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「みっともない真似はおよしなさい!」

ソラとヤース王子の間に一人の女性が割り込んで来た。

そして、その女性はヤース王子に向かって一喝した。


「ノルトさん…?」

「はい、ソラさん。先程ぶりね。」

「あ、あ…。」

突然の乱入者に驚きくソラ、対してヤース王子が震えた声を上げている。

「さて、ヤース。随分恥ずかしい真似をしましたね?」

ニコリと、慈愛に満ちた微笑みでノルトが語りかける。

「ち、違う!余はその者に恥をかかされたので仕方なく…!」

微笑みかけられたヤース王子は慌てた様子で言い訳をする。

「貴方が勝手に振られただけでしょう?それよりも女の子を力づくでモノにしようと言うのが恥ずかしくはないのかしら?」

「ぐぬ…だが余は次のサーキュライト王になる男!振られるなどと言う事があってはならぬのだ…です…。」

諭されながらも、強く反論しようとするヤース王子だったが、ニコニコと笑顔で微笑み続けるノルトのなんとも言えない迫力に押されて語尾が下がる。


「私たち王族は始祖サーキュライト、サキュバス族の末裔、それが意中の相手に見向きもされない悔しさは分かります。ですが、力づくで言う事を聞かせるのは違うでしょう?もっと、自分の魅力を磨く事が先ではないのかしら?」

