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「絶対にノゥ!」
断固として、拒絶する意思を込めてソラは宣言する。
腕で大きくバッテンを作り分かりやすくノーとアピールしている。
「何故だ!余の妻だぞ!」
「何故も何も嫌に決まってるだろ!俺は悪いけどあんたにはそんな興味はねえんだよ!求婚はもっとお互い良く知り合って恋仲になった奴にしやがれ!」
「何を言う!美しくて強い者が居たら娶りたいと思うのは当たり前であろう?其方こそまさしくそれだ!」
「だからと言って相手が求婚されて喜ぶ訳じゃねーだろ!実際嫌だぞ!俺は!」
ソラに拒絶された事が信じられないと言うようにヤース王子が詰め寄った。
だがソラはヤース王子から距離を取りながら言い返す。
「何を言う!余に求められて嫌と思う女などいるわけがない!!!」
「んな訳ねーだろ!まあ男前でお偉いかも知れねーけどよ、そんな上辺だけで女がなびくと思うんじゃねーよ!」
「余はそれだけの男では無い!力もあるぞ!さあなびけ!余に惚れるがよい!」
そう言って、筋肉を強調するようなポーズを取りソラにアピールするヤース王子。
ボディビルのダブルバイセップスのポーズだ。
だが王族らしく、豪奢な服とマントをつけている為、ガッチリした身体つきであると言う事しか分からなかった。
仮に、半裸でヤース王子が強靭な肉体美を晒したとしてもソラは暑苦しいとしか思わなかっただろうが。
「力とかそんなんじゃねーよ!そもそも好きとか嫌いなら好きじゃねーんだよ!」
ソラは精神はハッキリと男のモノだ。
なのでヤース王子がいくら顔が良くて、逞しくて、権力があろうが男性として好きになる事は無いのだ。
仮に、ソラが惚れそうになるとしたら、少し前に会話した美女エルフのノルトみたいな人物だろう。
だが、ヤース王子にはそんな事知る由も無い。
「馬鹿な…余に惚れぬだと…。」
余程ショックだったのか、狼狽しきった様子でよろりと後ずさる。
「何もそこまでショック受けなくてもいいだろ、他に良い相手が見つかるって。」
見兼ねて、ソラは慰めの言葉をかける。
だが、ヤース王子はそのまま膝をつき項垂れた。
「馬鹿な…嘘だ…余が…余が…。」
とぶつぶつ呟きだした。
褒美を与えると言ったおめでたかったムードの会場が一転、ヤース王子が振られ、項垂れてしまった所為で不穏な空気を漂わせ始める。
いたたまれ無い空気を作り出してしまったソラは、流石に気まずくなってヤース王子に声をかける。
「なあ、ヨガヨガ言ってても仕方ないだろ?こう言うもんは巡り合わせと言うか、そんなんだしよ…酒でも飲んで忘れなって、俺が言うのもなんだけどよ…褒美とかいらないから、な?」
「………ふはは!ふはははは!」
「おう、立ち直ったか?」
「ふはははははははは!」
漸く顔を上げ、高らかに笑い出したヤース王子。
ソラは吹っ切れてくれたかと安堵する。
ヤース王子は吹っ切れた。
確かに吹っ切れたのだが、
「冒険者ソラよ!よくも散々余に無礼な言葉を浴びせてくれたな!王族への侮辱の数々!よもや生きて帰れるとは思っておらぬだろうな!!!」
と悪い方に吹っ切れてしまった。
今更ながら、いくら嫌だったとは言え王子様に散々な言葉を浴びせていた事に気付くソラ。
気付いた頃にはもう遅く、騎士達がソラ達の周りを取り囲んでいた。
「くそ!俺とした事がついムキになっちまったぜ…。」
「今更ですよソラさん!折角の乙女の夢が叶う感じだったのに断ったりするか!」
「ん、ソラはわるくない、あのバカ王子がわるい…ごーまんはよくない。」
