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浄水の神殿観光を終え、満足した様子で「次はどこ行くかなー、時間的に晩飯食うとこ探すか?」などと次の計画を立てながら街を歩くソラたちだったが、ソラが突然何かに気づいた様子で足を止めた。


「しまった!俺としたことがうっかりしてたぜ…」

「いきなりどうしたんですか?何かあったんですか?」

「へんなもの食べた…?」

突然のソラの様子を心配して声をかけるゴンとルビィ。

ソラは深妙な面持ちでゴン達に語る。

「お前ら、さっきの司祭達を覚えてるよな?」

「はい、おいしいお水を頂きましたよね。」

「うまかった。」

「そう、その水を飲んだせいなんだよ!」

それだよ!とどこへと言うわけではなく、ビシッと指を指してソラは続けた。

「司祭に美味しい水を貰ったせいで忘れてたじゃねーか!せっかくあんな綺麗な場所行ったんだから写真撮らねーと!くそう俺としたことがぬかっていたぜ…!」

「あー…そんな事ですか…でもいいですね、写真!」

「サクラに、あとでみせよ?」

そう、ソラは観光地に行って写真を撮り忘れていた事を思い出したのだ。

「そうだな、後で落ち合うサクラに見せたいもんな。じゃあやっぱすぐ見れて形の残るポラロイドがいいかな。」

と、ポラロイドカメラを召喚して、浄水の神殿へと踵を返し向かうソラ達だった。


ソラ達が浄水の神殿へたどり着くと、ちょうどこそこそと忍び足で先ほどの司祭達が神殿の裏手へ歩いて行くのが目に入った。

「お、司祭様達だ、さっきは世話になったし門番の人みたいに写真撮ってやらねえか?」

とソラが提案する。

「いいですね、親切にしていただきましたし。」

「おっけー。」

ゴンとルビィも同意した。

「よし、じゃあ呼びに行くか。」

そう言って、司祭達が向かった神殿の裏手へとソラ達も入って行った。


そこには、おぞましい光景が広がっていた。

三人いる司祭達はみな、服を脱ぎ棄てパンツ一枚と言った格好でをしており、恍惚に染まった顔をしている。

ハァハァと息を荒げて一心不乱に木製の器にほおずりしていた。

「ああ!神聖な!神聖なオーラを感じます!美しい少女の神聖な!神聖なああ!エルフの少女のお!!!!」

神聖を連呼して、木製に裸でほおずりする太ったおじさん。

「ふんふん、いい匂いだ、赤毛ちゃん…ふぅぅうう。」

鼻を大きく広げて、体から白い湯気を発する裸の巨漢。

「おお!美味しー!美味しー!ケモミミっ子の味がすりゅううう!!」

手に持った木製の器の一部を舌を大きく動かしてぺろりぺろりと嘗め回す細身の、がりがりの男。

「おや、せっかちですねザックさん。しかし、私ももう我慢できません!ああ、神聖なる少女の口に!口が!唾液が!」

太った裸の男が、ほおずりしていた木製の器をぺろぺろと嘗め回し始めた。

ぺろぺろちゅうちゅうと、大の男が本能をむき出しにした様子でむしゃぶりついている。

さらに、ガタイの良い巨漢も太った男に続く。

「ふんふん、ぺろぺろ、ちゅっちゅ、ぺろぺろ。」

無言で、一心不乱で、目を閉じて全力で器を堪能している。

器、そう、木製の器についた少女達の残り香を、口がついたところを、その残滓を全力で味わっていた。

まさに狂気の宴だろう。

悪夢としか言いようがない光景。

すぐにでもむしゃぶりつきたいのを我慢していたせいか、タガが一気に外れている三人の男。

太った男、司祭のゲーニル。

ガタイのいい男、プリーストのザック。

細身の男、同じくプリーストのドルチ。

彼らは、ソラ、ゴン、ルビィが水を飲むのに使っていた木製の器をぺろぺろしていた。


ソラ、ゴン、ルビィは司祭達の後を追いかけ、そんな悪夢そのものを目にしてしまった。

