその辺りの話は避けてきて居た。
「いえ、別に構いませんよ?知ってる事でしたらなんでも話しましたのに!」
しかし、ゴンは特に気に病んだりしている様子もなくあっけらかんと答える。
むしろ、聞いて欲しそうだとさえ感じるほどノリノリだ。
「聞いてなかったかー、まあいいや、あたしが説明しよう!ゴンちゃんは合いの手でも入れておくれ。」
そう言ってリコは立ち上がり、ホワイトボードの前に立った。
そんな所にホワイトボードなんてあったっけ?とソラは疑問に思うが部屋の内装も近代的だし違和感が無い為、見落としてたと思う事にした。
リコはホワイトボードにこの世界の神についてと板書し、話始める。
「えー、ではまずこの世界の神についてだけど、一神教の神とは違って複数います。でもだいたいは1番偉い神がルールを作って、他の神がそれに従う感じです。そこのゴンちゃんも神霊とか言ってた時は他の神々と似たようなもんだね。独自の役目が無い総務的なもんだと思えばいいさ。」
「なるほど、巫女に通達したり他にも色々やってる感じか。」
「神々に並ぶほどじゃ無いですよーえへへ…言われて悪い気はしませんけど…ソウムって言うのはよく分かりませんけど。」
ふむふむと頷くソラ。ゴンは総務と言われてもピンと来ないが、神々と並べられて少し照れていた。
「んでまあ、主神、1番偉い神さまが司ってるのは運命とか宿命とかそんなやつだ。ここ、テストに出るからなー!」
先生ぶった語り口になるリコ。
テストなんて無いだろと思ったがその辺りは全員スルーする。
「運命ってのはわかるよね?ジャジャジャジャーンってやつじゃなくて、まあ人生のシナリオみたいなやつだ。君たちの世界では概念でしかないだろうけどね、この世界には明確に存在するものだ。分かりにくいと思うがそこは飲み込んでくれたまえ。要するに神様の定めたシナリオをなぞるように人々は生きているんだ。」
「なんか窮屈だな…。」
「そうだね、生まれた時からゴールは決まってるんだ。まあ意識や魂は自由なんだがね、運命の強制力でその人の選択や結末は決まってるんだ。選択肢選んでも同じシナリオになるノベルゲーって言えばわかるかな?わかんないだろうなぁ。」
「ゲームとかやらねえからな…。」
「私はなんとなくわかったかも…。」
ソラには例えがよくわからなかったが、サクラはピンと来たようだ。
「んで、主神様はずーっとその運命の通りに生きる人間を見てたわけ。悪趣味とか言わないでやってくれよ、それが役割で仕事だったんだから。」
「仕事なら割り切るしかないな。」
「まあその神本人が割り切れなかったんだけどねー、退屈だーって。」
「割り切れてねえのかよ!」
思わずツッコミを入れるソラ。
「まあねー、人類が生まれてから自分の思うような結末をひたすら辿っていくのを見てたら飽きるわさ。んで、ある時、その運命に至る道程は千差万別ってのに気づいて、それを見る楽しさに目覚めたのね。」
「またよくわからなくなったぞ…。」
「人生をシミュレートするゲームとかやった事ない?ないか、ないよねー。例えば最終回のネタバレ貰ったドラマとか映画でも観てたらなんだかんだで面白いって感じたりとかしない?」
「あー、わかる。オチわかってても楽しいよな。大河ドラマとか歴史レベルでオチ知ってるけど毎回面白いし。」
「わかってくれて何よりだ、まあ仕事にそんな楽しみ方を見出してたのよ神は。」
「ふむ、まあ良いんじゃねえの?」
ここまでの話で特に問題は無さそうに思える。
「でだ、まあそんなことを何千年もやってて、また飽きちゃったのよ。」
「何千年も…。」
「そう、何代も平和に一生を終えたり、時には悲しい末路もあったりもした。それを何度も観てたらパターン化しちゃったのよねー。そこで、飽きちゃった神は刺激が欲しくなって、刺激的なシナリオを作り始めました。そう、魔族と人間のバトルストーリーです!」
「何やってんだよ…つまり平和な世界に戦争が起きるような運命を作ったってことか?」
「その通り!まあどっちが勝つかとか結果は分かってるんだけど、それなりに刺激的になって楽しめてたみたいだね。」
「ロクでもない感じがしてきやがった…。」
「んで、そんなシナリオを楽しんでたらまた飽きがきた。」
「またかよ。」
「そう、まあパターン化してたって言うのと泥臭い戦争モノが面白くなかったんじゃない?多分。で、次にやった事はわかるかな?」
生徒の挙手を待つ教師のように、リコは問いかけソラ達を見回す。
腕を組んで考え込んで居るソラ達だったが、何か思いつく前にリコがまた自分で答えた。
「正解は、王道英雄物語にチャレンジしてみた!でした!つまり勇者が魔王を倒すってやつね。これが結構最近の話ね。で、だ」
「わかったぞ!つまり俺たちは今それに巻き込まれてて、魔王を倒すまで帰れないとかそう言う話だな?」
