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 改めて、ソラの今後の生活する場所と、仕事について話をしようとしたところで

「いやいや!待ってくださーい!」

気を取り直したハクから横やりが入った。


「し、神託と若干の違いがあったのには驚きましたけど!あなたは”英雄”なんですよ!ちゃんと神託通りにここで冒険者としての基礎を学んで生活して貰わないと困ります!何ですか土木作業って!普通に暮らす気満々ですか!」


「いやでも何したらいいかわからないしよぉ…経験のある仕事の方がやりやすいし…」

あまりの剣幕で詰め寄られて、悪い気がしてきたがソラにはどうしても譲る気は無かった。

なんとか収めようとするがハクも頑なに冒険者になれと譲らなかった。

なれ!ならないけど!と言った応酬がしばらく続き、お互いヒートアップしていき、

「そもそも冒険者ってなんだよ!?なんで冒険者にならなきゃなんねえんだ!」

もっともな疑問をぶちまけた。


「それはですね!あなたが神に選ばれた”英雄”としての運命で決まってるいるのです!あなたはこれからここで冒険者として基礎を学んで生活していくことになっているのです!」


胡散臭い話だなと思いつつ、いい加減水掛け論に飽きてきたソラは続きを促した。

「ほーう、それで?冒険者としてやってくとどうなるんだ?」


促されると、ソラが興味を持ったと思ったのか、したり顔でハクは熱く語り始めた。

「それはですね!あなたが冒険者として認められる頃の、今から半年後にイケメンの”勇者”がこの街にやってきます!そこで”勇者”があなたに一目惚れして、尚且つあなたが神に選ばれた”英雄”だと知って仲間に誘うんのです!」


ソラは一目惚れされると言う言葉に若干の寒気を覚えつつさらに続きを聞いてみる事にした。

「ほうほう、それで?」


「しかし!あなたは一度断るのです!なぜなら冒険者として一人前になったあなたはその時高難易度のクエストを受けていたからです!”英雄”としての才覚が露わになりこの街近辺では並び立つ者も居ないほどの強者となったあなたは、その時”英雄”程の力を持つ者でしか戦う事の出来ない怪物を請け負っていました!また、あなたは元々感情と呼べるような気持ちの起伏が一切無く、機械的にしか物事を考える事が出来ない氷の女でした!いくら情熱的に誘われても、冒険者としての責務はありますし、あなたはそのクエストを投げ捨てて”勇者”と旅に出るなんて微塵も考えていませんでした!」


よく一息でそんなに語れるなと感心するソラ。

話の内容はちゃんと聞いているようで、”英雄”のあなたと呼ばれる人物が責任感のある人物だなあと登場人物にも感心を抱いていた。

ソラの事を語っているのだが、早くも別人としか認識できなくなっていた。

「で、そのあとどうなるんだ?」


「女の子一人で高難易度クエストを請け負ってると知った”勇者”が、なんと先走って怪物退治に行ってしまうのです!あなたに危ない事をさせないようにと!あと良いとこを見せてかっこつけようと言う気持ちもあるんでしょうね…でもカッコいいじゃないですか!惚れた女の為に危険な死地に赴く”勇者”!あなたは怪物退治の準備をするために入念な準備をしていてすぐに”勇者”が向かったことを知りませんでした、事前調査でよっぽどの強敵とわかっていたからでしょうね。熟練の冒険者らしい行動です。」


「そうだな、で?」


ハクの語りに口にさらに熱が籠る。

次第に、ソラ達の他にも話を聞きに来たギャラリーが集まってきた。


「そんなあなたの元に、”勇者”の仲間が慌てた様子でやってくるのです!”勇者”が一人で怪物の元に向かったと!あなたはその知らせを聞いて慌てて怪物の元に向かいます!あ、ちなみに怪物って言うのはオークリーの西にある炎の泉って所で眠ってます。馬で半日で着く辺りですね。」


「あの辺りにそんな化け物が居るのかい?今のところそんな話は聞かないけどねぇ。」

「結構近いのか?まあいい続けな。」


「はい!それでですね、あなたが急いで駆けつけると”勇者”は怪物と戦闘中!ちなみに、怪物って言うのは紅蓮竜グリムです。伝説上の邪竜ですが半年後まで封印されています。魔王の影響で蘇るらしいです。」


「それってヤバクナーイ?」

「かなりヤバそうだな…まあとりあえず続きを聞こうぜ」

結構な危険な内容でギャラリーも不安の声を漏らす。


「”勇者”が如何に強大な力を持っていようと相手は伝説上の邪竜ですので超苦戦します!と言うか普通に戦い続ければ死にますね!でもそこに!あなたが!駆けつけるんですよ!」


