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一方その頃、食堂に置き去りにされたサクラ、ルビィ、ゴンの3人は食事を終えて宿に戻ってきていた。
「残った分お持ち帰りさせて貰えて良かったですね〜。」
「結構な量あったからね、ゴンちゃんが収納してくれて助かったよ〜。」
「ん、しばらく食べるにこまらない。」
などと話しながらのほほんと過ごしていた。
ソラ一行の真の女子会である。
先ほどの食堂で貰った食べ物から、甘味やスナックのような軽食を並べて各々好きな飲み物を片手におしゃべりを続ける。
「でも遅いね、ソラさんたち。グリンさんが連れてっちゃってびっくりしたけど。」
「ん、だいた~ん…。」
「デートしてくるってグリンさんの書置きなかったらちょっとした事件だよね。」
「一応グリンさんはソラさん狙いでついてきてますからねえ…ソラさんは興味なさそうですけど。」
「可愛い女の子の見た目してるけど、やっぱりメンタルがおじさんだもんね…。」
「でもでも、ソラさんもしかしたら好みの男性がいるかもしれませんよ?」
「え!?嘘!?想像つかないよぉ…。」
「んー。ありえない。」
「でもですねえ…。」
と話題は本人たちがいないことをいい事に恋バナになっていた。
「なんと!あの料理トーナメントのダンディなおじさまをみてカッコいいって言ってたんですよ!」
「あー。そう言うこと…。多分勘違いだと思うな…。」
「でもうっとりとお髭を見てたんですよ!あれはそう言う事ですよ!」
熱く語るゴン。
だがサクラはなんとなく察していた。
(パパもああ言うお髭の似合う歳のとりかたしたかったって言ってたし多分そっちだよね)と。
中年はナイスミドルに憧れを抱きがちである。
「どっちにしろ、グリン…脈無し?」
こてんと首をかしげて話題を戻すルビィ。
「うーん、難しいですよね…イケメン王子、ただし今は美女なのでどう扱っていいか難しいと思いますよ。」
グリンは元々は爽やか系王子様だ。
その状態でさんざんアピールしてソラに拒否されているのは見ているため、恋愛対象としては無しだろうとゴンは思っていた。
「でも、今の美人さんなら結構クラっときちゃうんじゃないかな?」
「まあ、今のグリンさん魅力的ですもんね…。結構いいモノも持ってますし。」
そう言って胸の前で手をにぎにぎとするゴン。
「ん、脱ぐとすごい。」
深く頷くルビィ。
「でも気づいてるのかなあ、女の子のまま好かれたら男に戻るに戻れないんじゃないかって。」
「「あー…。」」
どう頑張っても、理想通りに行かないであろうグリンの事を思い、ため息をつく一同であった。
そんな女子会を続けていると、日が傾いてきた頃にソラとグリンが戻ってきた。
「おーい、戻ったぞ!」
「ただいま…。」
サクラたちをみてブンブンと手を振るソラ。
対して、グリンはどこか物憂げな表情を浮かべていた。
「あ、おかえりなさい…って腕組んでる!」
ソラ達の帰還に気が付いたサクラだったが、グリンの腕を抱え込むようにしているソラを見て驚きの声を上げた。
「あ、もういいか。いやあ、ナンパがウザったくてな。女子同士仲良さそうにしてたら声もかけ辛いだろって腕ひっつかんでたんだよ。」
「ああ…。」
あっさりグリンから離れるソラ。
グリンはもう終わりかと思いこの世の終わりのような表情を浮かべていた。
きっともうこんなチャンスは二度と来ないだろうとも感じていた。
それだけに、この至福の時間の終わりが何よりも辛い。
「あ、おかりなさいお二方、可愛い恰好してますね!デートは楽しめましたか?」
「あー、そうだ、とっとと着替えてな。ちょっくら着替えてくるわ!」
そう言って宿の部屋にずかずかと歩いていくソラ。
デートの余韻も何もなさそうなその仕草にグリンはさらに落ち込んだ。
「グリン、どんまい?」
そんなグリンに優しく声を掛けるルビィ。
「ああ、大丈夫だよ、十分楽しかったしね。」
ソラは微塵もデートと思っていなかったが、一緒にそれらしいことができて楽しかったのは間違いない。
グリンはそう思い立ち直る。
そう思った矢先、ソラがいつもの服装に手早く着替えて戻ってくる。
「いやー、悪いな、時間食っちまって。そうだ、サクラ、広場にタピオカドリンクがあったんだぜ!すげえよな!今度一緒に行かねえか?」
と、デートで行った場所にすぐさまサクラを誘うソラを見て再び項垂れるのだった。