ソラは、黙ってメイスを構えたルビィと魔力を練り今にも攻撃しようとしているゴンを手で制する。

そして、持っていたポラロイドのシャッターを押した。


狂乱の宴が開かれていた神殿裏の暗がりがカメラのフラッシュで照らされる。

そして、司祭達は一様にフラッシュが光った方向、ソラ達を視界にとらえた。

「あ、ああ…。」

ザックが声にならない声を上げる。

「は、はひぃ!」

ドルチは脱ぎ散らかした服を拾って体を隠す。

「は、ははは…いやあ、今日は暑いですなあ!」

乾いた笑いから、いかにも今しがた暑さで脱ぎましたよと主張するようにゲーニルは誤魔化そうと試みた。

しかし、ソラ達の冷ややかな目は冷たさを増すばかりであった。


はははと笑いながら、服を着なおした司祭達三人。

無言で見つめるソラ達の方へ向かい、

「いやあ、暑くて水浴びでもしなければやっていられませんでしたもので、お恥ずかしい所をお見せしました。」

「ははは」

「ははは」

と三人は全力で誤魔化そうとしていた。

あまりの白々しさに、殺意を増したルビィがメイスを振りかぶる。

だが、ソラはまたもそれを手で制した。

そして、手に持っていた一枚の黒いフィルムを司祭に向ける。

「おや、なんですかな?この紙は…」

そう言って、黒い紙を見ていると、じわりと像が浮かんでくる。

じわり、じわりと映し出される画に司祭達は脂汗が止まらなくなっていた。

「こ、これは…私達の…!私達の遊びが…!!!」

最初真っ黒だったフィルムが次第に像を結び、一枚の写真が浮かび上がった。

そこには、パンツ一枚で痴態を晒す司祭達三人の姿が写っていた。


「な、なんでも致しますから!お慈悲を!お慈悲を!!!」

ソラの手に持っている写真が何を意味するか、全て理解したゲーニルは慌てて跪いて許しを請うた。

だが、ソラは無言で、先ほど司祭達が居た暗がりを指さすだけだった。

「へ、なんでしょう…あちらへ行けと?」

ゲーニルが問うとソラは黙って頷いた。


ゲーニル、ザック、ドルチの三人を一列に並ばせると、ソラは「はぁー…」と大きく息を吐いた。

「あ、あの…お金でもなんでも、払いますので…見なかった事に…していただけないでしょうか?」

息を吐いた後、すぐに言葉のでないソラに、ゲーニルはお伺いを立てる。

「ふぅ…」

再び息をつき、ソラは重い口を開いた。

「お前ら…キショク悪い事してんじゃねえよ!」

一喝。

少女の言葉とは思えぬ荒々しい一喝であった。

司祭達三人は思わずビクリと肩を震わせる。

「最初は親切なやつらと思ったけど、トンでもねえド変態だなお前ら…ああん?」

司祭達三人は男で、それなりの身長もある為、立たされればソラ達を見下ろす形になるのだが、睨み上げる鋭い視線に己が小さい生き物になったように錯覚する。

「ぼこす…?ぼこす…?」

ルビィがメイスを手に持って振りまわす。

「やっしゃいましょうソラさん!」

シャドーボクシングで威嚇するゴン。

だが、ソラはまだだと怒っている様子の二人を窘めた。

「いい大人がさあ、女…の子の使用済みの器をぺろぺろぺろぺろと…恥ずかしいと思わないのか?」

自分も女の子に含む事に若干の抵抗があり一瞬だけ言いよどんだが、説教を始めるソラ。

「しかも、親切装って使用済みの器を確保しようとかよお…悪意あるよなあ?最低だよなあ?」

「は、はい…申し訳ありません。」

「相手に悪いと思ってんだよなあ?おい、お前も、お前も。」

俯いて地面を見つめていたザック、ドルチをかつる叩き、顔を上げさせる。

「は、はい…最低の事をしておりました…。」

「反省しております…。」

青い顔で、膝を震わせ声を出す。

怒られて委縮しているからだけではない。

