-13-
旅立ちの日はいつも晴れだった。
ソラの人生において、旅立ちになる日はいつも快晴に恵まれてきた。
名前が空だから大事な日は青空味方してくれている、とお婆ちゃんが言っていた事を思い出す。
誕生日、入学、卒業、大事な日はいつもそうだ。
オークリーから旅立ちの日、今日もまた空は雲一つ無かった。
ここ、オークリーの入出国門の前には人だかりが出来ていた。
ラケルを先頭に、リリス、武器屋の夫妻、モヒカンオークの集団、冒険者ギルドや街の土建屋、宿屋、酒場、仕立て屋の店員なんかも居る。
全て、ソラがオークリーでの生活で関わってきた人たちだった。
その人々の前に少女が3人。
青いローブ、その上から胸当てを装備し、メイスを腰につけている赤毛のボサボサ髪の少女。
プリーストの冒険者、ルビィ。
黒いワンピース姿の、黒髪、黒狐耳、黒尻尾で、ふわふわ宙に浮かんでいる少女。
契約精霊、ゴン。
ホットパンツにTシャツ、そして革ジャンを羽織って世界観をぶち壊しにしているが、長い少し癖のある金髪を風になびかせるエルフの少女、ソラ。
彼女たちは今日、オークリーの国を発つ。
因みにソラの世界観ぶち壊しのファッションは全てオーダーメイドである。
革製品が驚くほど安かったので仕立て屋に革ジャンを作ってもらい、その流れで現代風ファッションも依頼して揃えたのだった。
ホットパンツはジーンズにしたかったが、仕立て屋が可愛くないからと却下した。
「もう、行っちまうんだね、あっと言う間だったねぇ…」
しみじみとラケルが語り掛ける。
ラケルとソラは最初の頃に世話になった縁もあって、よくソラと一緒に食事を共にしたりしていてそれなりに仲がよかった。
「ずっとここに住めばよかったのにー、ツマンナーイ!」
と不貞腐れているリリス。彼女もラケルと殆ど一緒にいたので、ソラと顔を合わせる機会は多くそれなりに仲は良い。
ちなみに、リリスはラケルの都合で冒険者パーティが解散になると言う事で王女ラケルの近衛兵をやる事になったらしい。
コネ入社である。
「悪いな、あと何か月かしたら勇者ってのが来ちまうし出来るだけ急ぎたかったんだ。あと、現場に無茶苦茶迷惑かけてるだろうからなあ…早く帰らないと。」
(こんだけ長い期間失踪してたらクビは間違いないだろうけど、せめて詫びは入れないとな…)
現場監督として、業務を放棄した事に責任を感じているソラ。絶対に帰らねばと決意を固くする。
「ルビィも、さみしくなるね…」
「さみしいどころじゃないよ!リリス一人になちゃうし!実家かえろっかなー!ショボーン…」
ルビィも一緒に行くと言う事で、長い間一緒に冒険者パーティを組んでいたラケルとリリスは一層さみしそうだった。
「ゴメン…でも巫女としてやる事なくなったから…わたしもあんまり勇者と関わりたくないし…」
(あと、ゴンを救ってくれた恩人だし…ずっとついてく…)
ルビィは巫女の使命が無くなった事で、勇者と関わると良くないと直感的に感じていた。
それと、ソラを恩人と思い必要以上になついていた。
「お二人は私が責任を持って守護りますので安心してくださいね!」
ゴンがドヤ顔で主張する。
ゴンは神に振り回されたり、ソラに振り回されたりと流されっぱなしではあるが、シナリオ管理や理不尽な命令が無い分ソラの元が心地よいと感じていた。
一度シナリオを破たんさせて消滅のピンチを招かれたが、忘れてしまった様子である。
「さて、ゴン!杖を出してくれ!」
ソラは一通りの人と別れの挨拶を交わし終えたので、出発の準備をする事にした。
「はーい、直ちに!」
ゴンが何も無い空間から樫の杖を取り出す。
精霊は個体ごとに亜空間持っており、そこに物や自身を収納する事ができるのだった。
平たく言えばアイテム袋である。
杖を受け取ったソラは、力を籠めて原付を召喚する。
使い終わった杖をゴンに手渡して収納してもらい、続けてゴーグル付きのヘルメットを亜空間から取り出してもらって装着した。
「馬がいらないって言ってたけどそう言う事かい。」
肩をすくめるラケル、他の面々は召喚された原付に興味深々で見つめていた。
「おう、結構スピード出るんだぜこいつ。」
そう言いながら、さらにゴンから渡された荷台を取り付ける。
ヘルメットと荷台は武器屋のドワーフ製である。
キーを回し、エンジンを点火して、原付にまたがるソラ。
荷台にルビィが座り、ゴンはソラの前を陣取った。
「それじゃ、行ってくる!」
アクセルを回して走り始める原付、その背中に向かって多くの声がかかる。
「達者でな。」
「行ってらっしゃい!」
「帰ってきてね!」
「「「あああああソラちゃあああああああん!!!!」」」
「またねー!」
その声に向かって、ソラは振り返らず、手を振って応えた。
その背中は、青い空に向かって消えて行くようだった。
10/10 リリスの今後について補足。




