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料理と言うものは、その土地の文化がよく表れているとソラは思う。

地域によって、甘い味付けだったり塩辛い味付けだったり、普通は食べないと思う物が調理されていたり。

何故そう場所によって変わるのか、専門家ではないソラにはそこまでは判らないが、ただ一つ言える事は、ソラが旅先でご当地グルメを食べる事が大好きだと言う事だ。

それが不味かったり、好みじゃなくてもご愛敬。

兎に角、旅先で食べるメシと言うものが好きなのだ。


「こうまで、口に食べ物を入れる事を躊躇ったのは初めてだ…イナゴでも全然平気だったんだけどよ…」

ソラ達は、王城を後にして、小腹がちょうど空いてきていたので昼食を食べる事にした。

この地でしか食べられない物は無いかと話していた所、サクラがサーキュライト名物について教えてくれた。

なのでさっそく、その名物が食べられる店を探して来てみたのだ。

そのサーキュライト名物とは。

「おや、食べないんですか?美味しいですよ、ダークツリーのコア焼き。」

ソラの目の前でゴンが謎の物質を切り分け、食べている。

ダークツリーのコア焼き、それはサーキュライト王国周辺に生息する黒い樹木形モンスター、ダークツリーのコアを採取したその日の内に聖なる炎で直火焼きにした名物料理である。

ダークツリーはサーキュライト王国近辺にしか生息しておらず、また、コアはダークツリーから切り離すと1日で腐敗してしまうため、ここだけでしか食べられないので名物と言う事だった。

