第14話 契約2
『―――――――― 汝の望み 我が聞き届けた 』
「っ!?」
私が目を開け顔を上げるとそこには見たこともないくらい大きな「竜」がいた。しかも、その場所は雲の中にあるのではないかと思うほど真っ白く広い空間だった。
見たこともなければ、聞いたことも、物語の本や歴代の記録でさえ書かれていない場所だった。
ここがどこなのかわからず言葉が詰まってしまったが、儀式の途中であることを思い出し、ゆっくりと次の語を紡ぐ。
「我が望みを聞きし者よ 我は汝に契約を申し込む 我は汝に魔力を捧げ、地でのゲートとなる 汝は我に力を貸し、契約が続く限り我を守りたまえ」
『――――― 良かろう 我は汝の契約に応じる 汝と契りを結びし者 』
蒼き竜が最後の語を紡ぐと私と竜の前に1つずつ魔法陣が表れて私達を青い光が包み込んだ。光が消えると、私の陣から竜の陣へ向かって鎖が伸びて行き2つの陣を鎖が繋いだ瞬間に2つの陣と鎖は消えて、ここは真っ白な空間に戻った。
『我が主よ。これから宜しく頼む』
「ええ、こちらこそよろしく。私は、桜華。光青龍 雪刃 桜華っていうの。桜華って呼んで」
『了解した。我は、蒼星竜と呼ばれておる。名は必要とした事がない故、我にはない』
「蒼星竜?青龍ではないの?」
『我は青龍の上位種に位置している。人の世で言うと確か神獣の一柱のはずだ』
「へぇー。私は運が良かったんだ」
『?どういう意味なのだ?』
「だって、神獣に守ってもらえるんだよ?しかも、その神獣は美しく優しそうな竜なんだよ?私なんかが契約できるなんて運が良かったとしか言いようがないじゃない」
『そうか。桜華は自分の力の大きさを知らんのだな』
「ん?何の事?」
『いや、ただ褒められた事が素直に嬉しかっただけだ』
「そっか。 そう言えば、私はあなたの事をなんて呼べばいい?」
『我は別に何でもいいのだが......。 では、我に名をくれないだろうか』
「えっ、私が名前を付けるって事?」
『然様』
私は少し考えて名前を決めた。
「決めた。あなたの名前は、蒼緑 時音 雪杜」
『雪杜か。 ありがとう』
「どういたしまして。というかいまさら何だけどここはどこなの?」
『ここは我が作り出した空間だ。どこにあるかと問われれば、現実とは別の異空間にあると言える』
「精神の世界ってこと?」
『否。ここにいるのは互いに実体をもつ本物だ。』
「ここにもう一度来ることはできる?」
『出来る。桜華と何らかの契約したもののみと言う条件はあるが、その条件を満たして居れば誰でも我と念話をすること、この空間に来ることが可能だ』
「この空間と現実とは時間の進み方は違うの?」
『基本的には我しだいで変更が可能だ、今いるこの空間だと現実と全く変わらんようになってるぞ』
「じゃあ、あなたを召喚するときはどれくらいの大きさになるの?」
『詠唱によって大きさを変えることもできるし、我の下位種である青龍を呼ぶこともできる。普通に呼べば通常と同じ、まあ、今と同じ大きさになるな』
「まだまだ聞きたい事はあるんだけどそろそろ戻らないと紅火が心配するから戻るね」
『わかった。我の情報をまとめて桜華に届けよう。他に知りたい事があればいつでも我に聞くといい。』
「?えっと、また聞きに来るよ」
『ああ、待っているよ。さあ、この扉を進むんだ。』
「うん。またね。今日は私なんかと契約してくれて本当にありがとう」
そう言って私は扉を開いてその中へと進んだ。
『もっと自分に自信を持て。我が初めて選んだ主なのだから。』
ふと、目を開けるとそこは真っ白い空間ではなく祭殿だった。祭殿は私の染め上げた青色から元の色に戻っていた。はたして、どれぐらいの間、彼のもとにいたのだろうか。 私の中にまだ聞いていないはずの雪杜に関する情報が一気に頭の中に送り込まれる。それは、紅火と契約した時に送られてきた精霊魔法の知識のようだが、それとは段違いの量が詰め込まれていく。呼びだし方や得意魔法、属性など様々な情報が凝縮され大量に詰まっている。知りたい事をたくさん知ることもできたが、その反面。多すぎる情報によって頭がクラクラする。
「桜華!儀式は成功したのね」
「そうだよ。紅火、私はどれくらいの間いなかったの?」
