第9話 紅火の話
「そうか、お前はもう霊者になったのだな。しかも、普通では出会えない最高位精霊とか」
今まで黙っていた紅火が訂正をした。
「悪いが私は帝王級精霊だ」
バンッとお兄様が両手で力強く机をたたいて立あろうちあがった。
「どういう事だ。帝王精霊は伝説の中に存在する精霊だぞ!」
「お前らの中では、だろう?」
「ああ、そうだが...」
「それでも、おかしい。伝説でしか伝えられていない、契約者がいた記録も出現した記録も目撃した記録すらない。というところか?」
「その通りだ。存在しているのなら目撃した記録がないのはおかしいだろう」
「その発想はいいのだが、少し知識が足りないか。まあいい、とりあえず座れ。」
お兄様は紅火に言われたとおりにイスに座りなおした。
「では、なぜ『神』ではなく、『精霊』として伝説になっているのだと思う?」
「それは、神の力を借り操る事ができる者が精霊だというのを伝えるためでは?」
「近いが間違いだ。じゃあ、説明してやる。精霊は下から順に、低級精霊、下級精霊、中級精霊、上位精霊、高位精霊、最高位精霊、帝位精霊、となっている。ここまではいいか?」
「まってくれ、帝位精霊とはなんだ」
「それが、私のような帝王級精霊の分類だ。最高位精霊の上に位置する精霊で、お前らの伝説にある帝王精霊の事だ」
「...わかった。つづけてくれ」
「帝位精霊は二種類存在する。帝王級精霊と神話級精霊だ。この二つに分かれているからこそ伝説の存在として帝王精霊が書かれているのだ」
「いや、あまり理解が出来ないのだが、」
私も意見を行ってみる事にする。
「お兄様、それは、神話級という方が神として、帝王級というのが精霊として伝説に描かれたからではないのでしょうか。」
「ああ、なるほどな」
「その通りだ。さすがは桜華だな」
お兄様は理解が出来たみたい。それに、正しい答えにたどり着いた事に紅火も満足そうにうなずく。
「それで、私というか、帝王級精霊が存在するという事を説明していたんだよな」
「ああ、そうだけど」
「お前らは、『神』または、『神話級精霊』を見た事はあるのか?」
「あるわけがないだろう。神なんて人が作った妄想だ」
「そうか....。この家系は召喚魔法の使い手であろう?」
「ああ、我が血筋、光青龍家は召喚魔法の使い手だ」
お父様が肯定する。
「なのに分からないのか。知識のせいなのか血が薄まっているのかはわからんが、今は誰もが理解していないのだな」
「多分、血の濃さにばらつきが出て来たのと、偏った考え方の二つの理由だとは思うよ」
と、私は紅火に伝えた。
「なるほどな。時の流れによるものか...。では、ドラゴンや、世界樹は見たことがあるか?」
「あるぞ、ドラゴンは中級くらいのものなら、世界樹は実際に見たものはほとんどいないが、存在するものとして、とても有名なものだ」
「じゃあ、竜王が存在することくらい知っているよな」
「もちろんだ。それくらいは当たり前だ」
「竜王や最高位に値するドラゴンの一部は姿を変えた帝王級精霊だったりする。また、世界樹は神の方に近しいものまた、神そのものだと考えられる。それに、帝王級精霊には私のように人間に姿を変えて過ごしているものもいるのだ」
「なるほどな、確証はないがありえなくもない話だな」
「まあ、今のところはそういう考え方もあるのだという事を知っていてくれればそれでいい」
「では、今の段階で帝王級精霊だという証明はできないのか」
「いちばん簡単なのは、最高位精霊をいっぺんに何体も倒す。という事だからな、今は不可能だ」
「それは、無理だな。だが、よい話が聞けた」
「そうか、まだまだいろいろな話題で話してみるのも面白いかもだな」
「そうだな。だが、今日はこれくらいにしておこうでは、昼食にしよう。せっかく全員が集まっているのだから」
「そうですわね」
お父様の意見に笑顔で賛成するお母様。他のみんなも異論はないようです。
それぞれの侍女や、執事は「お食事のご用意をしてきます。」と言って厨房の方へと向かっていく。
そこからは、和気藹藹とした家族の会話が繰り広げられて行った。少し経つと紅火もその雰囲気に慣れて来たのかどんどん会話に入って来て徐々に家族のみんなと仲良くなっていったのだった。大体二十分くらいたったところだろうか。それくらいの時に使用人たちが昼食を運んで来た。
メニューは、野菜たっぷりポトフに、チーズリゾット、アイスティーだった。
夕食も朝食も食べていなかった私はお腹がペコペコだった。
「お待たせいたしました。そうぞ、お召し上がりください」
「「「「「「「いただきます」」」」」」」
みんなで会話をしながら食べたご飯はとてもおいしかった。ポトフは、野菜のうまみが溶け込んでいて素材の味が生きており、チーズリゾットはお米の硬さと、塩加減がちょうどよくておいしい。
何というか懐かしい感じがした。家族が全員そろってご飯を食べる事があまりなかったからかもしれない。新しい家族の紅火と一緒の食事は懐かしいようで新鮮な、そんな不思議な感じがした。