ソラが手に持っている写真が、さらなる恐怖を煽るのだ。

あんな精巧な移し絵がもし世に出されようものならば、司祭達三人の人生は間違いなくお仕舞だろう。

絶望、そんな言葉が重くのしかかる。

「お前ら心の底から悪いと思ってるのか?おい!」

「「「は、はひぃ!」」」

三人声を揃えて返事をする。

少女と思えぬ気迫に後ずさりそうになるも、なんとか踏みとどまる。

「ならよぉ…一発ずつだ。」

とソラが言う。

「はい?」

何のことか分からず間の抜けた声で聞き返すゲーニル。

「俺ら三人に一発ずつぶん殴らせろ。それで手打ちにしてやる。」

とソラは言う。

「え、は、はい!ええ…?」

思わず承諾したが、そんな事で許す気など無いだろうとゲーニルは悟った。

だって三人とも目が座ってるのだから。

殴ると言って死ぬまで殴る気だ、そうに違いないと思った。

「じゃあひょろいのはゴン、ごっついのはルビィがやれ。」

「はい!」

「うぃ…ぼこす…。」

そう言って司祭達三人の前に少女達三人が並び立った。

「いいか、腹にキツイの一発だからな。おい、司祭共!せいぜい歯食いしばって腹に力入れておけよ!」

そう言ってソラは拳を振るう。

ゴンも拳を、ルビィはメイスを振りかぶって三人の胴体にクリーンヒットすた。


パァン!と音を立てて司祭達三人は同時に後ろにフっ飛ばされた。

予告通り腹を強く殴られ、腹に力を入れていた為酷いケガなどはしていないが、かなりのダメージだ。

倒れる三人にソラ達がつかつかと歩み寄ってくる。

そして再び手を上げる。

ああ、やっぱり…もうダメなのか…しかし、神聖な少女を汚すような真似をしていたのだ、当然の報いだ…甘んじて人生の終わりを受け入れよう。

そう思い目を閉じたゲーニル。

その様子を見てザックもドルチも目を閉じ、覚悟する。


すると、ビリッビリッと紙の破れる音が聞こえてきた。

なんの音かと恐る恐る目を開くと、先ほどの写し絵がビリビリに破られていた。

破られたフィルムは、光の粒子となってその場から消えて行く。

「え、え…」

「よし、これで手打ちだ!」

訳が分からず動揺する司祭達に向かってソラはニコりと笑いかける。

先ほどまでの冷ややかな顔ではなく、爽やかな笑みだ。

「これに懲りたら二度とみっともない真似するんじゃないぞ?わかったか?」

そして窘めるような表情に変わり、ゲーニルの額を拳で軽くこつく。

弟を然る姉のような感じで。

「は…はい…」

なんとか返事をする事が出来たゲーニル。

「よし、じゃあ行くか!神殿の写真撮ったら宿に帰るかー。」

もう済んだ事と言わんばかりに、司祭達に背を向けソラは歩き出す。

「えー、ま、待ってくださいよう!」

ゴンとルビィがソラの後を追うようについていく。

司祭達は倒れたままそれを見る事しかできなかった。

「ッチ…」

とルビィが司祭達を振り返り小さく舌打ちした時は一瞬体を竦ませたが、すぐに三人とも立ち去って行った。


「ゆ、許されたのか…私達は…?」

ゲーニルが夢から覚めたように声を出した。

「あ、ああ…なんと慈悲深い…」

ドルチは祈るような姿勢でソラ達の去って行った方向に向かって跪く。

「なんと言う人たちだ…魂さえも美しい…」

ザックもドルチに続いて跪く。

「ああ…彼女達は…天使…?いや…女神…女神ではないでしょうか…。」


浄水の神殿の裏手の暗がり、そこには手を合わせ、天に祈るようにソラ達へ祈りを捧げる三人の司祭の姿があった。

後に彼らは、女神教と言う宗教を立ち上げる。

彼らが祀る女神は、エルフのような長い耳をしており、おともに赤毛の少女と狐耳の少女を連れていたと言う。

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