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「レオン、あったわよ!」
スタジアムに、市場で買った魚を持って、いち早くスージーが戻ってくる。
「ありがとう、うん。脂が乗ってるし鮮度も申し分ない、さすがだね。」
「ん、何年も一緒にやってるからね。」
レオンがスージーの持ってきた魚を確認すると、氷魔法で作ったケースに移す。
「師匠〜クラーケンと、薬草あったっスよ!」
「こちらもありましたの!でもこのお魚、あまり人気ないですの…。それにこれは食材でもありませんの。」
続けて、シロとクラウもレオンから頼まれたものを抱えスタジアムへと戻ってきた。
「うん、こちらも問題ない。2人とも良い目になったね。」
「照れるっす〜。」「お褒めに預かり光栄ですの。」
そう言ってレオンは米を炊いていた釜から手を離し、2人の頭を撫でる。
「あとは蒸らすだけだから、先にクラウが持ってきてくれた方をやろう。」
そう言ってクラウの持ってきたモノ、巨大な魚と、大量の藁に手をかける。
「さあ、いち早く食材が揃ったようですレオン選手!しかしなんだ!?あれは藁…?まさかあれを料理しようと言うのでしょうか!」
料理が始まったことで、司会者が熱の入った実況を始める。
レオンは、地面に藁を敷き詰め、その周りにブロックで囲いを作り上げる。
「これはまさか!藁であの魚を焼こうと言うのでしょうか!?しかしレオン選手の用意した魚は血の生臭さであまり人気のないケイオではないでしょうか!食材選びを間違えたかー!?」
そんな司会者のコメントを聞き流し、レオンは巨大魚、ケイオを捌いていく。
そして、一際大きな切り身に串を刺し、藁に魔法で火をつける。
藁はあっという間に燃え上がり、大きな火柱が立ち上る。
「いくぞ!」
そう言うとレオンは串に刺したケイオを火柱に向ける。
「ああ!本当に藁の炎でケイオを焼いている!どうなってしまうのかー!」
パチパチと爆ぜる火の粉をものともせず、レオンは集中してケイオを焼き続ける。
向きを変え、全ての面に焼き上げていく。
そして、ここぞと言うタイミングで火柱からケイオを引き抜いた。
「よし、次!シロ!」
「ッス!!」
焼き上がったケイオを置くと、シロに声をかけるレオン。
シロは意図を察してクラーケンと薬草をレオンに渡す。
シロからクラーケンを受け取ったレオンは、まずクラーケンを瞬く間に薄く切り並べる。
「なんと見事な包丁さばきでしょうか!あっと言うまにクラーケンが薄く切られていっています!薄い!薄くて透けているー!」
さらにレオンはその上に薬草を並べていく。
そして、それを木製の棒で叩き始めた。
「いったいどんな調理方法なのかー!全く予想がつきません!」
「おー、なんかすげえな…昔の料理アニメみてえな事を現実にやってるなー。」
そんな呑気なことを言いながら、ソラ達はのんびりとスタジアムに戻ってきていた。
客席、審査員席、司会者、みなレオンの絶技に見惚れていたのでひっそりとした帰還であった。
一部のソラファン達が、ソラ達が戻っていることに気づき歓声を上げる。
「おや!いつの間にかソラ選手が戻ってきていました!こちらは一体どんな調理を魅せてくれるのでしょうか!」
司会者がそう言うと視線はソラに集まる。
「ま、こっちは普通にやるさ。」
そう言うと、ソラは鍋に水を張り、持ってきた食材を切り始める。
本当に普通に調理をはじめたので司会者が思わずコメントに詰まってしまう。
トントントン、ネギを刻み、豆腐を切り分け、ワカメをさっと茹でる。
「ソラ選手、なんともマイペースです!しかし、手際は悪くないぞぉー!」
これと言った見どころもなく、奇抜さもないため無難なコメントで濁す司会者。
そしてすぐさまレオンの様子の実況になっていた。
レオンは魔法や、神業の包丁さばきが会場を盛り上げていく。
ファン以外の注目が薄れる中、ソラは淡々と調理を続けるのだった。