「…ぐぐ……はい…その通りです…。」

何か反論しようとしていたが、何も出てこなかったのか言葉を飲み込み、ヤース王子はノルトの言葉を肯定するのだった。

「そうよね、そう思ったら妻にするとか言う戯言は撤回しなさい。」

「はい…余は…とち狂った事を言っておりました…撤回しソラ殿に心よりお詫びする…。」

ついには、よく訓練された部下のように深々と頭を下げるヤース王子。

ソラ達は呆気にとられるしか無く、その様子を見ていた。


「さて、ごめんなさいねソラさん。ヤースが馬鹿な事をして。」

くるりと、ソラに向き直り、手を合わせて謝るノルト。

一先ずはノルトのおかげで上手く治ったようだ。

だが、先ほどの会話でいくつか気になる事がソラには出来ていた。


「あの、ノルト…さん?さっき私たち王族とか言ってましたけど貴女は一体?」

「あらあら、そう言えば言ってなかったわね…私はこの国の女王様なの。ヤースの母でもあるわ。」

悪戯っぽく、サーキュライト王国の女王ノルトは宣言した。

「やっぱりですか…先程はその、女王様だとは知らずに失礼しました。」

なんと無く会話の内容、流れから察していたソラは、ノルトに対して恭しく礼をした。


「やだわ、そんなに畏まらないで欲しいわね。さっき私達 と話してた時みたいに…いえ、さっきヤースと話してたみたいに砕けた感じでお話できたら嬉しいわ。」

「いや…でも流石に…。」

「ね、お願いよ。」

可愛らしくウィンクする女王様。

「仕方ねえな…こんな美人にお願いされたら、打ち首覚悟でも言う事聞くしかねえよな。」

「そうそう、それが自然だわ。」

そう言ってソラとノルトは笑いあう。


「取り敢えず、本当に助かったぜ女王様。」

笑いあった後、改めてヤース王子を諌めてくれた礼を述べるソラ。

「悪いのはこちら、ヤースをちゃんと教育出来てなかった私が悪いわ。ソラさんは気にしないで頂戴。」

「いやいや、女王様は何も悪くねーよ!と言うかいきなり褒美とか言って求婚してくる本人が悪い!王子様っつっても分別のある歳だろう?」

「そうね、あの子ももう立派な大人なのだから…。」

ちらりとノルトがヤース王子を伺うと、

「ヒッ!」

とさっきまでの威圧的な態度とはかけ離れた怯えた声を上げる。


「母は強しってやつか。てか…子持ちだったんだなあ…若いし全然そうは見えなかったぜ…。」

ソラが呟く。

「ふふ、私はエルフの血が濃いから、そう見えるのかしらね。」

ソラの呟きはノルトの耳には届いていたようで、笑顔で答えるノルト。

嬉しそうなのは若いと言われたせいだろうか。


「ところで、これもさっきからちょいちょい聞くけどサキュバスってなんだ?」

「あら、冒険者なのに知らないの?」

意外だったと言うニュアンスでソラの質問にノルトが驚いた。

「ああ、俺は結構無知なんだ。良かったら教えてくれないか?」

「ええ、良いわよ。ふふ、ちょっと耳を貸してね。」

妖艶な笑みを浮かべ、ソラに耳打ちするノルト。


「ほうほう、ふむ…おー……おお…」

ノルトがソラの耳元で色々説明しているようだ。

それに対してソラがいちいち興味深そうに頷いたり感嘆の声を上げている。


「なるほど、すっげえなファンタジー世界!」

一通り話を聞き終わって、どこかにやけた顔で感想を述べるソラ。

「ふふ、でも今となっては血は薄れているわ。私はお父様がエルフで見た目はそっち、息子達は主人の人間の血が濃いわね。」

「そうなんだな。てかやっぱり旦那居るんだな…王様かあ…。」

ちょっと気になってた女性に夫、子供が居ると言うのは、ソラの男心的に少し落ち込む。

「ええ、今は魔王軍との戦線で自ら指揮を執っているわ。」

「戦線て…物騒だな…。」

「ふふ、でもきっと無事に帰ってくるわ。」

そう言って遠くを見つめるノルト。

彼の地で戦う愛しい人を思う顔は、今まで見た中で一番美しい表情だとソラは思った。


「さて、お話はここまでにして、褒賞の授与を続けましょうか。」

しばしの間を置いて、ノルトは気を取り直したように宣言した。

「は?いや、俺はもういいよ!断ったばっかりだし!」

せっかく丸く収まりそうだったのに、またいざこざが起きては叶わないと慌てて拒絶するソラ。

「大丈夫よ、グリンを救ってくれたあなたに私がお礼の品を渡すだけだから。」

「まあ、それなら大丈夫か…。」

「ええ、あなたにとっても良い物だと思うわ。はい、どうぞ。」

そう言って、ノルトは自らの手から緑色の宝石が嵌った指輪をはずしてソラの指に差した。

左手の薬指などではなく、右手の人差し指である。

指輪は、少しソラの指に大きいのではないかと思われたが、不思議とぴったりのサイズに収縮した。

「お、なんかすげえ!」

その光景に思わず声を上げるソラ。

些細な不思議も、現代人のソラにとっては多いにファンタジーであった。


「この指輪は我が国の始祖、サーキュライトの付けて居た指輪の一つで、深緑の指輪と言います。効果は魔力の上昇と魔法のサポート。冒険者のあなたにとってはちょっと便利なアイテムと思っておけば良いわ。」

「え、そう言うのって国宝なんじゃ…。」

「そんなことないわよ。始祖サーキュライトは結構なマジックアイテムコレクターでそれもその一つなの。似たような指輪もまだまだあるから、気軽に扱って貰って構わないのよ。」

「ええー…マジか…。では、ありがたく頂戴いたします。」

指輪の嵌った指を差し出して、頭を下げるソラ。

「此度の働き、大義であった。なんてね。感謝しているわソラさん。貴女の旅が上手く行きますように。」

ノルトはソラの手をそっと撫で、そう告げる。

頭を上げたソラとノルトは再び見つめあい、同時にニコリ笑ってこの茶番を終える。


「ああ、ソラさんって本当に面白い人ね。良かったら旅が終わったら私の娘にならない?好きな息子をあげるわよ?」

「はは、そいつは勘弁。」

「そう?顔だけは良いわよ、うちの子は。」

「む、それならばグリンより余が!余が良いぞ!改めて、その時は真摯に交際を申し込ませるが良い!」

自分に都合の良い話と聞くや否や、ノルトの横で黙りこくってたヤース王子が手を上げる。

呆れた顔でソラとノルトがそれを見ていると、そこにルビィが駆け寄ってきた。

「ん?どうしたルビィ?」

「ん…。ソラはダメ。あげない。」

そして、そう言うと、ソラに抱き着いてぐいぐいと体を押し付ける。

「な、なんだ!?」

突然のルビィの奇行に戸惑うソラ。

ルビィの体の柔らかさが、ドレス越しにはっきりと伝わってくる。

元の世界でのおっさんのソラからしたら、ルビィぐらいの少女が抱き着いてきても子供がじゃれつく程度にしか思えなかっただろう。

しかし、今のソラは自身も少女であり、ルビィと同程度の身体である。

自分と同じ体格の女の子が抱き着いてきたらさすがのソラ少し驚いてしまう。

そうして、ソラが驚き戸惑っているのを他所にルビィが言う。

「こういうことだから、ダメ、ぜったい。」

「あらあら。」

面白そうに微笑むノルト。

「な、なんだと…!」

驚き、戸惑うヤース王子。

そこに、さらにサクラとゴンが駆け寄って二人ともソラに抱き着いた。

「えいっ!」

「ソラさーん!」

ソラがルビィ、サクラ、ゴンにもみくちゃにされる。

「こ、こう言う事なので諦めてください!」

顔を真っ赤にしてサクラが言う。


「おい、ゴンこれは何の遊びだ?」

小声で、何故急抱き着いてきたのかをゴンに問いただす。

「ええと、こう、ソラさんがこう言う事情でヤース王子様に興味ないとこをアピールしたら後腐れ無く丸く収まるってルビィさんが提案しまして…。」

「いや、ノルトさん、女王様は分かってくれてるから、もう拗れる事は無いだろうから大丈夫だって、離れてくれよ…。」

「ですよねー。私も、もう良いと思ったんですけど…。」

そう言ってゴンは身を離した。

「おい、サクラも、無理しなくていいから!ルビィも離れろ!」

「え、あ、うん!ゴメンねソラさん!」

「ん…いいの?」

「いいよ!もういいから!」

そして、サクラとルビィも渋々ソラから離れた。


「ふふ、面白い人じゃなくて、面白い人達だったわね。」

「お恥ずかしい限りだよ、まったく…。」

ころころととても楽しそうに笑うノルト。

恥ずかしそうにふて腐れるソラ。


「それじゃあ、私はこれからヤースを少し教育するわ。ソラさん、貴女達は好きに愉しんで、好きなタイミングで帰って貰って大丈夫よ。」

「ああ、ありがとう、女王様。また、旅の途中で立ち寄る事があれば、挨拶させてもらって良いか?」

「ええ、是非来て欲しいわ。その指輪を見せたらいつでも城に入れるようにしておくわね。」

「それじゃあ、またな。」

「ふふふ、また会える事を祈っているわ。」

ソラの旅が、望むように行けばきっとまた会う事は無いだろう。

ソラとノルトはお互い、そう理解した上で、再会を望む言葉を口にした。


別れの挨拶を交わした後、ソラはホールから出て行くノルトを見ていたが、見えなくなるよりも前に視線を逸らす。

見ていると、少しの寂しさが込み上げて来るからだ。

そして、襟首を掴まれて引きずられている威厳等が無くなってしまった第一王子の姿を見るのが、とても居たたまれなかったから。

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