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2017/12/5 誤字修正しました。
「危ない事をするんじゃねえ!」
ソラは一喝する。
「ごめんなさい…。」
「反省してます…。」
怒られたルビィとサクラがシュンとした様子で謝った。
時間は少し遡る。
ソラが腹痛との戦いを繰り広げていると、ルビィを伴ってゴンがやってきた。
おかげで治療魔法を受けて回復した。
「助かったぜ…しかし、サクラが居ないようだが?それになんかボロボロになってないか?」
一緒に行動していはずのサクラの姿が無いことに早速気づいた。
「サクラは…消火活動してる…。」
ルビィは答える。
「おいおい、火事でもあったのか?そういやルビィ、お前もちょっと焦げ臭いな…マジで火事か…。」
「うん、まあそんな感じ?」
「それどころじゃなさそうでしたけどねー…。」
「ふーん?よくわからんがサクラの所に向かうか。」
とサクラが消火活動していると言う森の浅い所に向かった。
サクラが居ると言う場所までやってくると、そこは酷い有様であった。
酷い火事だった事を物語る焼け焦げた木の跡。
疲れ切った顔で座り込んで居る見ず知らずの冒険者達。
そして、真っ二つにされた巨大な黒い蜘蛛。
マジシャンと共に、魔法で木々の消火をしていたサクラはソラ達の姿に気づいた。
消火活動はほぼ終わりかけだった為、サクラは、マジシャンに一言断りを入れてからソラ達の方へ向かってくる。
「ソラさん!えへへ、見て見て!」
上機嫌そうに蜘蛛を指差すサクラ。
「あれ!冒険者さん達と一緒にやっつけたんだ!凄いでしょ!」
「どやぁ…。」
「って言っても私は殆どサポートだったんだけどね。」
「でも、かなりたすかった、よ。」
「ああ、嬢ちゃん達がいなけりゃ俺たちは全滅さ。」
サクラとルビィがソラに説明して居ると、眼帯の男も会話に加わる。
「へーえ、ところでこの人たちはどちら様なんだ?」
ソラは尋ねる。
「おっと、俺たちは悪夢の団ってパーティーのもんだ。俺はリーダーのガス。このモンスターに苦戦してたところをサクラ嬢と、ルビィ嬢に助けてもらった形になるな。」
「そうなのか、俺はソラ、でこっちの小さいのはゴンだ。うちのツレが迷惑かけたな。」
「迷惑だなんてとんでもねえ、俺たちは本当に助けられたんだ。」
さらに、1人のおっさんが会話に加わる。
がっちりした体つきで、無精髭が似合う角刈りの男だった。
「俺はファイターのライロ、このパーティーの前衛なんだけどよ、あの蜘蛛に斬りかかっても斬りかかっても全然刃が通りやしなかったんだわ。」
「そんなに硬いのかあのモンスター。」
「おう、そうなのよ。そしたらそっちのルビィお嬢ちゃんの方から声が聞こえてよ、剣を掲げよとかって言われたのよ。」
「え、なんか私嫌な予感がするんですけど!」
ゴンがこの時点で何かを察したように冷や汗を流す。
「それで、俺が剣を持ち上げたらよ、ピカって光に包まれて剣がこんなんになっちまって…。」
そう言ってライロはソラ達に剣を見せる。
豪華な装飾がされた美しい剣だった。
刃の部分は白く光のように輝く金属で作られており、神聖なオーラを放って居る。
また、柄の部分は白いドラゴンを模した意匠になっていて、宝玉のような物が散りばめられている。
「これでスパッと斬れちまったんだよ、何なんだいこれは?」
「やっぱりー!聖剣じゃないですかー!」
ゴンが絶叫した。
「聖剣…?これが伝説の?」
その剣の持ち主、ライロがギョッとした。
「そうですよ!聖なる龍の力を込めた聖剣です!勇者の前にしか顕現しないはず…と言うかそもそも神龍の力が封じ込められた宝玉が無いと…。」
そこで、ハッとゴンは気づく。
「ルビィさんが預かったままだったじゃないですかー!」
そう、オークリーを出ようとソラが考えた時に宝玉をルビィに預けていた。
「ん、置いてくるのわすれてた。」
悪びれずルビィは言う。
「つーか、待ってくれ!俺はとんでもねえ物を渡されちまったのか!?」
いきなり世界の命運を握るレベルの武器を渡され、戸惑うライロ。
「ええ、あとそれ持ち主以外使えませんので、頑張ってくださいね…。」
慈愛と同情の篭った瞳で中年冒険者の肩を叩くゴンだった。
「私にはもうシナリオなんて関係ないですし…もうどうでもいいです…どうなるんでしょうねえ勇者の冒険。」