物語は佳境に入り、主役は君だと言わんばかりにソラを指さすハク。

え、ああそう言えば俺の事話してたんだっけと思い出して首をひねっているソラを後目に、若干目がいっちゃってる感じのハクはさらに続きを話す。


「ちょうど”勇者”が大ピンチのその時に駆けつけたあなたは魔法でグリムに攻撃を仕掛けます!得意の召喚魔法で色んな召喚獣や精霊を使って大打撃を与えるんですね!」


「俺って魔法使えるのか?知らねえぞそんなもん…」


「できますよ!最初から召喚師のジョブです!召喚獣や精霊とは契約しないといけませんが冒険者として活躍していく中で自然と強力な召喚魔法を身につけていきますよ!で、話は戻ります!あなたの登場で有利になったかと思ったらグリムのが大きく咆哮します!すると…」


話の演出か、一息溜めて見せ場を演出しているハク。

堂に入った語り草に話を聞くソラも周りの人間も楽しくなってきていた。今更止める者はいなかった。


「なんと!召喚獣が全てグリムに吸収されてしまうじゃありませんか!これはグリムの特殊能力の”魔を喰らうモノ”と言うんですが魔力で出来たものを分解して吸収してしまう能力なのですよ!召喚魔法は召喚獣を魔力で形成する魔法なので耐えられるはずがありませんでした。」


能力や用語の解説もあり、ハクは非常に優れた語り部であった。


「そしてグリムは”勇者”からあなたにターゲットを移します!迫りくるグリム!召喚魔法を破られてはあなたになすすべはありません!絶対絶命のピンチ!グリムの牙があなたに届く!その瞬間”勇者”が力を振り絞ってグリムに攻撃をしかけます!グリムは体制を崩しますがダメージはあまり無いようで、今度は全力を出し切って息も絶え絶えな”勇者”に襲いかかります!」


「絶対絶命…」

「勇者死んだな…」

ルビィ、ソラ、その他ギャラリーからも絶望的な声が上がる。


ハクはさらに一呼吸溜めて、勢い良く続きを語る。

「しかーし!そこであなたは感情に目覚めるのです!あのひとは何で私をかばうの?冒険者としてこの状況なら隙を見て逃げるべきなのに…なぜ?胸に熱い気持ちがこみ上げてきたあなた!誰かを守りたいと言う気持ちが初めてこみ上げてくる!」


ソラは(安っぽい展開だな…なんかガキの頃見た少年漫画とかみたいだ)と思っていたが口に出さず自重した。

ギャラリーも固唾を飲んで聞き入ってるので水を差すのもどうだろうかと空気を読んでいた。


「するとなんと言う事でしょう!守りたいと言うあなたの心に呼応して、生まれた時からずっと持っていた宝玉が輝き始めました!」


「宝玉ってこれか…?」

ソラは革袋から小さな水晶玉を取り出した。


「そう!それです!重要アイテムなのでちゃんとしまっておいてくださいね。その宝玉は世界に一つだけの激レアアイテムですので!」


「お、おう…そんな大事なものなのか」

ソラは再び革袋にしまい、一応きつく紐を結んでおいた。


「えー、それで力を解放した宝玉の効果でグリムは一瞬にして封印されます。宝玉の中にスーッと吸い込まれて消えてしまうのです。あなたと”勇者”は助かった事に安堵します。お互いの無事を確認し、腰が抜けてへたり込み、笑いあいます。初めて見せたあなたの笑顔に"勇者"はドキッとしてさらにほれ込んでしまいます。あなたもなんだかんだで”勇者”が初めて心を許せる相手として認めています。」


「ゾッとするな…」

知らない男とラブコメすると言われて身震いするソラ。

実際、ソラの方からイケメン”勇者”に惚れる事はまずないだろう。

何せ心はドカタのおっさんなのだから。


ハクは語り続ける。物語はついにクライマックスである。


「笑いあう二人、そんな中再び宝玉が輝き始めます!それは何とも美しい白い光で神聖な気配さえ感じさせるのです!白い光はやがて形を取りドラゴンの幻影が現れます!それは先ほどのグリムと違って白く美しい竜の姿でした!白竜は二人に感謝の言葉を告げます。我を魔王の手から解き放ってくれてありがとうと!そう!紅蓮竜グリムとは魔王の力で邪竜にされていた神竜だったのです!」


「超展開だな…ご都合主義とも言うが…」

こらえきれず小声でつぶやくソラ。

幸い誰の耳にも届いていないようだった。


「そして神竜は言うのです!若き英雄達よ…力を貸そう…勇者よ剣を天にかざすが良い…そう言われて勇者が持っていた剣を空に向かってかざすと宝玉が剣に吸い込まれて、聖剣が誕生するのです!そして、無事クエストをやり遂げたあなたに向かって”勇者”は再び仲間になってくれと誘います!返事はもう、お分かりですよね?こうして最愛のヒロインと最強の装備を手に入れた”勇者”は魔王城を目指して更なる旅を続けるのでした…おしまい」


ハクが語り終えると酒場の中は拍手喝采に包まれた。


「いいぞー!」「良かった!」「感動した!」などの声に手を振って応えるハク。


しかし、その中に一人思案顔で腕を組む者が居た。

ソラである。

そして、ハクに一言こう告げた。


「お前、それ話して良かったのか?」


「え、あ……はい!この通りに動いてもらえれば問題無いかと…?たぶん…おそらく…?」


やってしまったかも知れないと思い、震える声で応えるハクだった。

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