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最高の三皿、そのテーマでレオンは前世のことを思い出した。
前世のレオンが亡くなる直前、奇しくも全日本オスシトーナメントの決勝戦で、三皿の寿司がテーマだったのだ。
だが、結局は作ることが叶わなかった。
何故ならば決勝の前日、前世のレオンは命を落としているからだ。
全日本オスシトーナメント開催前日、決勝の為に仕込んでいた魚が停電の為、全てダメになると言う事件が起きてしまった。
しかし、前世のレオンは諦めなかった。
知り合いの漁師に頼み込み、夜の海へ自ら魚を釣りに出かけたのだ。
天候は荒れており、波が高く、視界も悪い。
そんな中、なんとかトーナメントに出せる魚を手に入れたのだが、漁船が突然のトラブルで転覆してしまい、前世のレオンはそのまま帰らぬ人となった。
(最高の三皿、今度こそ…。)
レオンは前世で果たせなかった決勝に想いを馳せる。
「どうしたの、レオン…。顔色が悪いわよ?」
幼馴染のスージーが心配そうにレオンを覗き込む。
気がつけばレオンは顔面蒼白になり、身体も震えていた。
嵐の海に投げ出された記憶が蘇り、恐怖が身体を支配していたのだ。
「ご、ごめん…緊張していたみたいだ…。」
レオンはそう言うとぎこちない笑みを作るが、あまり大丈夫に見えなかった。
「師匠、大丈夫っすよ!師匠ならパッカの野郎なんかに負けるはずないっす!」
そう言ってシロはレオンの手をぎゅっと握る。
「師匠なら負けませんの。いつもの素敵なお料理をすれば良いだけですの。」
そう言ってクラウも、レオンの空いた手をぎゅっと握る。
「あんたって時々、不安そうにする時があるわよね。」
スージーはそう言って、レオンの背中に額をつける。
「ご、ごめん…。」
「でも大丈夫よ、レオン、あんたの料理は誰にも負けないわ。それに。」
スージーはレオンを背中から強く抱きしめる。
「あたし…達がついてるんだから、気楽にやりなさいよ…。」
と小さい声でそう言った。
「うん、ありがとう、スージー…。シロも、クラウも、心配かけたね。」
そう言うレオンにもう震えはなかった。
今は暗い海ではない、この世界には彼女たちがいる。
心が温かいモノで満たされていくのを感じたレオン。
「じゃあ、みんなに頼ってもいいかな、これから言う食材を集めて欲しいんだ。」
「はいっす!」「了解ですの!」「…うん!」
(今度こそ、最高の三皿を作り上げる!)
レオンは過去を振り払い、前へと進む決心をするのだった。
「おー、なんかドラマのワンシーンみてえだな。」
一方、ソラはと言うと中継でスタジアムに投影されたレオン達の様子をお茶を飲みながらのんびりと眺めていた。
「ぐぬぬ…レオンのやつスージーと…!!!!」
そして、隣でパッカが鬼の形相になっていた。
「あー、なんか3人幼馴染っぽかったですからねー、噛ませ枠だったんですねー。」
「まあ嫌味なキャラっぽいから仕方ないような…。」
ゴンたちはパッカのその様子に、レオンをやたら敵対視していた理由を悟る。
どうやら恋慕を抱いてたスージーがレオンとくっ付いたのが心底面白く無いのだなと。
「さて、こっちも中継されてる事だし動くとしますか!」
飲み終えた湯呑みをゴンに収納してもらい、立ち上がるソラ。
「じゃあ行くぜ、市場に。」
「おや、作るものはもう決まっているのかい?」
「おう、ちょうど3品、あいつにご馳走してやるぜ。」
そう言ってソラ達は揃って市場に向かうのだった。




