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「今、女子高生って言った…?」
薬屋に現れたセーラー服の少女、ソラは恐らく彼女が魔女の弟子、サクラだろうと確信する。
だが、あまりにも予想していなかった外見に驚いていた。
その姿はどう見ても元の世界、日本の女子高校生だったのだから。
そして、一方、セーラー服姿の少女、サクラの方もまた目の前の少女を見て目を丸くしていた。
容姿こそ、ファンタジー世界のエルフなのだが、服装がどう見ても現代の、地球で見かける服装をしていたからだ。
しかも、自分の姿を見て女子高生と言った。
高校なんて施設がないこの世界で、故にサクラも確信する。
目の前の人間が同郷の者であると。
「地球の人だあ~!」
そう叫んだサクラはソラに飛びついて抱きしめていた。
突然の抱擁に戸惑うソラ。
「お、おうなんだぁ!?」
「うう、はじめて会えたよぉ…ううぅ…」
しかも抱き着いてきたサクラが泣き始めてしまってソラの混乱は増すばかりだった。
「お、落ち着け!な!深呼吸して!」
とりあえず必死で落ち着かせようとしている。
「ああ…う…うん…」
振るえる声で返事をして、サクラはスゥーハァーと深呼吸を始めた。
時々ひくっと嗚咽が入る。
そんなサクラをなだめるべく、ソラは抱きしめられたまま、そっと背中を叩いてあげていた。
「ふぅ…ゴメンね、少し落ち着いたよ、ありがとう。」
しばらくして、ようやく落ち着いたサクラがソラから離れて言う。
「いいさ、察するにお前さんは日本人で、久々に同郷の人間に会えて取り乱したんだろ?」
ソラはとても察しの良い大人である。
最近は自分から者を言わない部下や新人が多く、気づけばそう言うスキルが身についていた。
「う、うん、そうなんだ…やっぱり君も地球から来たんだね?金髪だしアメリカ人?」
冷静になったサクラはソラを観察して言う。
「いや違うよ、この姿は俺の本当の見た目じゃないんだよ…日本人で本当はもっとガタイが良くて…ドカタのあんちゃんって言えば分かるか?そんな感じだ。」
しばらく、ソラに言われたことが飲み込めないのか首を捻るサクラ。
何度か左右に首を往復させ、必死で考えている。
まあ、いきなりこんな女の子がドカタのあんちゃんって言ってもわかんねえかとソラは苦笑いを浮かべて見守っていた。
頭を捻っていたサクラの動きがピタリと止まる。
そしてまたサクラは叫んでいた。
「ええーーーーー!?どう見ても女の子なのに?え、嘘…」
信じられない、と言ったさサクラの様子に頭をぼりぼりとかいたソラが語る。
気づけば女の子になっていた事、建築現場で働いていたおっさんであった事、元の世界に戻る方法を探している事等々。
「と、まあそんなとこだ。それでお前さん、えーと魔女の弟子のサクラって子であってるんだよな?」
「そう、だけど…えっと…その…」
一通り語り終えたソラが魔女について聞こうとするが、サクラ様子がおかしく、もじもじとして顔を赤らめている事に気が付いた。
「お、おい…どうしたんだ?」
「あの、男の人って知ったらちょっと、さっきいきなり抱き着いたのが恥ずかしくなっちゃって…それに泣いちゃうし…」えへへと語るサクラ。
ソラが聞くと、サクラは恥ずかしそうに白状した。
「ああ、そんな気にするなよ。俺は多分お前さんの親父さんぐらいのおっさんだしな。親戚のおじさんに抱き着かれたぐらいに思ってくれよ。女子高生に抱きしめられてドキドキするような歳じゃないしよ。」
気にすんな、とフォローするソラだったが、実際は表に出さないものの結構ドキドキはしていた。
ソラの今の体は小柄な少女である。中学校上がりたてと言ったぐらいで、背も低い。
それに対してサクラは平均的な女子高生、2年生ぐらいの発育である。
体感的に年上のお姉さんに抱きしめられているようで、相手を子供と思いつつもドキドキせざるを得なかった。
だが、いい歳したおっさんとしては恥ずかしい。
ううん、そうかな?そっかぁ。と納得しきれてない様子のサクラをさらに誤魔化すべく、本題に入る。
「それよりも、お前さんの師匠ってのは三千世界を見通す魔女って呼ばれてる魔女なんだよな?俺は元に戻るヒントが聞けないかと思って会いに来たんだが、会えるか?」
「あ、はい!会える…ますよ!多分師匠もソラさんの事を知ってて、同郷の者に会えたら連れてくるように言われてる…ますので!」
問題なく目的の相手に会えそうと言う事で、おお!と喜ぶソラだったがサクラはまだ後に言葉を続ける。
「ただ、あと3日後に連れて来いって言われて…ます、なんかタイミングがあるとかみたいで、私も一緒に街で時間つぶしてから来いって言ってた…ました。」
「ふむ、なんか理由があんのかな…じゃあ宿もまだあるし、観光して時間つぶすか?」
黙って様子を見ていたルビィとゴンが観光と言う言葉ですかさず
「「賛成ー!」」
と食いついた。
「えっと、私もご一緒していいかな…ですか?」
おどおどと話しかけるサクラ。
「おう、いいぞ!ところでさっきから気になってたんだがその変なしゃべり方はなんだ?」
快諾しつつ、サクラがまた様子が変になっていることを指摘するソラ。
「えっと、年上だし敬語の方がいいかなって思ってるんだですけど、なんか見た目が年下の女の子だからつい普通にしゃべっちゃいそうになって…」
「ああ、そんな事か…見た目通りに扱ってくれていいぞ、やりにくいだろ。タメ口でいい。」
「そう、そっかあ!ありがとう!」
ソラがそう言うとほっとしたサクラ。
「改めて、俺はソラ、樫林空だ。よろしくな。」
「私はソラさんの契約精霊でゴンです!」
「わたしルビィ…よろー。」
「あ、私は風吹桜、サクラです!よろしくお願いしますソラさん!」
「おう、よろしくサクラ!」
こうして、新たにサクラを加えたソラ一行は、サーキュライトの街へ繰り出すのだった。
「わしは…薬屋のゲンさんじゃ…」
残された薬屋の老人は一人でつぶやくのだった。




