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食堂に着いて席に座るも、まだまだソラ達に一向に向けられる視線は減らなかった。
「すげえ人気だな、グリン。」
「はは…まさかこんなに声をかけられるなんてね…。」
ファン対応で既に疲れ切った様子のグリン。
「グリンさんのおかげで避難できた人がいっぱい居たもんね、あと見た目が凛々しい女騎士だから人気になるのもわかるなー。」
「次から外に出る時は変装が必要ですね…。」
「そうだね…後で服屋に寄らないとね。」
ハァと誰ともつかないため息が聞こえる。
「まあ、地元ではお忍びには慣れてるから…なんとかなるさ!」
「そういや王子様だから自分の国ならそれぐらいするか。」
気持ちを切り替えて、開き直るグリン。
それもそうかと納得するソラ。
「そんなことより、ごはんたのも…?」
お腹が空いてる様子のルビィがそう促す。
「おう、それもそうだな。」
「祝勝会だしね!」
そう言って、ソラ達はメニューを見ようとしたところにドン!とテーブルに大量の料理が持ってこられる。
「な、なんだぁ??」
困惑するソラ達。
すると店員が一言、
「あちらのお客様方からです。」
と告げる。
店員が指し示した方を見ると、手を振る大勢の人々がいた。
「騎士様ー!」「良ければ召し上がってー!」
などと言う声が聞こえる。
「はは…ありがとう…。」
グリンは手を振り返して笑顔で応えるも、内心は苦笑いである。
この国最大のイベントである料理トーナメント、そこでの大立ち回りで相当数のファンがついたようだ。
なるべく急いで服屋に行こうと心に決めたグリン達であった。
「なにはともあれ!祝杯だ!」
「「「「かんぱーい!」」」」
気を取り直して、図らずとも豪華になった食事で祝勝会兼お疲れ会を開催するソラ一行。
食事を提供してくれた人たちに感謝を述べながら飲み食いすることにした。
「にしても、もうグリンだけでも顔を隠した方がよくねえか?」
アルコールで少し頬が赤くなったソラが言う。
「そうだね、このままだとまたお店を出たところで囲まれてしまうかも知れないな。」
うーむと悩むグリン。
「ゴン、なんかない?」
ひたすら肉を食べ漁っていたゴンにルビィがそう声をかける。
「へひははみんみひほはひほほほふほは!」
「おいおい、飲み込んでから喋れよ。ゆっくり噛んでな。」
「はひ!」
と、食べていたものを飲み込んだ後、ゴンが亜空間から一枚の黒い布を取り出す。
「これ、隠密のフードなんてどうでしょうか。」
「隠密のフード?」
「はい、ルビィさんと街ブラしてた時に胡散臭い骨董屋さんから買ったんですけど、認識阻害の魔法が掛かっていてこのローブをかぶっている間はなんとなく存在感がぼんやりとするそうです。」
(うさんくせ〜!)とソラは思ったが、グリンはそれを受け取ってふわりと被って見せる。
「おお、効果ありますねー、グリンさんがそこに居るのが見えてるのに頭ではいないと認識してしまいますよ〜。」
「確かに、そんな気がしてくる…なんか気持ち悪りぃな。」
どうやら効果は本物のようで、目の前でフードを被った途端グリンに対する認識が曖昧になる。
「これは凄い!服屋に行くまでこれを貸して貰えるのかい?」
「勿論ですよ、あの魔族を1人で抑えてくださった功労者ですし差し上げてもいいぐらいです。」
ゴンはそう言うがグリンは首を横に振る。
「いや、こんな貴重なものを頂くわけにはいかないよ。ただ少しの間借りるだけにさせて貰おう。」
「おー、律儀で良いヤツだよな、グリン。」
グリンのその謙虚な様子に感心するソラ。
「じゃあ俺からなんか労いのプレゼントでもするかぁ、おじさんがなんでも欲しいもん買ってやるぜ、なんてな。」
若い女にプレゼントを贈る中年の真似をしてそんな事を言うソラ。
「おや、それは嬉しい。じゃあこの後変装する為の服でも買って貰おうかな。」
「そんなもんで良ければ買ってやるさ、なんなら俺が見立ててやるさぁ。」
ユピーと1人戦い続けた功労者であるグリンを労いたいと心から思っていたソラは軽口でそう言った。
「嬉しいね、ぜひお願いするよ。」
そう言いながら隠密のフードを被るグリン。
そして、ソラに近づいて耳元で
「2人っきりで、ね。」
と囁く。
「お、おう?」
そして、ソラの手を引き、食堂の外へと連れ出して行った。
「あ、ソラさんトイレですか〜?」
認識阻害のせいか、グリンの突然の行動はソラが1人で外に向かっているように感じられてそんな風に声をかけるゴン。
「あれ、えっとソラさんとグリンさん外に出ちゃったんだけど…いいのかな?」
「ん、まだごはんたくさんのこってるから、もったいない。」
「あー、うん。そうだね、食べれるだけ食べてから追いかけようか。服屋さんか宿屋で落ち合えるよね。」
そう言ってルビィとサクラは食事を再開するのだった。
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