「知らん、とにかくあんたの物らしいから上手く使ってくれよ、ライロさん。」
ソラもポンと肩を叩く。
内心、そういやそんなんあったなと思いつつ、勇者と関わるフラグを知らないおっさんが回収してくれた事に感謝する。
「さて、俺たちはやるべきことがまだあるので、申し訳ないけどその後始末はお願いします。」
ライロ達が戸惑ってる隙に、ソラはそう言い放ちサクラとルビィを連れて、街の方へ帰って行った。
悪夢の団が見えなくなる所まで移動した後、ソラは
「さて、ルビィとサクラに言いたいことがある。」
と口を開いた。
「なに?」
「な、に?」
ルビィは内心、神龍の宝玉の事を忘れていた事を怒られるのではないかと心配していた。
だが違った。
「ルビィ、お前あの蜘蛛に気づいて別行動させたのか?」
「うん、そう…ソラは今までレベルあげてないし、あぶないから…。」
思っていたのと違う質問でルビィは少しホッとした。
「ふむ、サクラは知ってたのか?」
「知らなかったよ。あんな怖いのいるなんて。」
「そうか、でも戦ったんだな?」
「うん、冒険者さん達もあのままじゃやられてただろうし、ルビィちゃんも結構ピンチだったから、怖いけど頑張らなくちゃって…。」
「そうか…お前ら…。」
ソラはルビィとサクラの話を聞いて、思案する。
そして、暫くの沈黙の後、口を開いた。
「ルビィ、お前はなんで気づいたのにちゃんと説明しなかった。」
「言うと、帰るとおもって…。おかね、いるんでしょ?もっと採取、しなきゃ…。」
「いいんだよ!金よりも命の方が大事だ!俺の命もだけど、お前らの命も大事に決まってる!だから危ない気配を察知したら言え!命大事にだ!」
「いのちだいじに…はい…。」
怒られ、シュンとするルビィ。
「あと、サクラ!」
「は、はい!」
「冒険者達を守れた、それはとても良いことだ。だけどな?なんでお前が危険を顧みず戦う必要がある!」
「えっと…戦う力はあるから…。」
「そう言う問題じゃない、強かったとしてもお前はまだ若い、もしもの事があったらどうする、まだ会って2日だけどよ、俺はお前に何かあったら悲しいぞ?」
「う、はい…。」
「それに、もっと大人に頼れ、まだ高校生なんだろ?後味悪かったかも知れねえけど、ルビィだけでも連れて戻って俺に相談したら良かったんだよ。」
「はい…わかりました…。」
サクラも怒られてシュンとする。
「いいか、お前らなあ…難しい事は言わないからよ。」
スゥーッと息を貯めるソラ。
「危ない事をするんじゃねえ!」
と一喝するのだった。
「ごめんなさい…。」
「反省してます…。」
とルビィとサクラは謝った。
反省している2人の様子を見て、ソラは怒りを鎮め、優しく語りかける。
「世の中、まあ理不尽な目にあうこともあるけどよ…避けられるなら逃げろ、頼れるなら頼れ、この世界じゃ俺の方が弱っちくて頼りないかも知れないけどよ…それでも、頼ってくれよ。大人だからな。」
そう言って、2人の肩を優しく叩く。
本当は頭を撫でようとしたが、サクラがソラより背が高く身長差があり、不恰好になりそうだった為に肩で妥協した。
「う、うん…はい!これからは…ソラさんを頼ります。」
「ごめんね、ソラ…ちゃんと言う…。」
ルビィ、サクラはソラの怒りは心からの気遣いだと理解した。
二度と心配をかけまいと、心に誓う。
でも、もしソラに危機が訪れたら、必ず守ろう。
そう思う2人だった。
「かっこいい事言ってますけど、ソラさん2人が戦ってる頃って松茸を…。」
「おっと、ゴン、それ以上は言うな。あれは2人の秘密だ。」
ゴンが何か言おうとしたところでソラは口を塞ぐ。
ソラが命令することにより、ゴンは契約の精霊故に言えなくなるのだが、ソラはそんな事知らずに強く羽交い締めにする。
バタバタと尻尾を振って言いませんアピールをするゴン。
それを察してソラは手を離した。
「ねえ、松茸ってなんなの?」
サクラが気になったらしく、ソラに尋ねた。
「いや、そっくりな毒キノコがあるから気をつけろって話だ。」
「ふーん?」
何故毒キノコであると知っているのだろうか、苦しい言い訳だがサクラは聞かないであげることにした。
秘密にしておきたいのだろう。
ソラは大人だ。
大人には秘密があった方がカッコいいかも、なんて考えながら微笑むサクラだった。




