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暫くして、メイドたちの仕事が終えて、目を開けてもいいよと声がかかった。


「なんじゃあこりゃあ!」

目を開け、往年の名作刑事ドラマのような台詞をソラは放つ。

別に拳銃で撃たれた訳ではない。


ただ、白い絹のパーティドレスを着せられ、髪を白いリボンでツインテールにされていた。

それだけだ。

パーティドレスは白く、花の刺繍が所々にされておりお嬢様のような品があり清楚。

さらに、白いフワフワのリボンで結われたツインテールが幼さと可愛らしさを演出している。

要するにとても可愛らしかったのだ。


ほぉーっとメイドたちが己の作り出した美少女に見惚れる。

だが、ソラは今にも脱いでいつもの服装に戻りたい気持ちでいっぱいだった。

「可愛いですよ!とても!」

「最高よ!髪型も似合ってるわ!」

「もっとフリルとか入れてもよかったかしら?」

「それもいいわね、でもシンプルな方が素材が輝くってものよ!」

「それもそうね、最高の素材なんだから。」

などとメイドが口々に褒め称える。

褒め称えてるのだが、おっさんの精神を持つソラにとっては拷問にも等しい。

消えてしまいたいと、赤くなった顔を手で覆って「うあー!」と情けない声を出すのだった。


同じくドレスに着替えた3人が、その姿を見て口々に感想を述べる。

「さすがソラさん!着るもの変われば本当に美少女ですねー!普段から可愛い服を着たら良いと思うんですけどねー。」

黒い子供用のシンプルなドレスに着替えたゴンが言う。

「ん、メイドグッジョブ、でも、なんか、もやもやする…。」

真紅のドレスを纏ったルビィが言う。

「なんか…可愛すぎてずるいよ…。」

淡いピンクのドレスを着たサクラが拗ねる。

それもそのはず、男の心を持ったソラが、ここに居る女性の誰よりも可愛いのだから。


ソラが「うー…」とまだ唸って居ると、更衣室に一人の女性が入ってくる。

新しい人の気配に、ソラは思わず顔を上げて、そして衝撃に目を剥いた。


新たに現れた女性は、ソラと同じく金色の髪、そして長い耳をしていた。

ソラはそれに驚いた訳ではなく、女性の美しさに目を奪われていた。

スラリと細長いシルエット、白磁のような肌、吸い込まれるような翠の瞳、少女漫画から抜け出してきたのでは無いかと思うような造形のエルフの美女であった。

それもかなり大人びており、ドレスに隠れた胸もそれなりのボリュームを誇っていた。


女性は更衣室を見渡し、ソラと目があった。

「この子達ね。」

羽のように柔らかい声で呟く。

そして、ツカツカとソラたちの元へやってきた。


「こんにちは、着替え終わったのね、とても可愛いわ…それじゃあ行きましょう?」

そして、ソラに声を掛けてその手を取って歩き出す。

「え?あ?」

何が起こったか、見惚れていたソラは思考が追いつかず、為すがままに連れていかれた。

「え、ちょっと待ってよ!」

とサクラが追おうとすると、するりとその手を掴まれる。

メイドたちだ。

彼女たちは、慌てて追おうとするサクラ達の手を取って、ゆっくりとエスコートしていく。

「そう慌てずとも、私たちが案内しますよ。」

と言って優しく声をかけ、先に行ってしまったエルフの美女とソラの後に続く。

やんわりと手を引かれ、サクラ達も為すがままに連れていかれるのであった。


「着いたわよ。」

ソラの手を引いていた美女エルフが足を止める。

そこは、御伽噺の舞踏会が行われていそうなホールだった。

だが残念ながら、舞踏会が行われている訳ではなく、豪華な食事が並んでおり、立食パーティのような様相だ。

そんなホールの一際高い所にソラ達は手を引かれて立たされていた。

「来たか。」

何故こんな所にと困惑していると、ヤース王子がスッとソラの隣に現れた。

ソラを連れて来た美女エルフはニコリとヤース王子に微笑むと、身を翻してホールの隅へと歩いて行った。

「一体、何者だったんだ?」

ソラの呟きはホールの喧騒にかき消される。

「ふむ、着替えればまるで物語の姫君のようではないか!」

ドレス姿のソラを見てよいよい!と褒めるヤース王子。

「そして連れも中々の美人揃いではないか!着替えさせた甲斐があったと言うものだ!ははははは!」

サクラ、ルビィ、ゴンの姿を見てさらに満足そうに笑った。


「そりゃどーも、お姫様になるぐらいなら灰被ってたほうがマシだったけどな。」

王子相手だと言うのに、嫌気がさして思わず素で皮肉を返してしまう。

「ははは!そなたの美しさなら灰も宝石になろうぞ!」

ヤース王子は気にしてなさそうだった。

「さて、では今からそなたらを紹介するとしよう。」

そして、そう言ってホールに向かって声を上げる。

「皆の者!聞くが良い!」

ヤース王子がよく通る声でそう叫ぶと、ホールは一瞬にして静まりかえった。

「此度の宴に特別な客人を招待した!我が弟、グリンの命を救った英雄達である!」

そして、ソラ達を大仰な手振りで紹介する。

おおー!とホールから歓声が上がる。

「故に!余はこの者達をこの席に招いた!馳走を取らせ!褒賞を与えよう!まずは馳走を楽しむが良い!宴ぞ!」

わあああああああ!