「そうだよ!ソラさんは悪くないよ!ちょっと振られたからって暴力とかカッコ悪いんじゃない!?」
「ええい!煩い!サーキュライトの王族が振られる等あってはならんのだ!その事実ごときりふせてくれる!」
大物のオーラを放っていたヤース王子が一転、悪代官の様な事を言い出す。
ヤース王子は兵士に持って来させた剣を抜き放ち構え、いつでも斬りかかれるよう構えた。
「どうだ?命が惜しくば今からでも遅くはないぞ!余の妻になると言え!」
さらにヤース王子は小者のように脅迫する。
対するソラは…
「あークソ…わかった、命乞いするよ、妻になってやる。」
「ふはは!ではお望みどおり死ぬが…って何ィ!?」
「え!?嘘でしょ!?」
「なんて…?」
「いいんですか!?」
予想外にあっさり投降した。
「何故だ!?いや余はそれでも良いのだが!何故急に!?」
「いや、だって死にたく無いし…。」
予想もしなかった展開に問いかけるヤース王子に対してソラは当たり前だろとばかりに答えた。
「それに、俺が嫌だって言ったせいでこいつらまで斬られたらかなわねえよ…。ほら、妻になってやるからこいつらを帰してやってくれ。」
「む、むむ…良かろう!なんだか腑に落ちないがとにかく良し!」
「いや!だめだよソラさん!好きでも無いのに結婚とか、あと、何されるかわかんないし…男なのに…。」
もやもやするがまあいいかとヤース王子が納得しかけた所にサクラが止めに入る。
「なんだ!せっかくソラが余の妻になると言うのに話を蒸し返すのか!魔女の弟子よ!いくらお主があの魔女の弟子でも容赦はせぬぞ?」
「そんな事したら師匠がただじゃおかないよ?」
「ぐ、魔女殿を敵に回すのはまずいが…ソラが良いと言っておるのだ!引くが良い!」
「でも、そんなのダメだったら!」
ぐぬぬとヤース王子とサクラが睨み合う。
サクラの師匠である魔女はこの国の王族と関わりがあり、簡単には手を出す事が出来ない事を知ってか知らずか、いつになく強気なサクラ。
普通の女子高校生でありながら、王族の覇気の篭った視線にも怯える様子は無い。
「やめとけ、物騒な空気を出すんじゃねえよ…。」
そんなサクラをソラは宥める。
「ソラさん!本当にそれでいいの?私が本気になれば…嫌だって言うなら一緒に逃げ出せるよ!?」
「ほう、魔女の弟子でしかないのに言うではないか?」
「わたしも、ソラのためなら、むそうするよ?ゴンといっしょに…。」
「え、私もですか!?」
「小娘共も言いよるわ…!」
「やめろ!お前達!」
庇おうとするサクラ、ルビィ、ゴンをソラは一喝した。
「無駄な喧嘩はするんじゃねえよ!昨日も言っただろ?危ねえ真似すんなって…。」
そう言って、ソラはサクラ、ルビィ、ゴンに優しく微笑みかける。
「庇ってくれてありがとよ…でも俺はお前達より大人なんだよ、だからカッコつけて守らせてくれよ?」
「ソラさん…。」
「ソラ…。」
ソラの言葉に、サクラとルビィはどうして良いか分からなくなる。
そんな中、ゴンは思う。
(いや、私は絶対ソラさんよりは大人だと思うんですけど。)
ゴンは神霊として永い時を生きていた。
だから、そう思っても大人なので口にはださずに、そっと流れを見守るのだった。
「ふはははは!どうやら話はまとまった様であるな?」
「おう、覚悟は決めたぜ、今度こそ、とっととこいつらは帰してやってくれ。」
「うむ、良かろう!余は寛大だ!無傷で帰すと約束しよう!褒美も返せとは言わぬ!」
「そうかい、それじゃ…。」
ソラがサクラ達に別れを告げようとする。
「お待ちなさい!」
そこに、ソラ達を囲む騎士達を割って新たな人物が現れた。




