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第一王子様がお呼びと言う事で、ソラとサクラは渋々と壇上へ向かった。
「あ、ソラさん!」「やっほー」
そこには既にゴンとルビィがおり、ソラを見るとぶんぶんと手振って招く。
さらにその背後に、ヤース王子も立っている。
「来たか!」
「お呼びとの事でしたからね。」
めんどくさいけど、とソラは心の中で付け足す。
「どうだ?宴の料理は堪能できたか?それとも男どもに言い寄られてそんな暇もなかったか?」
「ええ、料理はどれも美味しくて堪能させて頂きました。ナンパは…まあ…赤毛のチャラ男に変に言い寄られはしましたが特にありませんでしたよ。」
社交モードで答えるソラ。
その様子を見て、女らしい格好をして丁寧に話してたら本当に美少女だなあとサクラとゴンは思う。
「赤毛、ライトの奴か!彼奴は軽薄に見えてかなり選り好みするぞ!彼奴に言い寄られたとは流石であるな!うむ、うむ!」
「選り好みで俺をナンパするとか節穴にも程があるなあ。」
よりにもよって中身おっさんをナンパするなんて、と思ってぼそりと呟く。
「何か言ったか?」
「いえ何も。」
「ふむ、まあ良い!グリンの恩人が揃った事であるし褒美を与えよう、余はその為の準備をしてきたのだ!」
「ご馳走だけで十分なのですが…。」
「ふはは!遠慮深い娘よ!だがそれも良い!良いぞ!」
ソラの大人の対応にさらに気をよくするヤース王子。
実際ソラは十分と思っているのだが。
「なんか強引な感じだよね。」
「ん…あつくるしくてにがて…。」
「えー、良いじゃありませんか、俺様系の王子様って!」
「ない、ない。」
「相手にもよるかなあ…。」
「ワイルド系のイケメン王子様ですよ!私としてはかなり良いです!ああ言う感じの王子様に俺の物になれよ、とか囁かれる展開とか燃えません?」
「ゴン、ほんとそう言うはなし、すきだね…。」
「乙女ですのでー。」
(ゴンちゃんってかなり夢女子だなー。)
ソラとヤースをよそに、ヒソヒソと女子トークを繰り広げる3人。
すると、ヤース王子がそちらに向き直る。
割と無礼な事を言ってたので、聞かれてしまったのかと冷や汗をかく3人。
「おい、お主!名はなんだったか。」
「はい!ゴンです!」
ビシッと指差し指名されたゴンが慌てて答える。
「よし、ゴン、まずは主からだ!」
「え、あ、はい!」
小柄なゴンをホールの人々に見えやすいように立たせるヤース王子。
そして、よく通る声で叫んだ。
「皆の者!歓談を止め注目せよ!」
ヤース王子が言うと、賑わっていたホールがピタリと静かになり、一斉に視線がヤース王子とゴンに注がれる。
「これより!グリンの恩人である英雄達に褒美を与える!」
そして、ワッと拍手喝采が巻き起こった。
「では英雄ゴン!先ずはお主にこれを授けよう!」
「は、はい!って私が英雄なんて呼ばれて良いのでしょうか…。」
元神霊で英雄を導く立場であった事もあり複雑な気分になるゴン。
少々困った顔になっているが、ヤース王子は構わず、と言うか気付かずにゴンの手を取り、傍より取り出した青い宝珠を手渡す。
渡された宝珠を見てゴンはギョッとする。
「はわわ!水の精霊石じゃないですか!」
「うむ!英雄であり精霊であるゴン!この者には水の精霊石を取らせる!」
ヤース王子がそう宣言するた再びホールに拍手が響く。
「では次!赤毛の英雄…ルビィであったな!前へ!」
「ん…。」
ルビィが呼ばれ、ゴンと入れ替わるように前に出る。
ルビィが前に出ると、拍手で迎えられる。
それにルビィは両手を上げて、格闘選手が入場する時のようにして応えた。
ホールからはさらに笑いと喝采が飛ぶ。
「コホン、さてルビィよ!お主は殴り巫女と呼ばれるメイス使いらしいな!」
咳払いで拍手喝采を止ませて、ヤース王子が言う。
