表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
99/101

第98話

 核を手に入れたクラウドたちはすぐに魔界へ向かった。霤碧(りゅうい)の部屋には、咫嘶(しせい)霙颯(ようぜん)鴟窺(しぎ)惟僞(きぎし)そして見知らぬ黒髪の男が一人。咫嘶(しせい)の横に粛然と控えているところをみると、王族と深い関係がある者か。


 カズキがナシュマに核を渡した。


「どう?」


「おう、これなら大丈夫そうだ。よく見つけて来たな」


「良かった。ライがね、手を貸してくれたそうだよ」


「なるほど、さすがはライシュルトだ。持つべきものはいい仲間だな」


「どうでもいいけど、早くやってよナシュマ」


「はいはい。んじゃ鴟窺(しぎ)惟僞(きぎし)、始めようぜ」


 クラウドはカズキを抱く腕に力を込める。


 ナシュマの手を離れて核が宙に浮いた。ふわふわと、月色の淡い光を放つ。三人が霤碧(りゅうい)のベッドを囲うように位置し、床に手をついた。


「三の方円、二の列、十三、十七、四十一、五十九」


「十一の方円、三の列、六十七、七十三、八十三、九十七……」


 ナシュマや鴟窺(しぎ)らが何かを口にすると、彼らの手から無数の小さく赤い粒が浮遊し、外へと飛散していく。いくつかは床に吸い込まれ、核と同じく月色に光った。


「クラウド……」


「大丈夫だ。ナシュマ達を信じよう」


 赤い粒が浮かぶ部屋は一種の異世界にも思える光景だった。


 時は静かに流れていく。


 それは長く長く続いた。三つあった月も今は一つだけだ。空は赤から闇へ引き継がれた。


 彼らの額から汗が流れる。


「四十七の方円、六十一の列……」


 核が、今度は太陽のように強い光熱を纏った。螺旋状に変化した光が天へと昇っていく。黒く。白く。明滅を繰り返す。低音の美しい音色が響いた。杯へと番人が引き継がれた際に聞いた音と似ているか。クラウドはカズキの肩を撫でる。


 次第に音色が遠ざかり、やがて核と共に消えた。ナシュマたちは動かなかった。


 暖かな風が部屋を抜けた。それにいち早く気づいたのは、やはり咫嘶(しせい)であった。ゆるやかに、静かに、霤碧(りゅうい)が目を開ける。


「クラウド、カズキ」


 ナシュマがこちらを振り向き、笑顔で親指を立てたのを見て、二人は顔を見合わせて安堵の息を吐く。


霤碧(りゅうい)! 霤碧(りゅうい)!! 良かった!」


「父様、碾氷(うすひ)さん? それに皆も……何があったのですか?」


「覚えておらぬか……いや、良い。目覚めてくれて、私は……」


 咫嘶(しせい)が声を詰まらせて泣いた。霤碧(りゅうい)を抱きしめる腕が震えている。誰よりも嬉しいのは咫嘶(しせい)だ。


「皆すまないが席を外してくれないか?」


 咫嘶(しせい)霤碧(りゅうい)そして碾氷(うすひ)と呼ばれた男を残して、皆は謁見室へ戻った。霙颯(ようぜん)霤碧(りゅうい)の目覚めを知らせると、誰もが歓喜した。彼がどれほど慕われていたのかが窺い知れる。


「良かったね、クラウド。ナシュマもさ、やや見直したよ」


「ややって……俺相当頑張ったぞー」


「そうなの? ところでさ、どうやって霤碧(りゅうい)を助けたのさ」


「ああ、確かに知りたいね」


「んー。簡単に言えば王子サマと結界の継ぎ目を一つずつ浄化して、そこに核の力を転換して同調させたんだ」


「浄化?」


「ああ。ソギの呪いを解いた特効薬あったからな」


「ソギの? あれは……」


 呪いを解いたのはミサキの血。何故ナシュマが持っていたのか。訝しい顔をしてしまったようで、ナシュマが苦笑いをする。


「あーそりゃ不思議だよな。あのな、ヨミ村行った時に俺にも効くかもってミサキがくれたんだ。まぁ俺はちょいと特殊だったみたいで、残念ながら効かなかったけどな。残ったの勿体ないから保存しておいたんだ。こんなところで役に立つとは思わなかったが、あの子には大感謝だな」


「血ぃ? そんな長い期間保存できることにボクびっくりだよ。ってかさ、ミサキの血なら透明なんじゃないの? さっきの赤かったよね」


「おう。視覚的に分かりやすくした」


 ナシュマが声をひそめて続けた。


「ミサキのこと魔界には知られたくなくてな。純粋な魔族といえど、人間界の子だ。存在を隠して魔界から干渉されないように、特殊な人間の血ってごまかした」


「なるほど。ナシュマと共にミサキは影の立役者だね。向こうに戻ったらお礼言わないとな」


「だな」


「ナシュマ、継ぎ目って何箇所あったの? 球体の数かなりあったけど」


「全部でニ百四十六箇所だ。全部探すの大変だったんだぜ。な、俺頑張ったろー」


「ニ百……」


「ま、俺の魔力じゃ高が知れてるから、施術の大半は鴟窺(しぎ)惟僞(きぎし)がやったけどな。アイツらさすがだわ、半端ねぇ」


 少し楽しそうにナシュマが言った。


 その夜、牢にいたヨハンたちを含め部屋が与えられる。明日には全てが終わるはずだ。そう思いながらクラウドはカズキを腕に抱き、安息の夜を過ごした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