と歓声、喝采が上がる。

第二王子グリンを救った英雄を称え、乾杯が始まる。


「さあ、紹介は終わりだ!そなたらもしばし、食事を楽しむが良い!後で褒賞を与えるので勝手に帰るでないぞ!」

「なんだよ…あの紹介は…大げさすぎる…。」

「は、恥ずかしい…。」

「そんなことより、ごはんだし。」

「そうですよー、せっかくだからお城の料理を頂きましょう!あとなんかロマンあふれるシチュエーションですね!ソラさんなんか王子にべた褒めされてるじゃないですか!ワンチャンロマンスありますよ!」

恥ずかしがるソラとサクラ、そんな事よりメシのルビィ、そして乙女ゲー的な展開が始まるかとワクワクしてテンションが上がっているゴンであった。


「恥ずかしい思いさせられたし、元取る為にいい飯食ってくか。」

ふぅ、と恥ずかしい思いをした事をため息で流して、気を取り直して食事を楽しむ事に決めたソラ。

「そうだね、私も…うん、せっかくだから美味しいご飯食べて忘れよ。」

サクラもソラに倣う事にした。

因みに、ルビィとゴンはすでに食事を物色しに行ったので見失っていた。

「にしても、お城で振る舞われる食事ってのは楽しみだな。」

「うん、どんな料理があるか楽しみかも。」

「高そうなやつからどんどん食うぜー!」

「あはは、私は普通に食べられたらいいかなって。」

「なんだよ、若いんだからどんどん食っとけ。」

「ソラさん、それちょっとおじさんくさい…。」

「ぐぬう」

などとソラとサクラも話しながら食事の席に向かう。

ヤース王子はそれを見送って、ホールから去って行った。

褒賞を取らせると言っていたので、何かを取りに行くのだろう。


料理を物色していると、何人かの貴族や騎士と名乗る人間が次々と話かけてきた。

面倒くさいと思いながらも、営業モードで挨拶して微笑むと、みな蕩けた様な顔になり固まったのでよくわからないがそのまま放置して、ソラはめぼしい料理を食べ歩いて行った。

一緒に居たサクラとは、彼女も色々な人に囲まれ、話しかけられていたのでいつの間にかはぐれてしまった。

まあ、このホールにいるならそのうち会えるだろうと思い、食事を続ける。


「しかし、異世界なのに…なんか所々に見覚えのある料理があるな…。まさか大トロの寿司があるなんて…。」

などと一人でぶつぶつ言いながら高そうな料理を次々とつまみ、歩いて行く。

そろそろお腹が膨れてきたところで、デザートによさそうなプリンを見つけた。

肉料理の真ん中にぽつんと置かれているそれを、ソラは「そろそろ甘味で〆るかー。」と言って手に取る。

とろりと、スプーンで塊を掬う。

なめらかプリン系だな、とソラは思った。

どちらかと言えばプッチン系の弾力の強い方が好きなソラだが、時々こっちも食べたくなる。

カラメル部分を少しプリン本体と絡め、ソラはプリンを口に運ぶ。

バニラビーンズの甘い香りが、これから来るであろうプリンの甘さを想像させる。

だが、それは余りにも残酷な形で裏切られる。

口の中に入れたそれは、下に思わぬ衝撃を与える。

塩気、油気、美味いとされるその二つが一度に広がった。

完全に、プリン甘味が来ると思っていたのにだ。

余りにも残酷、無慈悲極まりない味である。

さらに、肉の風味が追い打ちをかけた。

高級焼き肉、プリンを食べたつもりなのに高級焼き肉そのものがソラの口内を蹂躙した。

「んんんん!」

声に鳴らない叫びを上げる。

吐き出したい気持ちを、パーティ会場であることを思い出し必死に抑える。

ごくり、とプリンと思われたプリンもどきをなんとか飲み込み、涙目で、近くにあったジュースを飲みほした。

「はぁ…はぁ…。」

そして、ソラは思い出した。

サクラが以前言っていたモソロプと言う食べ物を。

「くそ…異世界ってろくでもねえ…。」

そう吐き捨てて、さらに新しいジュースのグラスを手に取りホールの端っこへよろよろと歩いて行くのだった。

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