「ん、そんな時もあった。」
「なので、お主にはこれを与えよう!」
そう言ってヤース王子はパンパンと手を叩いた。
すると後ろに控えていたメイドが、一本のメイスを掲げるように持って現れる。
「これは…?ちからをかんじる…。」
掲げられたメイスを手に取り、ルビィはそう漏らした。
「うむ!このメイスは名は無銘であるが、破壊力と、相手の体力を吸収する力がある宝具である!」
ヤース王子が声高らかに説明してくれた。
「…いいね!」
グッとサムズアップするルビィ。
そして、ほくほく顔で後ろに下がっていった。
「よしよし、次!次は…魔女リコの弟子、サクラ殿か!」
「ちょ!ちょっと待って!」
サクラが呼ばれたが、慌てて言葉を止める。
「む、どうした?」
「あの、これってグリン王子様を助けたからご褒美渡してるんですよね?」
「うむ、そうだが?」
「ええと、私はその時ソラさんに会った事も無いし一緒に居なかったので、飛ばしてください!」
そう、サクラはその件に関しては部外者であった。
宴席に一緒に来ておいてなんだが、ソラ達とはこの街で一緒に行動を共にしているだけである。
さんざんごちそうになった後でとても言いづらかったが、このまま褒美なんて渡されようものなら罪悪感に圧し潰されてしまうので、サクラはキッパリと言い放った。
「むう…そうだったのか…だがせっかく用意したのだから受け取るが良い!」
「いいですから!そんなのダメです!何もしてないのに貰っちゃったら師匠に泥を塗る事になってしまいますし!」
「そうか、正直で良し!まあ魔女殿に泥を塗るわけにはいかぬからな!分かった、サクラ殿は飛ばすとしよう。」
「はい、そうしてください!」
あっさり引き下がってくれた事にほっと胸をなでおろすサクラ。
「魔女殿は厳しいお方だからな…仕方ない。では仕切り直しだ!最後に英雄ソラよ!」
他人事のように眺めていたが、ついに名前を呼ばれてしまったソラ。
ここは、卒業式の証書授与みたいにきっちりしたほうが良いのだろうか、と考え
「はい!」
と真面目に返事をして前に出る。
サクラみたいに断りたかったが、こう満を持してと言った感じで呼ばれると断り辛い。
「お主、いや、ソラには取って置きの褒美を授けよう!」
ソラが前に出ると、ヤース王子は手を上げて高らかに宣言する。
一層気合の入った宣言に、宴席の会場はワアアアアッ!と大いに盛り上がる。
「うわ…大げさな前ふりは困るなあ…。」
ソラは小声でぼやくも、会場の盛り上がりでかき消され誰の耳にも届く事は無い。
「さあ、最後の褒賞である!ソラよ!美しき英雄ソラよ!」
称えるように、謳うようにヤース王子が言う。
そんな風に称えられてもはぁ…とソラはなんとも思わないのだが、構わず熱の籠った口調でヤースは続ける。
「ソラよ!美しい其方への褒賞!それは余だ!」
「はぁ!?何言ってんだ!?」
思わぬ宣言に、丁寧口調を忘れて地の口調に戻ってしまうソラ。
そんなソラを他所に、会場は多いに沸き上がった。
「そう!余が褒賞だ!余は其方のモノ、其方は余のモノ!其方を余の妻へと迎え入れよう!」
キャー!
ワーッ!
さらに一層沸き上がる会場。
「キャー!来ましたよ!王道の俺のモノになれ展開!」
一部、ソラの仲間の一部、と言うよりゴンも盛り上がっていた。
「ふははは!どうだ!嬉しいであろうソラ!其方のように強く美しい乙女こそ余に相応し」
「断る!」
ホールに凛とした声が響き渡る。
声の主はもちろんソラ。
よく響く少女の声が、ホールを埋め尽くす拍手喝采割る。
ソラの一言で、会場は固まり、シーンと静まり返る。
「な、何を言っておるのだ?ソラよ!」
ヤース王子が震える声でソラに尋ねる。
「断るって言ってんだよ!いるかっ!そんなもんっ!妻になってたまるかってんだ!!!」
そんなヤース王子に、ソラは怒気を込めた一喝した。