「んー。正しいかはわからないけど、多分長くても10分くらいだと思う。」
「そうなんだ。じゃあ、そろそろ家に戻らないとね」
山を下り、家に戻るともう空はオレンジ色に染まっていた。庭ではフリーエルが私たちの事を待っていた。
「お帰りなさいませ」
「ただいま」
「桜華様。深紅様たちがお待ちしております」
「召喚獣が何かを実際に見たいということかな?」
「さあな。私は知らんが、召喚獣は見てみたいものだ」
「んー。今は無理かな。魔力が足りなさそう」
「そうか....。?なら仕方ないな」
「桜華様、そろそろ着替えに行きませんと、深紅様たちを待たせてしまいますよ」
「そうね」
家に入り部屋でフリーエルに選んでもらったドレスを着た。今日のドレスはいつものものとは違い、シンプルで可愛いものではなく、レースやリボン、布で作られた花などで飾られた綺麗な蒼のドレス。薄紫の髪は結わずにおろしており、髪飾りとして緑と黄色の花を交互にならべた形のバレッタを付けた。
いつものようにフリーエルに先導されて家族の待つ食堂へと向かい、食堂の前の扉をコンコンッとノックしてから「桜華様をお連れしましたと」いってから扉を開いた。
すると、水系統魔法と光系統魔法が一斉に同じ数ずつ放たれて扉の近くでぶつかり合い、細かくなった水と光がキラキラと輝いた。
「「「「「「桜華(お姉ちゃん)誕生日おめでとう!」」」」」
食堂は様々なもので飾られており、テーブルの上には豪華な料理と私の好きな食べ物がたくさん並んでいた。お父様たちは並んでこちらを向き、使用人たちは壁際で拍手をしていた。弟の星璃は走ってこちらにやって来て「お姉ちゃんこっち」と私の手を引いて真ん中の席へと連れて来てくれた。
私の誕生日の事なんて全く気にしている様子がなかったため、このサプライズはとても嬉しかった。
「ありがとう」
「さっ、お姉ちゃん食べよう。僕、お腹空いた」
「そうだね。私もお腹ペコペコ、食べよっか」
「では、みんな席について先にご飯にしよう」
お父様がそう言うと全員がそれぞれの席に座り挨拶をしてから各自ご飯を食べ始める。
全員がご飯を食べ終わったところでデザートのバースデーケーキが運ばれてきた。二段の大きなケーキで下の段がチョコレートケーキで、上の段が普通のショートケーキになっていた。もちろん飾りはとても豪華なもので一つ一つの飾りが繊細で美しかった。味は甘すぎず苦すぎずで、程よい感じになっておりとてもおいしかった。
デザートまで食べ終わり挨拶をすると、使用人たちが全ての食器を片づけて行く。お父様たちは私のもとにやって来てた。私は、立ちあがりみんなの方を向く。お姉様とお母様が同時に魔法を解いた。するとそれぞれの手に包装されたものを持っていた。
最初に話しかけて来たのはお母様だった。
「桜華。これは、私からの誕生日プレゼントです」
「これは、俺からのプレゼント」
「これは私からの」
「こっちは僕からのだよ!」
「これは私からのだ」
「ありがとうございます。開けても良い?」
「もちろんだ」
私は一つずつプレゼントを開けていく。
お母様からは、可愛らしさはあるもののリボンなどの装飾はなく、端の方に少しだけ黒いレースがついてるタイプの白色のベル・スリーブドレスだった。
空季お兄様からは、リボンとレースの付いた黒いハイヒール。
優蘭お姉様からは、クローバー型の青いサファイアのイヤリングと水色の布をベースとしていていくつかエメラルドのついたリボンのブレスレット。
弟の星璃からは、黒いリボン2本と水色の花の髪飾り。
お父様からは、精霊と魔法の本を各一冊とあまり装飾の付いていないミスリルの短剣、きれいに加工された白い竜骨でできた杖。
お父様が言うには、霊者は杖を持つ事が多いし、護身用としてどこにでも持っていけるように短剣にしたそうだ。
「桜華。少し話があるんだ。聞いてくれるか?」
「はい」
使用人たちは、今受け取ったプレゼントを素早く回収し(弟の星璃は寝る時間なので一緒に回収)、それぞれの席に紅茶を用意する。
そして、席に座ったお父様は紅茶を一口飲んでから話し始めた。
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