-100- 焔の翼
円形のスタジアムが炎に包まれている。
建物は崩れ、人々は叫び逃げ惑う。
「こっちだ!逃げ遅れたやつはこっちに来い!サクラ、動けなくなってる人がいたらこっちまで誘導を頼む。」
「わかった!」
「ゴン、ルビィはバス…この乗り物の中に逃げてきた人を入れてくれ!」
「はい!」「ん…!」
地獄のような様相と化したザウスランド料理トーナメントの会場で、ソラたち一行は逃げ遅れた人たちをバスへと誘導していた。
「どうしてこうなっちまうんだよクソったれ!」
ソラは悪態を吐きながら元凶を睨みつける。
そこには、グリンと交戦する魔人の姿があった。
ー時は少し遡る
勝利を告げられ、客席に向かって手を振っていたソラ。
そんなソラに向けて火球が飛来する。
「危ない!」
スタジアムのどこからかそんな声が上がると、火球に気がついたソラは「あぶっ!」と叫び咄嗟に回避する。
「ぐわっ!」「ぬわー!」「キャー!」「わぁー!」「ぬぅ!」
ソラはなんとか回避したものの、火球はその向こうにいた審査員一堂に直撃してしまう。
火球の飛んで来た方向を見ると、ソラに向けて手を翳すユピーの姿があった。
「テメェ何しやがる!」
「小娘が!!!ワシの料理に勝つなどありえんね!!!」
「だからってヤケ起こしてんじゃねえ!」
「うるさいね!!!よくもワシの計画を邪魔してくれたね!!!こうなったらここに居る人間どもは皆殺しね!!!!」
激昂するユピー、その姿が次第にただの老人から異形のものへと変化していく。
目は紅く巨大になり、肌は緑、額から細長い2本のツノが伸び出した。
そして、背中から炎のような翼を広げて浮き上がる。
「おーっと!ユピー選手!まさかの魔族でしたぁ!!!逃げてくださぁい!!!!」
司会者がその様子を見て実況がてら避難を促す。
「皆殺しだと言ったはずね!」
そう言ってユピーは火球をスタジアムの出入り口全てに放つ。
火球は着弾すると爆ぜ、瓦礫が通路を塞いだ。
「こんな事をして…いったい何が目的だったんだ?」
ソラはユピーを刺激しないよう、慎重に目的を尋ねる。
「ワシの崇高な目的を知りたいのかね?冥土の土産に教えてやろうかね…!」
ユピーはそう言って一呼吸溜めて
「魔界を席巻するワシの料理で人類を文化的に支配するね!!!」
と言い放つ。
「え、マヨで?」
と言う言葉をソラは必死に飲み込んだ。
「ワシが発明したマッヨネーズには、麻薬のような中毒効果があるね…!」
「なんだと!?」
審査の際、スプーンいっぱいの炙りマヨを口にしていた為、ソラはドキりとするが…
「でもそんな感じはしねえな…?」
中毒症状など一切感じなかった。
「そう!おかしいね!審査員共も!ワシの炙りマッヨネーズを口にしたのに全く平然としているね!挙げ句に小娘の料理の方が美味いだのおかしいね!」
ユピーはそう言うと地団駄を踏んだ。
「なあ、そのマヨ…マッヨネーズの中毒効果ってのはどうなっちまうんだ?」
ユピーはおかしいと言うが、口にしたものに中毒があると聞いて不安になったソラは恐る恐る質問した。
そんな不安げの様子を見ていい気になったユピーはドヤ顔で告げる。
「よかろう、教えてやるね!魔界でワシのマッヨネーズを口にしたモノの末路を…!」
一体どんな症状があるのか、ソラは不安からか汗が滲むのを感じる。
マッヨネーズの中毒症状とはいったいなんなのか。
「ワシのマッヨネーズを食べた者は、どんな料理にもマッヨネーズをかけて食べるようになるね!!!どんな料理にでもね!!!!これがマッヨネーズの中毒効果ね!!!!」
「いやそれただのマヨラーじゃねえか!」
マヨの味が好きなあまり、ありとあらゆる食べ物にマヨをかける、確かに中毒と言えば中毒に思えるがそれは麻薬のような中毒症状とは全く別である。
「なに?マヨラー?何故かしっくりくる響きね…!」
「でもマヨの味にどハマりした奴らが何にでもかけるようになっただけで中毒症状ではねえよな…あとやっぱり調味料として使われてるじゃねえか?」
毒や麻薬ではなかった為安心したソラは思わずユピーに対して冷静なツッコミを口にしてしまう。
沈黙、何かを考え込むユピー。
「殺すね!炎と風を司る魔将ユピーの名にかけてこの場の人間…目撃者は皆殺しね!!!」
思い上がりと勘違いで、人間界の料理大会に乗り込んできたユピー。
ソラのツッコミにより、自らの状況を把握し、羞恥の余りにより殺意を高めるのだった。
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