そうか!とハッとなるソラ。
話を遮られたリコは顔をしかめて
「お前の様な勘のいいガキは嫌いだよ。」
とドスの効いた声で呟いた。
などと不機嫌そうにみえたのもつかの間、大きな声で笑い出した。
大爆笑である。
「あっはっは!なんて冗談だよ!大好き!超愛してる!残念ながらそうじゃないんだなー!ぷっふふ…!」
ソラの閃きは空振りだったようだ。
笑われてしまい、顔が赤くなるソラだった。
「いやー、最近といってもこれも300年ぐらい前かな?神話の最近ってのはそんなもんだと思っておくれ。話を戻そう。レベルとか英雄だとかシステムを作って、一騎当千の勇者が仲間と共に魔王を打ち倒す!とかやらせてたんだけどね、思ったよりも面白みがなかったみたいなんよ。まあ魔王が勝つと世界が滅ぶって設定にしてたから間違っても勝たせる運命にするわけには行かないじゃない?だから勇者が勝つシナリオだったんだけど…それがまあ普通でさー。」
「この辺りから私の知識と一致しますね。私は結構良かったと思うんですけど。」
ゴンが相槌を入れる。
どうやらゴンが神の元で働いていたのはここかららしい。
「まあ悪くはないけど、神様ってば目が肥えちゃってたみたいで意外性のなくてつまらないと思ったんだ。そこで、意外性の塊、運命の上でも想像のつかない行動をしてくれそうな存在を使う事を考えた。異世界から価値観の違う人間を連れてきて勇者役とか英雄とかにしちゃおうってね。」
途端、ソラとサクラは不快感に襲われる。
「それって…。」「私たちがこの世界に来たのって…。」
不安そうな表情を浮かべる二人にリコは、魔女は軽く答える。
「そうだね、サクラちゃんがここに居る元凶はこの世界の神だ。ソラくんについては、もうちょっと後で語るから待っててね。」
そう言われてサクラは俯いてしまう。
魔女は構わず語り続ける。
「異世界からの勇者召喚、大層楽しいシナリオになったみたいでね。味を占めた神は時々そんな茶番を繰り返してたのさ。50年ごとに魔王を作って異世界から呼んだ勇者と戦わせたり、冒険譚以外でも、魂だけ持って来て記憶をそのままに転生させて成り上がりストーリーとかもやってたみたいだね。」
人を攫って見世物にしてるだけじゃねえか…そんなの!
ソラは怒りが込み上げてきて、拳を強く握る。
「まあ、ソラくんが不快に思うのもご尤もだ。だから、あたしはそんな神をなんとかしようとこの世界にやってきたんだけどね。」
「つまり、あんたが神をなんとかしてくれるのか?」
「したかったさ…残念ながら運命を司るってのは想像以上にチートだった。この世界に来た時点で相手の土俵だ。無茶苦茶されたさ。あたしは神に対する直接的な干渉はできなくなった。できる事と言えば神に運命を干渉されないように逃げるだの、他の人間の運命を覗いたり、結末は変えられないにしても少しばかり運命を捻じ曲げたり…そんな事ぐらいしかできなくなったのさ。」
そう言ってリコは肩を竦めた。
「割と結構色々できるじゃねえか…。」
「いや、全然さ。こっちは対運命神って感じでメタ装備組んで来たのに負けちゃったーみたいな。いやあ思った以上にやばいのよ。」
「そんなにか…。」
重い空気が漂う。
「サクラちゃんも、今回のイケメン勇者君と一緒に召喚されて、仲間として戦って、終盤辺りで魔王軍に捕まってあれやこれやな酷いシナリオ押し付けられてたからさ、あたしも流石にムナクソ悪くなっちゃってねー、全力で妨害して、できる限り鍛えたのよ。でもそのうち、運命に流される。もってかれる。」
さらに憂鬱そうにリコは語る。
「え、私そんな運命なの!?」
俯いていたサクラだったが、突然の悲劇を宣告されて思わず顔を上げ問い質す。
「ああ、だから帰れない、運命に雁字搦めに縛られてるから、別世界に逃がしてやる事も出来ない…だから帰れないって言ったのさ。」
「そんな…。」
残酷な真実を告げられ、サクラは涙が溢れて来た。
あんまりだ、酷い、どうして、そんな言葉がいくつも浮かぶ。
「でも、今は帰れるんだよな?最初に言ったよな?」
ソラはリコに問う。
そう、リコは既にソラ達は帰れると言っていたのだ。
「ああ、そうとも!」
その質問を待っていましたとばかりに手をパンと叩くリコ。
「運命、それは神が作りだしたシナリオ!意図して設置されたレール!この世界の全てに強制力を持つ最低な力だ!だけど、それがある日壊れたんだ!ソラくん!君のお陰でね!」
「俺の…いったいどう言う?」
「ああ、運命と言うものはね、繋がりあって、絡み合う糸のようなものなんだ。誰かの運命が誰かの運命に繋がって、全てに意味があるものなんだ。召喚された勇者やサクラちゃんにも、その糸は絡んでる。召喚士や神が糸を紡いで引き寄せたからね。」
