第7話 霊者3
紅火の言葉が開戦の合図となった。
“ ファイアーボール ”
紅火と桜華の魔法が合わさり威力の上がったファイアーボールが男に向かって一直線に飛んでいく。
「希風 “風の舞 四の儀”」
桜華が霊者になった分、さらに、紅火が力を解放した分、強くなっているはずのファイアーボールは、相手の精霊魔法によって相殺された。
相殺できたため、あまり変わっていないと思い、まだまだ余裕の男はこちらに話しかけてきた。
「ずいぶん自信があるようだが、何をしたんだい?」
「正直に説明すると思っているのか?」
と、紅火の冷たい一言。
「いいや、思っていない。」
その答えに対する言葉を柔らかい口調で言う桜華。
「じゃあ、無駄なおしゃべりはやめましょう。」
「つれないね。もっと会話を楽しもうよ。」
「お前とする会話など無い。」
「やはり、余裕がないのかな?それとも、嫌われているだけかな?」
「嫌っているだけだ。」
「紅い髪の女の子はとことん俺を嫌っているみたいだね。」
「「当たり前だろ(です)。」」
“ 炎よ我に集いて敵を滅する力を今ここに 炎の剣 ”
桜華は、紅火の力を借りて精霊魔法を発動させる。
桜華の右手に炎が集まり一本の棒のような形になると、桜華が右手の炎を握りしめると炎は剣へと姿を変えた。
桜華が剣を振るうと、炎の斬撃が飛んで行く。
それを相殺しようと、男は魔法を放つ。
“ 風の舞 一の儀 ”
男は風の刃を炎の斬撃にぶつけると、風の刃は炎の斬撃の勢いを少し弱めただけで消えてしまった。
飛んでくる斬撃をどうにかかわすが、斬撃の数が多いためいくつかは掠ってしまった。
攻撃が当たったところが焼ける。
「なっ、なんで俺の魔法が負けるんだよ!精霊魔法なんだぞ!」
「あなたの魔法が私の魔法より弱かっただけでしょう。」
「桜華は魔法の才能があるからな。それに比べてお前は精霊に頼ってばかり。こんな単純な事にすら気付かないなんて、どうして精霊に好かれたのかが不思議なくらいだな。」
霊者ならば見ようと思えば、相手の魔力が自分より多いか少ないか。相手に精霊の力がついているかぐらいならわかるなである。
だが、この男は短時間で相手が成長していないと考えていたし、霊者ではないものに、自分の精霊魔法が打ち消されたため、冷静さを無くしており見る事を怠ったのだ。
精霊の力については霊者の能力が低いと弱い力は見る事ができないため、精霊の加護すら見えない事がある。また、相手の精霊の力の強いと精霊自身の力でその相手に与えている力を相当、霊者の能力が高くない限り見えなくするかともできるのである。
「何言ってんだよ。霊者ですらない君たちが俺の魔法を打ち消しているのは、ありえないだろうが。」
「精霊魔法は基本、精霊魔法同士でなければ打ち消す事は出来ないのは普通だが、精霊魔法を通常魔法に相殺されている時点で、お前は普通の霊者よりも弱いという事なんだがな。まあ、桜華の魔法の威力は普通ではないから、仕方ないと言えるかも知れんがな。」
桜華は会話をしている最中も容赦なく精霊魔法を放つ。
“ 桜の舞 桜吹雪 ”
桜の花びらの形をした小さい炎が一斉に散りゆく桜のように一気に男へと向かっていく。
とてもきれいな春の景色のようだが、攻撃力が高いため相手からすると最悪なものなのである。
それに気付いた男も少し遅れて魔法を発動させる。
“ 風の舞 二の儀 ”
風の刃でできた竜巻を生み出すと、桜華の桜吹雪にぶつける。
だが、竜巻は桜吹雪に飲み込まれて消滅した。そのままの勢いで男に桜吹雪が直撃する。
当たると炎は爆発し、掠ると切れる。
桜吹雪が消えた後、男はボロボロになっていた。
「まだ、やるつもりですか?」
「続けるなら受けて立つけど?」
「俺はまだ、負けていない。」
「そう。ならどうぞ。」
“ 風の舞 四の儀”
たくさんの風の刃が桜華を囲むように全方向から飛んでくる。
“ 桜の舞 乱れ咲き ”
六十個ほどの炎の玉が出現し、五十個ほどが男の周りに一定の感覚を置いて配置され、十個ほどが全方向から迫ってくる風の刃から桜華を守るように配置された。
“ 風よ 我を守る盾となれ エアーシールド ”
精霊魔法の中の数少ない防御魔法で、風をドーム状にして自分を覆うことで守ることの出来る魔法。
精霊の魔力も使っているため普通の魔法なら耐えることが出来る、強力な防御魔法なのである。
「 咲き誇れ! 」
桜華が命令すると、中に浮いていた炎は一斉に爆発を起こして炎の刃を飛ばした。
炎の刃により、風の刃は全て桜華に当たる事無く打ち消された。
爆発と刃の攻撃を始めは問題なく防げていたのだが、攻撃を受ける度に風が打ち消されて行き、最後の方になると風を越えて男に当たるようになっていった。
炎の刃は当たると爆発するものと、切れるものの二種類。炎の刃が当たる度に服は破れ、肌は切れ、どんどん体の傷は増えていった。
風の防御壁が壊れた時点で残っている炎の玉の数は十個ほどだったのだが、男にとっては十個であろうと脅威であった。
男は、どうにか体の表面に薄く風を纏うことで、攻撃の威力をほんの少し弱めることに成功したが、攻撃が終わった後の男は全身血まみれで、かろうじて意識を保てるくらい疲労困憊な状態だった。
それを見て、やり過ぎてしまったと感じたので、回復魔法をかけてあげた。
“ ヒール ”
そして、男の傷が全体的に塞がったのを確認すると魔法を解除した。
「動けますか?」
「ああ、回復させてくれたおかげでな。だが、攻撃してきた相手に回復させてもらうのは不思議な気持ちだな。」
「さすがにやり過ぎたと感じましたので。」
「そう感じるという事は、まだまだ余裕がありそうだな。」
「ええ、まだ紅火がいますから。それでも戦いますか?」
「いや、やめておこう。俺の攻撃魔法も打ち消されてしまったからな。」
「ならば、二度と我らに手を出さないと誓い、今すぐ立ち去るがいい。」
「わかっているさ。もちろん、君たちに手を出す事はしないよ。」
そう言って、男は走り去って行った。