因みに調理する際に使われる聖なる炎は、プリーストが使える初級の魔法らしい。

「モンスターの部位でも、浄化はカンペキ…わたしが保証する…よ?」

ルビィが言う。

ソラがモンスターの部位を食べると言う事を躊躇っていると思っているようだ。

「いや、モンスターがどーとかじゃなくて、見た目が食べ物に見えないって言うかな…」

ソラが自分の前に置かれた皿を見る。

そこには、真っ黒な正方形のキューブが黒い粒子を振りまきながら乗っていた。

黒いキューブは百歩譲って理解できる範囲だ。

だが、なぜ黒い粒子がそのキューブから放射されているのだろうか。

ちらりと横目でサクラの方を見やる。

同じ日本人、ましてや年頃の女子高生だ、ソラよりも嫌がっているに違いない。

そう思って見たのだが、普通に食べていた。

黒いキューブをナイフとフォークで小さく切り分け、それでもなお黒い粒子を放つ物体を普通に食べていた。

しかも美味しいと言わんばかりの表情でだ。

「お、おい…お前は平気なのか…?」

思わず問いかけるソラ。

「んっく…うん、これ結構美味しいよ?」

未知の物質を飲み込んで答えるサクラ。

「最初は見た目に驚いてたけど師匠が食べろって言うし…そしたら意外と美味しくて、今じゃ結構好きなんだ。」

「美味しいのか…でもこの黒い粒子みたいなのはなんとかならんのか…」

「日にちが立てば消えるらしいけど味も無くなっちゃうんだって。黒い粒子はコアに残った魔力で、熱を通すと甘くなるって師匠が言ってたかな。一応体には良いらしいよ?」

サクラは師匠と呼んでいる魔女の元で、この世界の事を割と学んでいるらしく、ソラに説明してくれた。


女子高生が普通に食べてるんだし、大人の俺がびびってるのも恥ずかしいなと思い、ソラは思い切って黒いキューブにナイフを入れる。

キューブは柔らかく、すんなり切れた。まるでチーズを切っているような感覚だった。

そして、フォークに突き刺し口に運ぶ。

黒い粒子が頬に当たるが、当たった瞬間溶けて行った。

魔力と言っていたから普通の物質じゃないと言う事だろう。

意を決して口に入れる。

黒いキューブを口の中に入れて咀嚼する。

その際発する粒子が口の中を撫でる。

すると、口いっぱいに上品な甘みが広がって行った。

黒いキューブ本体は、焼き菓子のように香ばしい風味がありサクサクと音を立てる。

ごくり、と口の中の物体を飲み込むソラ。

「普通に美味しい!?」

気が付けば驚きの声を上げていた。

「ふふ、びっくりするよね、なんか食感の良い焼き芋みたいで美味しいんだよー。」

ソラの反応を見て少し得意げなサクラ。

「でもこの世界にはもっと凄い食べ物もあるんだよー。高級品って言われてるモソロプとか…うん、あれは美味しかったけど…あまり食べたくはないな…。」

何かもっと凄い食べ物を思い出したようで、得意顔が苦笑いに変わるサクラ。

「え、モソロプ食べた事あるんですか!?羨ましいです!」

「いいな…わたしも一回しか食べたことない…」

そんなサクラを他所にゴンとルビィが食いついた。

「なんだ、そのモソ…なんとかってのはどんな食い物なんだ?」

「えっとね、ソラさんならわかってくれるとおもうんだけど…見た目はプリンなんだよね、お皿に出してカラメルが上になってる状態のプリン、わかるよね?」

「お、おう…」

ソラは容易に想像できた。ゴンとルビィはなんの事だかよくわからずに首を捻る。

「見た目がプリンで、匂いもバニラビーンズみたいな匂いがするんだ…」

「なんだ、美味そうじゃないか?それ。」

そこまで来たら普通にプリンじゃないかと思ったソラ。

だがサクラは沈痛な面持ちで首を横に振る。

「違うくて…えっと…味がね…そこまでプリンに寄せてきてるのにね…焼き肉の味なんだ…それもタレにつけてある感じの…しかも肉汁たっぷりな霜降りっぽい味の…」

「肉汁たっぷりって…」

絶句するソラ。

「美味しいですよねー!スライム系の稀少モンスター、プリエル肉なんですけど、ほんっとに獣系の肉感でジューシィなんですよー!」

「あれは、だめになる味…」

うっとりと語るゴンとルビィ。

ソラはサクラの苦い顔がよく理解できた。

まさに肉味のキャラメルとか、罰ゲーム用のドリンクみたいだなと。

今食べたダークツリーのコアなんかは未知だからまだマシだ。

人間は、知っている物と思って口に入れた時、全然違う味がしたら違和感を通り越して不快感を感じるのだ。

麦茶と思って口に含んだ麵つゆのように。

想像しただけで気持ち悪くなるソラ。

「あ、でもね」

とサクラが思い出した事を語る。

「最近、普通のプリンも師匠が持ってきてくれたんだよね。貰い物らしいんだけど。なんでも、南のザウスランドって所に天才料理人が現れたとかで。」

「へえ、天才か!すげえな、あと俺もそっちのプリンが食べたいな。」

だよねー、と笑いあうソラとサクラ。


「そういえば、オークリーでも噂になってた…見た事もない料理を次々と発明して、名声をホシイままにしてるって…」

「いいですねー、機会があったら行ってみませんか?」

「ん、まあ機会があればな…」

いつか行きたいねと言うゴンとルビィに思わず言葉が詰まるソラ。

旅に同行してくれている二人には悪いが、ソラの旅はソラが元居た場所に帰る為の旅なのだ。

「その時は私も連れてってね、ソラさん!」

サクラも一緒に行きたいと言う。

そういえばと、ふとソラは思う。

サクラこの子は元居た場所に帰りたいのだろうかと。

ソラの近代的な服装で泣いて喜ぶぐらい、元の世界が恋しいのだ。

帰りたくないはずは無いだろう。

ならば、なぜ三千世界を見通す魔女の元に未だにいるのだろうか。

魔女は、元の世界に帰る手掛かりにはならないのだろうか。

そんな不安が過り、ソラはサクラに尋ねる事ができなかった。

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