「じゃあ俺もそうなんじゃないのか?」
ソラもまた引き寄せられた異邦人では無いのか。
そう思って口を挟むがリコはそれを否定した。
「違うんだよ!ソラくん!君は偶然!そう偶然にその身体に入ってしまっただけなんだ!意味も意図も何もなくね!当然異世界にある身体に魂が入るなんて、普通にあるわけはない。宇宙が出来て、生命が誕生して、文明ができあがるぐらいのとんでもない確率の奇跡でも起きない限りはね!」
大仰に魔女は語る。
ソラのここに居る意味を。
いや、意味が無い事を。
「なんか、人生が無意味って言われたみてぇでちょっと凹むんだが。」
舞台の見せ場のように熱く語るリコをよそに、マイペースな感想を述べるソラ。
「なに、人生なんか元々大した意味がないさ。高々死んで名前が残るだけさ。」
「そうかもな。それで、俺が無意味な存在である事で何が起きるんだ?」
「意味のないって事はこの世界では最大のイレギュラーなのさ。存在するだけで全ての意味をぶち壊す。神もついてないね、部屋で寝てたら隕石が落ちてきてふっとんだレベルの不幸さ。ソラくんが来たおかげで、君の周りの運命をはじめとした神の作り上げた法則全部が壊れちゃったのさ。そして神は力をほとんど失った。運命を司ってたからね、本人にも大ダメージさ。今は村人レベルまで弱体化してるんじゃないかな?」
「え、そこまでかよ俺…。あと神様がそんなになって大丈夫なのかよ。」
話が大きすぎて唖然とするソラ。
「まあ、そう深く考えなくて良い。そのおかげで、運命の楔から解き放たれたサクラちゃんを元の世界に送り返す事ができそうだからね。ソラくん、君も勿論帰れるよ。」
「マジか!」「ホント!?」
ソラとサクラは、喜びと驚きの声を上げる。
「ああ、あたしが力になろうじゃないか。もちろんウラシマ状態にもさせないよ、君たちがあの世界から消えたその時間に戻す事もできる。」
「おお…マジかよ…失踪扱いでクビになってるの覚悟してたのに…。」
「お父さんお母さんに心配かけなくて済むんだ…ありがとう師匠…ありがとうソラさん…!」
リコの話で、感動に打ちひしがれているソラとサクラ。
「しかし、だ。まだ足りない。神の力が無くなったとはいえ、既に編まれた運命の糸はまだ世界に残っている。まだ運命の力が邪魔をする。」
そんな二人に、リコは水を差す。
帰るには帰れるがまだ万全ではないと言うのだ。
「じゃあ、どうしたらいい?その運命の力をどうにかするには俺はどうしたらいいんだ?」
「話が早いね、要するに、この世界で今も動いている運命を、神の作ったシナリオをじゃんじゃん壊したら良いって事さ。勿論、やるだろう?」
そう言ってリコは問いかける。
ソラはその問いに頷いた。
「やるさ、それで帰してくれるんだな?」
「ああ、保証しよう。だから世界を壊しておくれ。サクラちゃんを帰す為にもね。」
ソラがやると言うと魔女、リコは優しく微笑んだ。
「さて、じゃあまずはこの森を出て、サーキュライトの西門に行くと良い。そこで大きな運命の流れを目にするだろう。って占い師っぽい事を言っておく。」
そう言っておどけるリコ。
「何があるんだ?」
「まあ、それは見てのお楽しみさ。あとサクラちゃんも、今からソラくんについて行きな。旅立ちの時だよ。」
そう言ってリコはサクラを立たせて背中を押した。
「え、あの、私も旅をするんですか!?」
「おうとも、ソラくんの力になってあげてくれ。そして、一緒に元の世界に帰りなさい。」
慌てるサクラに優しく語り掛けるリコ。
その表情は親愛と慈愛が籠っていた。
「あと、そうだ、ソラくんにはこれを渡しておくよ。」
そう言ってリコはソラの方に向き直り、一枚のカードを投げてよこした。
ソラはそれを指で受け止める。
それは、不思議な文字が書かれた名刺サイズの羊皮紙であった。
「なんだこりゃ?名刺か?」
「そうだとも、あたしの名刺みたいなもんさ。それを君の召喚手帳に入れておくと良い。帰れる条件が整った時に光るから、それであたしを呼ぶと良い。」
「なるほど、分かりやすくて良いな。」
そう言って受け取ったカードを懐に仕舞うソラ。
「それでは行くと良い。ただし覚悟はしなさい。ここから先はベリーハードさ。今までみたいにピースフルには行かないだろう。でもまあ、あたしは君たちならきっとなんとかなると信じてるよ。」
送り出す言葉をかけるリコ。
「それは占い師としての言葉か?」
「いや、一人の女としての言葉さ。旅の無事を祈ってるよ。」
そう言ってリコは改めてソラ達を送り出す。
建物から出た所で、サクラが振り返ったが、リコはもうドアを閉めており姿を見ることができなかった。
だが、構わずサクラは声をかける。
「行ってきます。師匠。」
そして、ソラ達はサーキュライトの西門へと向かうのだった。




